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作品名:メイドロボット vs ニンジャ 作者:ヒルナギ

第14回   其の十四
百鬼は刀を研く手を止める。
携帯電話を取り出した。
操作をし、メールを確認する。
百鬼は立ち上がると、四門の手足を拘束していたワイヤーを外した。
四門は立ち上がり、百鬼に目で問いかける。
「あんたを解放する。まず、電話をしてあんたの部下に解放されたことを知らせてくれ」
四門は溜息をつく。
どうやら、身代金を払う決断に追い込まれたらしい。
「時間があまりない。命が惜しければ手早く話を終わらせることだ」
四門は携帯電話を取り出すと、花世木をコールする。
「社長」
花世木はかなり憔悴した声を出す。
話をしたかったが、目の前に百鬼のいる状態で多くを語るわけにもいかない。
「解放された、金を払ってくれ」
「判りました」
要件だけを伝え終わると電話を切る。
「さあ、急ぐことだ。もうすぐここは破壊されるぜ」
「なんだって」
百鬼は、出口を指差す。
「廊下の突き当たりにビルの外部にある非常用階段へ出れる扉がある。そこから出ろ。そこにとなりのビルへ移れるようにラダーを用意してある」
「判った」
「運がよければ、生き延びれる。急げ」
四門は、廊下へ出ると走る。
突き当たりにある非常口を開けると、非常階段の踊り場へ出た。
扉を閉めたとたん、轟音が立て続けに起きる。
目の前にラダーがあった。
それを使い、隣のビルの非常階段へと移動する。
さっきまで四門のいたビルは、炎と黒煙に包まれていた。
それはこの世が終わる景色であるかのように、暗い空に向かって灰と煙を噴き上げてゆく。
再び轟音と火柱があがる。
四門は急いで隣のビルへと入ってゆく。

ボカノウスキーは、焔につつまれたビルを見つめる。
大佐は、カラシニコフを構えビルからニンジャボーイが出てくるのを待ち構えていた。
やれやれと思う。
たかが一人の日本刀を武器にしたニンジャであれば、なんとでもやりようがありそうだと思う。
ボカノウスキーは咥え煙草でさらにRPGがビルへ撃ち込まれるのを見る。
さすがにこれでは、警察も黙っていられないだろう。
この島の警察くらい恐れるほどのものではないが、ビジネスをこの国で続けるのはもう無理だ。
(いい国だったんだが)
ボカノウスキーが溜息をつき、煙草の煙を吐いた。
「シモンが脱出しましたよ」
赤外線カメラからの映像をノートパソコンで監視していたヴォルグが報告する。
大佐は吐き出すように言った。
「そんなものほっとけ」
大佐は苛立っているようだ。
「ニンジャボーイは、なぜ出てこない。自殺する気か」
ふと、何かを感じボカノウスキーは空を見上げる。
「あきれたな」
ボカノウスキーは、煙草を吐き捨てた。
黒煙の隙間から影が見える。
パラグライダーのようだ。
「大佐、やつは自殺するつもりらしいぜ」
ボカノウスキーは空を指差した。
大佐も空を見上げる。
うめき声をあげた。
「ライトをあてろ!」
ビルに向けられていたライトが空に向けられる。
そこに浮かび上がったのは、パラグライダーを漆黒の翼のように広げた、闇色の影のような男であった。
手には日本刀を持っている。
ライトの光を浴び、冬の三日月がごとく日本刀が冷めた輝きを放つ。
大きな翼を広げた黒い鳥というよりは、それはおとぎ話に登場する悪魔のような姿であった。
「気に入らないな」
大佐は唾を吐くと、カラシニコフをかまえる。
ボカノウスキーもカラシニコフを肩付けした。
「撃つか?」
大佐は、目で制する。
「もう少し待て。やつは降下してきてやがる。ふざけやがって」
「思ったほど、風がなかったんでしょうね」
ヴォルグが呟くように言った。
なんにしても、空にいては逃げようがない。
もう少しで射程内に入ってくる。
ボカノウスキーは奇妙な違和感を感じた。
日本刀が奇妙な輝きを放っている。
まるで、高速で点滅しているような、キラキラと瞬いている感じ。
それが次第に火花を放っているように見えてくる。
視界が暗くなり、ニンジャの姿が次第に小さくなってゆく。
ボカノウスキーは危険を感じて目を閉じた。
脳に衝撃が走り、意識が闇に飲み込まれる。
水の底から浮上するように、意識を取り戻した。
何がおこったのか判らない。
視力は戻ったが、身体を動かすことができなかった。
全身が氷づけにされたようだ。
他のものも同様に動けないようであり、皆空へ銃を向けた状態で立ちすくんでいる。
あたかも、時間が止まり全てが結晶化したようだ。
ひとびとは人形化して固まっている。
そして、闇色の悪魔は地に降り立っていた。
その動きは速い。
日本刀を男たちの首筋に一瞬あてる。
血が噴き出し、倒れてゆく。
歩きながら一瞬にして、首の頚動脈を裂いていた。
ひとりに数秒しかかかっていない。
ボカノウスキーは、脳の中のスイッチを入れる。
動きそうだが、不完全だ。
大佐も頚動脈を裂かれ、地に堕ちる。
ヴォルクも血の中に沈んでいた。
ボカノウスキーが最後になるらしい。
ニンジャが後、数メートルとなったところでボカノウスキーはカラシニコフを撃つ。
フルオートで弾幕をはる。
掻き消すように、ニンジャの姿が消えた。
一瞬、視界の片隅に光が走る。
カラシニコフをそちらに向けた。
影のような男が視界に入る。
引き金をひこうとしたが、力が入らない。
地面に血が広がってゆく。
それが自分の血であることに気がつくのに、しばらくかかった。
ボカノウスキーもまた、頚動脈を裂かれていた。
意識が闇に飲み込まれてゆく。
目の前にいる影のような男に笑みを投げかける。
(地獄でまたあおうぜ、ニンジャボーイ)
その言葉を発したつまりだったが、それもまた闇に飲み込まれていった。


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