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作品名:静夜想詞 作者:鳴瀬羽迦

第1回   記憶の旋律
記憶の旋律




何か言葉が浮かぶ時は、
音楽がどこかで鳴っている感じがする。
それは、いつか聴いた曲のような、
もしかしたら、これから聴くことのある曲かもしれない。
そして、それは耳に聞こえる旋律ではなく…



数年前、闘病生活の頃にも
辛い身体と心を、まるで癒すかのように
どこからか旋律が聞こえて来るのを感じた。
それはガラスを打つような澄んだ音色で、
水底から空気の粒がゆうるりと浮きあがり弾けるようなリズム…



当時の私は病の急速な進行に悲観的になりがちで、
その旋律の楽曲を探し当てたら葬送曲にしよう、などと考えていた。
そうして、日々雑多に紛れ暮らすうちに
音をうるさく思い、音楽すら遠ざけていた私が、
再び巷に流れる音楽にも耳を傾けるようになった。



あのガラスを打つような澄んだ音色の旋律は、
諦めを纏い弱まるばかりの心根を
時間の矢の、先へ先へと引き寄せてくれていたように思う。



そして、詩うことも忘れていた私だけど、
その旋律に促されるように再び詩い始めていた。
それは、挫けないよう自身を鼓舞する作用をもたらしたと思う。



あの旋律と思う、それらしき楽曲は未だみつからない。
蘇生した今は葬送曲にしようなどと考えてはいないが、
まだ、探し続けている。






No.041014


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