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作品名:ホテル・カリフォルニア 作者:ヒルナギ

第11回   11
わたしは。
その少年と少女が広間に入ってきた瞬間から、目がくぎづけになった。
正しくはその少女に。
いいえ。
少女ではなく。
わたし。
わたしであり、あなたである。
わたしは、あなたの視点からわたしを見ることができた。
あなたの恐れと。
微かに混ざった陶酔の感覚を。
まるで身体の秘めやかで繊細な部分に触れるように、感じ取ることができた。
あなたの目から見たわたしは。
美しく哀しく、しかし戦慄的なまでに獰猛であり、野生の生き物みたいに凶暴であった。
でも。
その中に。
あなたと同じ、わたしと同じの。
繊細で優しく感受性に溢れた、野に潜む兎みたいに跳びはねてゆくしなやかさを持ったこころがあることが判る。
そして。
あなたがわたしの奥深くに触れるのを感じる。
成熟したおんなとしての、充実した肉体を持つことを。
その奥深くに秘められた欲望の疼きと官能の呼び声さえもあなたは感じ取り。
戸惑いながらも受け入れてゆく。
わたしとあなた。あなたとわたし。
ふたりであり、ひとりである。
わたしはあなたの瞳を通じてわたしを見て。
あなたはわたしの瞳を通じてあなたを見て。
それは。
無限にループする合わせ鏡のようで、世界にはもう、あなたとわたししか居ないのに、そのふたりが増殖して世界に満ち溢れてゆくようで。
ああ。なんてこと。
無限に繰り返され上昇していくカノンのように。
陶酔に包まれながらわたしたちはふたりだけの世界を駆け昇って無限に飛翔し、同時に無限に墜落する。
そして。
その無限に巡り続けるループは。
一発の凶悪な銃声に撃ち殺された。

ナイトドレスの女は、銃弾によって顔面を粉砕され倒れる。
同時に、水無元さんも悲鳴をあげて崩れ落ちた。僕は彼女を辛うじて受け止める。
銃を撃ったのは。
グレーのジャケットを着た女。
その女は精悍な顔をして、銃を構えたまま倒れたナイトドレスの女へと近づく。
そして、まるで黒い疾風が巻き起こるように顔面を深紅に粉砕された女が跳ね起きる。
グレーのジャケットを着た女に、漆黒の猛禽のように掴みかかろうとするのを銃声が跳ね返す。
女の撃ったS&WのリボルバーM500が火を噴き、ダブルオーバック9粒の散弾が発射され心臓を貫く。
広間には。
ようやく静けさが戻ってきた。
動くものは誰もいない。
黒い男女は全て殺され、客たちはいつの間にか逃げ去ったらしく姿が見えない。
君は。
プロトワンは。
足元に黒いひとの残骸を積み上げ、純白の拳銃を構えている。
君は。
ふっと、薔薇色の唇から溜息をもらすと白い拳銃をくるりと回転させ腰のホルスターへ収める。
グレーのジャケットを着た女は。
黒のナイトドレスに開いた深紅の穴へ、手を突き入れる。
そこから取り出したのは、闇色の蝙蝠みたいな生き物。蝙蝠のような羽を持っているが大きな違いは、脳が巨大であることだ。
女は、口を歪めて笑う。
「寄生型生物兵器ネメシス。見事な作品だよ、ドクター・キョン」
初老の男は。
凍りついたようなその虐殺の舞台となった広間で、ただひとり動き続ける物体となったようで。
魔物の笑みを頬に貼付けたまま女の前にたつ。
「ご苦労様です。今回はCIAと契約されましたか? アリス・クォータームーン」


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