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作品名:メイドロボット vs ニンジャ 作者:ヒルナギ

第12回   其の十二
唐突に扉が開き、四門は、外へ引き摺り出される。
四門は、フロアの床に座り込んだ。
百鬼は、酷く消耗した顔をしている。
「悪かったな、狭いところに閉じ込めて」
四門は苦笑した。
「悪いと思うなら、解放しろよ」
「残念だが、それは無理だ」
百鬼は、いつものように無表情だが、しかしその顔は幽鬼にとり憑かれたようにくらい。
心なしか、肩で息をしているかのように見える。
四門は車椅子に戻されることなく、フロアに座らされたままだ。
百鬼はバッグからプラスチックケースを取り出すと、カプセルの錠剤を取り出し飲む。
四門の視線に気がついたらしく、ケースを四門に差し出してみせる。
「ただのアンフェタミンと、カフェインのカクテルだ。あんたもやるか?」
「ただのだと? 結構だ」
百鬼は少し肩を竦めると、ケースをバッグへ戻す。
そして、バッグの底にある蓋をはずし、中から細長い棒状のものを取り出した。
革の鞘に納まった日本刀である。
ただ、柄がついてない。
百鬼は、バッグの中からラバーグリップとなった柄を取り出す。
日本刀に、手早くグリップを取り付けると、革製の鞘から抜き放った。
蒼ざめた光が、闇の中に浮かび上がる。
四門は息を呑んだ。
「まさか、こいつを使うことになるとはな。まあ、こいつのほうが魔法は使いよいのだが」
百鬼は、自嘲のような笑みを浮かべている。
「見ろ、美しいだろう」
百鬼は、四門のほうへ刀身をかざしてみせる。
確かに、さっきまで百鬼が使っていた無骨な刀と違い、優美な美しさがあった。
それは、ひとを斬るという特化した目的に向かう機能性と、見事に融合した美しさである。
持つものの、心に魔を呼び込む類の美しさであった。
「村正だよ。いい刀だ。ひとを斬るのがおしいくらいだ」
百鬼の意外な言葉に、四門は苦笑する。
百鬼は、抜き身の刀を持ったまま立ち上がった。
「どうも、次の客が来たようだ」
百鬼はフロアの入り口に向かって、数歩踏み出す。
入り口から、屈強の男たちが入ってきた。
十人以上はいる。
そして、その男たちより頭ひとつ高い男が最後に入ってきた。
長身の男は、背が高いだけではなく身体が分厚い。
その身体に似合わぬ、七三分けのビジネスマン風ヘアースタイルだ。
やたら濃い顔に、笑みを浮かべている。
「はじめまして、百鬼。わたし、王いいますね」
百鬼は、四門と壁を背後に背負い、刀を正面に構える。
部屋に入ってきた男たちは、皆大きなコンバットナイフを持っていた。
ナイフとはいえ、刃渡りが50センチ近くはある鉈に近いものだ。
「あなたの噂はかねがね聞いてますね、百鬼。わたし、あなたの望み、判ってるよ」
百鬼は無言のまま、刀を構えている。
その回りを8人のおとこたちが、半円状に囲んだ。
のこりの男たちは、王と名乗った男の回りに控えている。
「百鬼、あなた結局のところ、金とかそういうものは、どうでもいいと思っているね。要は、斬りあいたい。それが望みよね」
王は、上機嫌に言葉を重ねる。
「それが?」
「斬りあいをさせてあげるね。わたしたち、あなたと果し合いしにきた」
「ほう」
百鬼は、笑みを見せた。
「好きにすればいい。斬りかかってくるなら、斬りふせるだけだ」
「簡単じゃないよ。わたしたち洪家拳の使い手ね。棒術を応用して剣も使いこなす」
「だから?」
「一応、降伏するか聞いておくね」
「しないよ」
王は、嬉しそうに笑う。
