元地上6階。浴槽のふたを開ける。目の前に廃墟と化した、自分の部屋があった。下手に動きたくはない。ここでじっくりと待とう。浴槽のふたの上にがれきがあり、布団がそれによる衝撃を抑えていたようだ。
それから大体一時間経っただろうか。遠くから聞こえる。じっくりと耳を澄ますと、どうもこれは黒神の声と分かった。気がした。とにかく人がいれば助かるかもしれない。声がするほうに向ってみる。上の方へ大きながれきを使って登る。難しいが何とかなった。最初からここは脱出できたのではと思ったが、少ししてからがれきが減って登れなくなる。この時点で声が正確に分かる。少し驚いたが黒神の声だ。 「渡辺ー。生きているかー。やっぱ風呂場は少し違ったか」とのんきな声が聞こえる。何十人も住んでいるここで俺を限定するのは、あいつがレスキュー隊では無いからか。いくつか疑問があるが、後で聞こう。 「生きている」3m近くの上に向かって叫ぶ。 「登ってこい」 「残念ながら登れない」というと、上で何か掘る様な音がし、ロープが降ってきた。 「ここから出て一番やりたい事は?」 自分の体を見ましてから「風呂」と言った。
まだ遠くでサイレンが聞こえる。野次馬がどんどん自分とは反対方向に走っていく。ここで走れば、誰かに怪しまれるだろう。歩いていても怪しむだろうか。少ししてから、向かい風の様な野次馬はおさまる。ここで一番近いアジトはどこか考えてから、バスに乗る。一番近いアジトはこの街の中にあるのは、少し危ないかもしれない。あのマンションからたどってアジトがばれる事もあり得る。これはいつも以上に慎重に。石橋を叩いて渡らなければならない。油断大敵。警察も大敵。詐欺師という仕事上敵は多い。
バスのなかでは大して影響が無かった。腕時計に目をやる。今は約9時だから最終便には余裕で間に合う。バスの中で状況整理をする。緊急事態はこれをしないと落ち着かないからだ。あのマンションは燃えていなかった。崩落した衝撃で火が消えたのか、そもそも熱風の無い爆発だったのか。もし熱風があっても強くはない。柱を集中的にすればうまくいくだろうか。そして誰が、何のために。手口はどうだろう?明らかに情報が少なかった。
|
|