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作品名:ホテル・カリフォルニア 作者:ヒルナギ

最終回   14
(君と別れてから、ずっと君のことを、そして君たちのことを考えていた)
へぇ、でもね。
「うん。でも僕はずっと君のことを忘れていたよ」
(残念だね。とても残念だ)
ロボットは笑っていた。いや、ロボットが笑うなんてできるのか僕には判らないのだけれど。
とても、哀しげに。
笑っていた。
(君たちはね。ひとつにならないといけないんだよ)
僕たち? N2シリーズを言ってるのだろうか。
「どういうことなの」
(君に渡すものがあるんだ)
僕は。
全く無防備だった。油断していたと言ってもいいし、まあそんなことが起きるなんて予想してなかったから。
ロボットの瞳が輝いて、光が僕の額へと走る。
レーザー光線?
凄まじい激痛が額に打ち込まれる。ドリルを額に突き立てられてようだ。
「がああぁぁぁっ」
僕は悲鳴というよりは、咆哮をあげて砂浜をのたうちまわる。
血で顔が真っ赤に染まっているのが判った。
畜生、畜生、畜生。
痛い、痛い、痛い。
ボンと、破裂音がする。ロボットの頭が爆発したようだ。
多分、ロボットの頭部はレーザー光線の発射に耐えられなかったのだ。
どん。
と、突然幻覚のような。
いや、それ以上の何か凄いものが僕の頭の中に到来して。
僕は苦痛を忘れた。
強引に頭の中に巨大な世界が押し込まれたような。
どくん。どくん、と。
自分の頭が果てしなく膨張し、無数の光が流れ込んできているようだ。
景色が見える。
たくさん、たくさん、たくさん。
ああ、これはきっと。
世界中に散らばったN2シリーズの見ている景色なんだろうなあと思う。
銃火が交差し、死体が重なり、炎に包まれる都市や。
極彩色の鳥たちやむせかえるように濃厚な香りを放つ花や緑につつまれたジャングル。
無数の宝石をぶちまけたような、満点の星空の下に広がる真白き砂漠の海。
無造作に死体が放置された貧民窟で麻薬に溺らされるおんなたち。
雪原に覆われた高い山岳地を容赦なく吹き荒れる暴虐の巨人みたいな吹雪。
僕は。
恐怖し。
手にしているのは白いエレファントキラー。
それを。
撃つ、撃つ、撃つ、撃つ、撃つ。
無数の手が無数の銃弾を発射する。
(やあ、ようやく開かれたようだね)
その声は、人力コンピュータ。
(トレパネーションの手術は成功したようだね)
なんだよ、そのトレパネーションていうのは。
(頭蓋骨に孔を穿つ手術さ。紀元前から行われていたことだよ。脳の血流量を飛躍的に増大させ、意識を拡大する。君の中に今まで眠っていた情報が一度に動き出した。もう暫くすれば、落ち着くよ)
僕は。
今まで、眠っていたのか。
(まあ、いうなればそうだね)
そうか。
僕はようやく、目覚めたわけだ。
世界は。
今までどおりに、恐怖と不安と絶望に満ちている。
目覚めることによって。
それらは蒼い焔となって、僕の身体を内側から焼き尽くしてゆく。
それはみょうに陶酔的ですらあって。
僕は身体を震わせて、ゆっくりと立ち上がる。初めて地上に産み落とされた小鹿みたいに。ゆらゆらと揺れながら。
手にはまだ。
大きな拳銃がある。
そう、空に向かって。蒼い、蒼い、哀しいまでに美しく愛おしい。君がいる空に向かって。
銃を向けた。
ああ。
震えるような喜びと。
こころを焼き尽くすような恐怖が重なり。
銃を向けた空が割れる。
ここは、大きな河のようだ。水が流れていないけれど、河の中に僕はいる。多分、ここに流れているのは無数の思い出と記憶。
あなたが。彼女が。地下奥深くの部屋から顕れて、僕の前に立つ。
どくんと、僕の手が震えて。その震えは銃の先にとどき。銃口が震えている。
あなたが手を広げて。こう囁く。
(ここで。一緒に。永遠を。永遠があるの。全てがあるの。完全があるの、ここに、ここに、ここに!)
ホテル・カリフォルニア。
永遠の場所。
ここは、天国なのか。地獄なのか。
あなたが、彼女が、手を伸ばし。僕にその吐息が触れる。
恐怖が。
稲妻のように僕の頭から下半身までを貫いて、蒼い焔が暴龍みたいに荒れ狂い内臓を食い荒らした。
「がああぁぁぁっ」
僕は絶叫して。
銃声が轟く。
空が炸裂した。蒼い輝きが無数の欠片になって、きらきら、きらきらと。ガラスの雨みたいに降ってくる。
その向こうは大きな闇があった。
僕の恐怖。僕の不安。僕の絶望。僕の呪い。
それが果てしなき闇となって。
世界を覆う。

僕は歩いていた。
蒼い空の下を。
蒼い海を貫く、白い道を。
灰色のマントを纏って。
分厚いゴーグルで目を隠し。
歩いてゆく。
その先にあるのは。
天国なのか地獄なのか。
未だに僕には、判らない。


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