「日本刀という武器の選択は、悪くないと思うね。室内の戦闘においては、武器としては拳銃よりも合理的ではある。でも、長すぎるね。より有効なのは、このナイフくらいの長さよ」
四人の男たちが間合いをつめ始める。
手には、コンバットナイフを構えていた。
殺気が闇の中に満ちてゆく。
漆黒の火花が散っているようだ。
唐突に、百鬼の身体から緊張感が消える。
百鬼は、携帯電話を取り出すと、ひとことふたこと話した。
「状況が変わった」
百鬼は殺気の消えた、落ち着いた表情で語る。
「話がついたようだ、人質は解放する。武器を収めろ。そうすれば、おれも刀を捨てる」
「残念ね」
悲しげな顔をする王に、百鬼は穏やかな笑みを見せると、突然地面に前のめりに倒れる。
そのまま前転し、左側にいた男の足を斬った。
百鬼のフェイクを信用したわけではなかったろうが、虚をつかれた形になっている。
どすん、と足を残したまま、男は床に倒れた。
百鬼は刀を突き出すと、その男の頚動脈を斬る。
百鬼は、地面を這うような姿勢から右側の男へ向かう。
男が反射的に突き出したナイフを持った右手を斬り飛ばした。
血を振りまきながら、ナイフを持った右手が床に落ちる。
そのまま、上段から一気に斬り降ろす。
左半身が、身体から離れ左手が床に届いた。
血が放物線を描いて床に撒き散らされる。
その男が倒れるのを見届けないまま、背後から繰り出されるナイフを身を屈めてかわすと、胴を薙いだ。
とんと、百鬼が下がるのを追うように腹から血が噴き出る。
切り口から別の生き物のように、ぞろりと内臓がはみ出てきた。
男は内臓の出た腹を押さえながら前に倒れる。
百鬼は無造作に移動しながら、右側の男へ間合いを詰めた。
薙ぎ払われるナイフをかわし、刀を横へ薙いだ。
顔面が真ん中で断ち切られ、目玉を収めた顔の上半分が床に落ちて跳ねる。
百鬼は、そのまま後へ下がり刀を正眼に構えた。
その左右に死体がバリケードとして築かれた形となる。
百鬼の前に道ができていた。
ひとりづつしか通れない道が。
奇声をあげながら、ふたりの男が斬りこんでくるが、縦一列になってしまっている。
百鬼は身を屈めて先頭の男のナイフをかわし、股間から肩口まで一気に斬り上げた。
身体を両断した男の後ろから、ナイフが突き出される。
その腕を押さえると、頚動脈を裂く。
血を噴出しながら倒れる男を突き放し、また後に下がる。
左右から同時に男たちが死体のバリケードを越えて切りかかった。
百鬼は右側の男が着地する瞬間に、その片足を薙ぐ。
倒れるところを突き飛ばし左側の男にぶつける。
男が、足を斬られた男にぶつかって体制を崩した隙をついて、首を斬りおとした。
一瞬にして8人の男たちが斬られている。
百鬼の回りには、さらに高い死体のバリケードができた。
ひとりづつしか、近寄れない状態になっている。
足元は流された血で、かなり踏み込みにくくなっていた。
百鬼は四門を背にし、刀を正眼に構える。
その足元に何かが転がった。
スタングレネードである。
それが炸裂し、百鬼と四門は視界を失う。
雷鳴のような銃声がいくつも轟く。
四門は、必死で身を屈める。
銃声からすると、大口径マグナム弾のようだ。
着弾すれば、アーマーを貫通しなくても骨が砕ける。
百鬼は死体を盾にして間合いを詰めていた。
正面にいる男に死体を当てて、そのまま首を跳ねる。
左側にいる男を袈裟懸けに斬ると、そのまま刀を車に回して右側の男の頚動脈を裂く。
最後に残った男が撃つマグナムをサイドステップでかわし、一瞬にして間合いをつめる。
縮地であった。
銃を持った腕を斬り飛ばし、上段から斬り降ろす。
刀は右肩から入ると胸を裂き、左腋から抜けた。
さすがにもう、身体を両断することはできないようだ。
傷口から血を噴出しながら、男は倒れる。
