「これがもらったガーベラよ。」窓辺の小さな花を指さして早智子はいった。
「ほんとだ。まだ咲いてるんですね。」龍之介は嬉しそうにピンクの花を観て話した。 「ガーベラはキク科で強いから、手入れさえすれば6月でも咲くんですよ。 早智子さんは大事にしてくれてたんだ。」 龍之介は嬉しそうな笑顔を浮かべ早智子をみた。
早智子「へえ。龍之介君は花に詳しいのね。」
龍之介「それほどでもないですけど。」 龍之介は照れながら頭に手をやると、早智子が左手にもっている宅配の包みが気になった。 「それ何が届いたのですか?」
早智子「これっ? これは『花の育て方』の本よ。 ちょっと勉強しようかと思って。」
龍之介「早智子さんて、努力家なんですね!」
純粋な感想を述べる龍之介に対して、販促案を簡単にあきらめている自分が少しはずかしかった。 早智子「そうでもないわよ。 会社で宿題出てるんだけど、なかなか出来なくてあきらめちゃってるの。」
龍之介「へえー。会社でも宿題あるんだ。 来年から働こうと思ってるのに大変そうだな。」
早智子「来年から働くんだ。 お母さんが少しでも楽になるように?」
龍之介「うん。 中2の妹もいるんだ。」
早智子「えらいわね。 私が高3のときはそんなこと考えもしなかったわ。」 見かけによらずしっかりしている龍之介を早智子は見直していた。
龍之介「で、宿題って何ですか?」
早智子「私、化粧品を売っているんだけど、どうしたらお客さんが喜ぶか考えて来なさいって。」早智子は販促をわかりやすく説明した。
「紅茶飲む?」少し考え込んでいる龍之介に早智子は聞いた。 龍之介は返事もせずに黙っている。
早智子は2人分の紅茶を入れ、にっこり笑いながら龍之介に1つをさしだした。 「はい、どうぞ。 いい案浮かんだ?」
龍之介「会社の宿題って難しいんですね。 解き方がどこにも載ってないんだもん。」 そういって、龍之介はティーカップを鼻の下にもっていき、紅茶の匂いをかいだ。
龍之介「紅茶の匂いっていいですよね。 花の香りに通じるものがあって。」 「ぼく香水の匂いって苦手なんです。 人工的な感じがして。 花の匂いがする香水があればいいのに。」 そういうと、龍之介は早智子が化粧品販売員であることを思い出した。
龍之介「すっ、すいません。」初めて出逢ったときのように龍之介は頭をすくめて謝った。
早智子「今、何って言った?!」 眼を細め、少し笑いながら早智子は聞き返した。
龍之介「花の匂いがする香水があればいいのに‥。」
‥‥‥。
早智子「その案頂きー。ヤホー!!」早智子は右頬にエクボをつくり、座ったまま両手を上にあげた。
早智子「そうなのよね。花の匂いの香水って意外に少ないのよね。」 「お客さんの誕生月にその頃咲く花の香水をあげるって素敵じゃない?」
龍之介「はいっ。素敵だと思います。」 予想外の早智子の反応に最初は戸惑ったが、 自分が早智子の力になれたような気がして龍之介はだんだん嬉しさがこみあげてきた。
すると 早智子「そうと決まれば、月毎に香水に合いそうな花を調べるわよ。 龍之介君手伝って!」 あねご肌の早智子の本領発揮である。
龍之介「はいっ!」
こうして、早智子と龍之介の共同作業がはじまった。
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