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作品名:巡夏 作者:光牙

第6回   裁判事情
日本の裁判事情は年を追うごとに変わって行った。二〇〇九年、裁判員制度が導入された。その数年後には死刑が撤廃された。その代りに導入されたのが終身刑だ。無期懲役では模範囚であれば何年か後に仮出所を許されるが、終身刑にはそれがない。生涯を檻の中で終わらせるのだ。もちろん賛否両論議論の末の制度である。しかしこの制度にもやがて限界が訪れる。犯罪件数の増加とその凶悪化が囚人の増加と終身刑の増加を産んだ。結果拘置所は人で溢れ、人権問題へと発展した。もう一方でテクノロジーも日々進化していた。生命の不思議は解き明かされ、人の脳の謎に関する解明も進んだ。そうした事情の中で、終身刑の在り方にも変化が生じた。早い時期から終身刑を採用していた欧米で実用されている方式だ。それは囚人の身体の自由を一切奪い、囚人はカプセルの様な物のなかに寝かされ、栄養補給などの代謝は一切をコンピュータにより管理するというものだ。脳に接続されたコンピュータによって囚人は外界とコンタクトを取る。その声は生前のそれを利用し、コンピュータが再生する。モニターには囚人の顔がコンピュータグラフィクによって再現される。微妙な脳の信号を読み取り、笑ったり、怒ったりとモニターの表情が変化する。囚人は生きながら植物人間状態に置かれるのだ。
これなら脱走の心配も見張りの必要もない。少ないスペースで大人数を監視下に置くことができる。
またしても賛否両論議論が交わされた。しかし既にこの制度を導入している国では凶悪犯罪が減少したとの統計結果もあり、遂に日本にも導入されることとなった。二〇三六年のことであった。


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