記憶の旋律
何か言葉が浮かぶ時は、 音楽がどこかで鳴っている感じがする。 それは、いつか聴いた曲のような、 もしかしたら、これから聴くことのある曲かもしれない。 そして、それは耳に聞こえる旋律ではなく…
数年前、闘病生活の頃にも 辛い身体と心を、まるで癒すかのように どこからか旋律が聞こえて来るのを感じた。 それはガラスを打つような澄んだ音色で、 水底から空気の粒がゆうるりと浮きあがり弾けるようなリズム…
当時の私は病の急速な進行に悲観的になりがちで、 その旋律の楽曲を探し当てたら葬送曲にしよう、などと考えていた。 そうして、日々雑多に紛れ暮らすうちに 音をうるさく思い、音楽すら遠ざけていた私が、 再び巷に流れる音楽にも耳を傾けるようになった。
あのガラスを打つような澄んだ音色の旋律は、 諦めを纏い弱まるばかりの心根を 時間の矢の、先へ先へと引き寄せてくれていたように思う。
そして、詩うことも忘れていた私だけど、 その旋律に促されるように再び詩い始めていた。 それは、挫けないよう自身を鼓舞する作用をもたらしたと思う。
あの旋律と思う、それらしき楽曲は未だみつからない。 蘇生した今は葬送曲にしようなどと考えてはいないが、 まだ、探し続けている。
No.041014
|
|