その日の夜、近所の葬儀場で征司の通夜が行われた。会社の上司や親戚などが集まっている。その中で一番驚いたのが姉の存在だった。姉弟仲は決してよい方ではなかった。寧ろ互いに嫌い合っていると征司は思っていた。姉は妊娠八か月の大きなお腹を抱えて号泣している。義兄にすがりついて、歩くことも覚束ない程に悲嘆に暮れていた。そんな姉の姿を見て征司は重い気持ちが更に重量を増すのを感じた。顔を合わせば喧嘩ばかりしていた姉だが、本心では自分を大切に思っていてくれていたのだと今更知っても遅いのに。もっと姉と話しをして、もっと姉のことを理解しようと努力しなかった自分が情けなくて悔しい。 通夜も終わりを迎えた頃、家族に支えられるようにして由梨が現れた。由梨は征司の恋人だ。半年後には結婚の約束もしていた。由梨はぐったりとして、項垂れたまま人形のように虚ろな目をしていた。征司は改めて胸が痛むのをこらえるしか出来なかった。 心の中で「由梨、ごめん、幸せになってくれ」と呟いた。それは到底本人には届かないと承知の上で。 由梨は征司の両親に軽く頭を下げる。その動作すらぎくしゃくとして無理に筋肉を動かしているように見える。母親は由梨を抱きしめて何度も「ごめんなさい」と繰り返す。出来ることなら征司自身もそうしたいぐらいだ。しかしこの手に由梨を抱きしめることさえもう出来ない。握りしめた手が細かく震える。 由梨が幸せになるまでは、ずっとそばにいるつもりだ。その為に霊になることを選んだのだから。由梨が再び笑顔を取り戻し、誰かと恋に落ち、そして今度こそ結婚をして幸せな人生を送るのをこの目で見守るのだ。それはもしかしたら征司には辛くて苦しいことかもしれない。でも、自分にはその責任があると思っている。今こうして由梨を泣かせているのは他ならぬ自分なのだから。
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