「だいぶ、お疲れのようね。百鬼、あなたもあなたの刀も」
王はそう言うと、抜き放った直刀の長剣を百鬼に向けた。
分厚く丈夫そうな鉄の塊みたいな剣だ。
百鬼は、正眼に刀を構える。
明らかに、肩で息をしていた。
さすがに、疲労はピークになっているようだ。
「わたしとあなたは多分同類ね」
王は、剣を構えたまま語る。
「わたし、10代のころ非合法の賭博格闘技の選手だった。金持ちが金を、殺し合いに賭けるゲームね。わたし、そのゲームでチャンピオンだった」
王は、百鬼の様子を見ている。
疲労した状態がフェイクなのか判断しかねているようでもあった。
「そこで金持ちに気に入られ、用心棒として雇われて、手柄をあげて。幇の幹部としてとりたてられた。でも、自分の全力の技は使ったことないよ。それはあなたも同じね、百鬼」
王も百鬼も動かない。
四門から見て、王の構えは見事なものに見える。
疲労している百鬼とそう力の差はないかもしれない。
ただ、どちらも動けないのはおそらく、先に動いたほうが不利であるからなのだろう。
「あなたも、自分の持つ技全てを使いたいね。自分の血肉に刻まれている殺人の技術を全て解放したい、そう思っているね。それは、わたしも同じ。わたしたちは、同じ種類の人間ね」
王は、にいっと顔を笑みで崩した。
百鬼は無表情のままだ。
突然、王が裂帛の気合を放つ。
がくん、と百鬼の頭が後へ仰け反る。
百歩神拳と呼ばれる技だ。
相手を倒すほどの力は無いが、ジャブ程度の威力はありそうだ。
百鬼の視線が王からそれた瞬間、王が間合いを詰めていた。
縮地である。
百鬼と同じ技を王も使っていた。
王は、気合を放ち上段から剣を叩きつける。
おそらく、刀で受ければその刀をへし折って、そのまま百鬼の頭を割るつもりだ。
百鬼は無造作にその剣を左手でつまんでとめた。
凄まじい速度で振り下ろされた長剣は、ひょいとつきだされた百鬼の左手の人差し指と親指に摘まれて止まる。
いや、そうではない。
王の身体が金縛りにあったように止まっていた。
百鬼は摘んだ剣を脇によけると、刀を王の首筋に押し当ててひく。
さすがに頚動脈を裂くことはできたようだ。
血が噴出する。
王は硬直状態にあった。
動くことができないようだ。
「残念だな」
百鬼は、溜息まじりにつまらなそうに言った。
「おれは10代のころ、ポルポトの支配するカンボジアにいた。生きることは斬ることだった。あのころからな」
唐突に王の身体の硬直がとけ、膝をつく。
「馬鹿な」
王はかろうじて言葉を紡いだ。
「そうか、刀を気の増幅装置として使い、脳を揺さぶるのか」
「心の一法。二階堂流の魔法だよ」
王は、そのまま崩れおちる。
「あんたのはまあ、エリートの趣味としてはいいところにいってたんだがな」
百鬼はそう呟くと、四門のところへ戻る。
「あれが魔法か」
四門は呆然と呟く。
あきらかに、百鬼は死ぬはずだった。
理解できないことがおこっている。
「まあね。宮本武蔵が恐れて逃げ出した技、心の一法。気を刀の光にのせて放つ。目から入った気は脳神経を一時的に麻痺させる」
四門は、溜息をついた。
説明を聞いても理解できるものではない。
百鬼は、疲れたようで腰を下ろすと熱心に刀の血脂を拭い始めた。
「松山主水は、大名行列を見物にきたひとびと全員を金縛りにしたと公式文書に記録されているがな。おれのはとてもそこには及ばん。まず、全員がおれと刀に注目してくれないことには無理だ。だからああいうふうに一対一にしてくれれば助かるんだが」
やれやれと、百鬼は溜息をついた。
「おれもまだまだだよ」


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