ディスプレイを見つめていたヴォルグが溜息をつく。 「動きがとまりましたね」 大佐が獣じみた笑みを見せる。 「やられたか、王のやつ」 「おそらくは。動いているのは二人分の熱源だけですから」 「おい」 花世木は、大佐に声をかける。 「どうするんだ、いい加減待てないぞ」 「そういうな」 大佐は、笑みを浮かべたまま花世木の後を指差す。 「ようやく、ボカノウスキーが到着だ」 軍用トラックが2台、到着する。 トラックから降りた金髪で長身の男が、大佐の元へ歩み寄った。 「よう、ボカノウスキー。遅いぞ」 金髪の男は、青い瞳を眠たげに曇らせる。 その顔立ちは、恋愛映画の主人公のように甘く整っていた。 「大佐、あんたに言われたものを持ってきたが」 トラックから男たちが降りてくる。 大きな重火器と、長い槍のようなロケットランチャーを持って。 「正気か、あんた。この街中であんなもの使うとは」 「当然だ、ボカノウスキー」 ボカノウスキーは、恋人に囁くように甘い口調で言った。 「もうこの街を捨てるのか。まあ、あんたには合わなかったんだろうが」 「ごたくはいいから、さっさと用意しろ」 「おい」 花世木が怒声をあげる。 「なんだよあれは。RPGじゃないのか」 「よく知ってるな、RPG9だ」 大佐は平然と言ってのける。 4台の銃機関銃と、3機のRPG9が配置されていった。 コンバットスーツの男たちが、弾薬とミサイルをトラックから運び出す。 サーチライトも設置され、小型発電機に接続されてゆく。 「ふざけるな。相手はひとりのニンジャだろうが。これでは戦争だ」 「はじめから戦争だよ」 大佐はふてぶてしい笑みを浮かべ、煙草に火をつける。 「ただ、これはあんたたちの戦争ではなく、あたしたちの戦争になった」 「何をする気だ」 「MD1の戦力は戦闘ヘリ一機分に相当する。ニンジャボーイはそれを上回る戦力を持つならそれ相応の対応をするさ」 大佐は、獲物を前にした虎の瞳で花世木を見る。 「この街を瓦礫の山に変えてやるよ。ボスニアやチェチェンみたいにな」 「おい待てよ、大佐」 花世木は、大佐に歩みよろうとして携帯電話が鳴っていることに気がつく。 「ねぇ、花世木ちゃん。あんたじらしすぎ」 電話は真理谷からのものだった。 「もう待てないって。あんたも限界でしょ」 「判った」 選択の余地は既に無くなっていた。 ここで金を払わなければ、ニンジャもろとも四門は殺される。 せめてそれは避けたかった。 「どうすればいい」 「これから言う口座に3億振り込んで。入金がオンラインで確認できたら、悪魔くんには撤収してもらうから。あんたのとこの社長は、あんたのとこで回収しなよ」 「おまえをどうやって信用すればいい? 解放されるという保証は?」 「無理だわそれは。信じてもらうしかないけど」 「ふざけるな、それで3億も払えるか」 「じゃあ、先に解放してあげる。一度電話切るよ。あんたの社長からの電話を確認しなよ。でも、もし3億を5分以内に払わ無かったら殺すから」 電話が切れる。 すぐにコールがきた。 四門からだ。 「社長」 「解放された、金を払ってくれ」 意外と冷静で落ち着いた声だ。 花世木は信じてみるしかないと判断する。 「判りました」 すぐ、電話が切れる。 また、コールだ。 「今ので限界。これで信じられなきゃ、あんたおしまいよ」 「判った、ちょっと待ってろ」 花世木は黒服にノートパソコンを持ってこさせる。 銀行の24時間オンラインサービスのサイトへアクセスした。 指定された口座へ金を移動させていく。 処理が完了したポップが表示される。 「オッケー。あんたとの社長は解放する。ただ、回収は自分でなんとかしなよ」 「ああ」 「ねえ」 真理谷は、暗く静かな声で語る。 「絶望は味わえたかな?」 「うんざりするほどな」 「そう。でも残念なからまだ、それは始まったところよ」 「くそでもくらえ、馬鹿やろう」 真理谷はけたたましく笑う。 花世木は舌打ちして、電話を切った。 そのとき、爆発音が響く。 地面が震えた。 サーチライトに照らされたビルは紅蓮の炎を窓から噴き出している。 RPGを撃ったようだ。 花世木は叫ぶ。 「おい、待ってくれ。まだ社長が中に」 大佐は振り向くと、無造作に拳銃を撃った。 弾丸は花世木の耳をかすめる。 血がしぶき、花世木は悲鳴をあげしゃがみ込む。 「がたがたうるせぇ」 大佐はものを見る目で花世木を見ていた。 「せめてものアフターサービスだ。5分だけ待ってやるからその間に失せろ。その後もまだあたしたちの前をウロチョロしてたら、撃つよ」 「花世木さん」 黒服が花世木の腕をとりたたせる。 花世木はビルが黒煙と紅い焔に侵されていくのを見ながら、その場からはなれてゆく。
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