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作品名:メイドロボット vs ニンジャ 作者:ヒルナギ

第13回   其の十三
ディスプレイを見つめていたヴォルグが溜息をつく。
「動きがとまりましたね」
大佐が獣じみた笑みを見せる。
「やられたか、王のやつ」
「おそらくは。動いているのは二人分の熱源だけですから」
「おい」
花世木は、大佐に声をかける。
「どうするんだ、いい加減待てないぞ」
「そういうな」
大佐は、笑みを浮かべたまま花世木の後を指差す。
「ようやく、ボカノウスキーが到着だ」
軍用トラックが2台、到着する。
トラックから降りた金髪で長身の男が、大佐の元へ歩み寄った。
「よう、ボカノウスキー。遅いぞ」
金髪の男は、青い瞳を眠たげに曇らせる。
その顔立ちは、恋愛映画の主人公のように甘く整っていた。
「大佐、あんたに言われたものを持ってきたが」
トラックから男たちが降りてくる。
大きな重火器と、長い槍のようなロケットランチャーを持って。
「正気か、あんた。この街中であんなもの使うとは」
「当然だ、ボカノウスキー」
ボカノウスキーは、恋人に囁くように甘い口調で言った。
「もうこの街を捨てるのか。まあ、あんたには合わなかったんだろうが」
「ごたくはいいから、さっさと用意しろ」
「おい」
花世木が怒声をあげる。
「なんだよあれは。RPGじゃないのか」
「よく知ってるな、RPG9だ」
大佐は平然と言ってのける。
4台の銃機関銃と、3機のRPG9が配置されていった。
コンバットスーツの男たちが、弾薬とミサイルをトラックから運び出す。
サーチライトも設置され、小型発電機に接続されてゆく。
「ふざけるな。相手はひとりのニンジャだろうが。これでは戦争だ」
「はじめから戦争だよ」
大佐はふてぶてしい笑みを浮かべ、煙草に火をつける。
「ただ、これはあんたたちの戦争ではなく、あたしたちの戦争になった」
「何をする気だ」
「MD1の戦力は戦闘ヘリ一機分に相当する。ニンジャボーイはそれを上回る戦力を持つならそれ相応の対応をするさ」
大佐は、獲物を前にした虎の瞳で花世木を見る。
「この街を瓦礫の山に変えてやるよ。ボスニアやチェチェンみたいにな」
「おい待てよ、大佐」
花世木は、大佐に歩みよろうとして携帯電話が鳴っていることに気がつく。
「ねぇ、花世木ちゃん。あんたじらしすぎ」
電話は真理谷からのものだった。
「もう待てないって。あんたも限界でしょ」
「判った」
選択の余地は既に無くなっていた。
ここで金を払わなければ、ニンジャもろとも四門は殺される。
せめてそれは避けたかった。
「どうすればいい」
「これから言う口座に3億振り込んで。入金がオンラインで確認できたら、悪魔くんには撤収してもらうから。あんたのとこの社長は、あんたのとこで回収しなよ」
「おまえをどうやって信用すればいい? 解放されるという保証は?」
「無理だわそれは。信じてもらうしかないけど」
「ふざけるな、それで3億も払えるか」
「じゃあ、先に解放してあげる。一度電話切るよ。あんたの社長からの電話を確認しなよ。でも、もし3億を5分以内に払わ無かったら殺すから」
電話が切れる。
すぐにコールがきた。
四門からだ。
「社長」
「解放された、金を払ってくれ」
意外と冷静で落ち着いた声だ。
花世木は信じてみるしかないと判断する。
「判りました」
すぐ、電話が切れる。
また、コールだ。
「今ので限界。これで信じられなきゃ、あんたおしまいよ」
「判った、ちょっと待ってろ」
花世木は黒服にノートパソコンを持ってこさせる。
銀行の24時間オンラインサービスのサイトへアクセスした。
指定された口座へ金を移動させていく。
処理が完了したポップが表示される。
「オッケー。あんたとの社長は解放する。ただ、回収は自分でなんとかしなよ」
「ああ」
「ねえ」
真理谷は、暗く静かな声で語る。
「絶望は味わえたかな?」
「うんざりするほどな」
「そう。でも残念なからまだ、それは始まったところよ」
「くそでもくらえ、馬鹿やろう」
真理谷はけたたましく笑う。
花世木は舌打ちして、電話を切った。
そのとき、爆発音が響く。
地面が震えた。
サーチライトに照らされたビルは紅蓮の炎を窓から噴き出している。
RPGを撃ったようだ。
花世木は叫ぶ。
「おい、待ってくれ。まだ社長が中に」
大佐は振り向くと、無造作に拳銃を撃った。
弾丸は花世木の耳をかすめる。
血がしぶき、花世木は悲鳴をあげしゃがみ込む。
「がたがたうるせぇ」
大佐はものを見る目で花世木を見ていた。
「せめてものアフターサービスだ。5分だけ待ってやるからその間に失せろ。その後もまだあたしたちの前をウロチョロしてたら、撃つよ」
「花世木さん」
黒服が花世木の腕をとりたたせる。
花世木はビルが黒煙と紅い焔に侵されていくのを見ながら、その場からはなれてゆく。


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