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作品名:『ダンナさまは18歳。』 作者:英庵

最終回   幸せのカタチ

16年後のお正月、1月3日。
早智子(49歳)と龍之介(37歳)は、
2年前に建てた逗子のマイホームで来客の準備をしている。

早智子「今日は、私と龍ちゃんのお客さんが入り乱れての初パーティーだね!」
  そう言いながら、最近龍之介のお母さんから教えてもらってマスターした
  お節料理をテーブルに運ぶ早智子。

龍之介「ほんと、マンションじゃスペース的に出来ないし、まさか陽斗と陽菜さんが
    結婚前提で付き合ってるなんて昨年まで知らなかったからな。」

 そう。“陽菜さん”とは早智子の職場の先輩景子さんの娘で、陽斗より2つ年上の19歳。

早智子「まったくよ。景子さんも全然知らなかったみたいよ。
    まあ、店長で忙しいから無理もないけど。」
  景子さんは、早智子の後を引き継ぎ3年前にドクターEコスメ赤坂本店の店長となっていた。

 早智子はというと、関東圏に6店舗を展開する株式会社『フィールド』の
 若社長:龍之介を手伝うために3年前にドクターEコスメを退社し、
 現在は家庭、会社の両面で龍之介を支えている。


「ピンポーン」 最初の客が訪れた。

「はーい。」明るく答える早智子。
“今田陽菜さんカモ”と、鏡の前で服装を整える陽斗。

「翔子です。」インターホンからホンワカとした声が流れた。

「翔子だわ!」早智子は思わず声をあげ、玄関に小走りで向かった。
  鏡の横でションボリと肩を落としている陽斗の隣を通り過ぎて。


早智子「翔子、いらっしゃい! 健太さんもお久しぶりです。」
  玄関のドアを開け、早智子はエクボを頬にみせながら出迎えた。
  翔子はマイホームを建てた時に一度来ていたが、健太は初めての新居訪問だった。

翔子「健ちゃん、すごいでしょ。 早智子さんの新居。
   私たちも頑張って建てましょうね!」

健太「なんだか、最初から凄いプレッシャー…。」
  いきなりの翔子の口撃に頭を掻く健太。

早智子「今日は色々2人の話し聞かせてもらいますからね!」
  そう言いながら、早智子は2人を部屋の中に招き入れる。

「いらっしゃい!」「こんにちは。」
顔見知りの龍之介は穏やかに、健太と初対面の陽斗は少し緊張しながら2人を迎えた。

翔子「すごい。このお節料理! これ、早智子さんが作ったのですか?!」
  “料理もロクにできない”これが料理に関する早智子の印象だった翔子が驚きの声を上げる。

早智子「そうよ。私が作ったのよ!龍ちゃんのお母さんに教えてもらったのだけどね。」
  早智子は少し鼻を高くしていった。

翔子「人はやればできるのね。 こうして家庭の味が引き継がれていくのか‥。」
  意味深に翔子が答える。

健太「そうだよ。翔子もやればきっとできるよ!」
  健太がさっきのお返し?とばかりにニッコリ笑いながらいった。

翔子「やられちゃったかな。 でも健ちゃん、栗きんとん好きなのよね。
   早智子さん、今度教えてね!」

早智子「いいわよ。 なんだかんだ言って、結局は健ちゃんなんだから‥。」

 早智子の言葉に、翔子も健太も、龍之介も陽斗も笑っていた。


「ピンポーン。」 次の来客だ。

「はーい。」 またも陽気な早智子の声。

「優太です。」 インターホンから凛々しい男の声。

「おれが行くよ!」今度は龍之介がいち早く、玄関に向かった。
  またもやガッカリする陽斗の隣を通り過ぎて。


龍之介「優太さん、いらっしゃい! 博美さんも。」

優太「龍之介、すごいな。こんな豪邸建てて‥。ローンいくら残ってるんだ?」

博美「いきなり、何いってるの? ごめんなさいね!」
  龍之介と違い、あまり気がまわらない優太をフォローする博美。

龍之介「大丈夫ですよ、慣れてますから‥。」

優太「参ったな。」

博美「は。は。」
 そういいながら、優太と博美が玄関から入ってくる。


早智子「優太さん、博美さん。 いらっしゃい。」

陽斗 「こんにちは。」
  今では仕事が一緒の早智子と、店でよく顔を合わせる陽斗が明るく迎えた。

健太、翔子「お久しぶりです。」
  ネットを通じて花は購入しているが、翔子夫婦と優太夫婦が顔を合わせるのは結婚披露宴の花を依頼して以来だ。
  この事がきっかけとなって、『フィールド』は披露宴の花も手掛けるようになった。

龍之介「そうだよなぁ。『フィールド』が披露宴の花をやるようになったのは、
    翔子さんが“是非『フィールド』の花で飾られたい”といってくれたからだよな。」

優太「縁って不思議だよなぁ。」

博美「そんな縁に感謝しながら、こうして再会できるのも良いわね!」

翔子「大したことしていないのに、恥ずかしいわ‥。」
  翔子がホンワカした口調でいうと、場がいちだんと和んだ雰囲気になった。

龍之介「でも、優太さんが博美さんの気持ちに気付いて良かったですよね。
    最初は、ハラハラしましたよ!」

  昔の事に触れられ、少し頬を赤くする博美。

優太「俺は最初から分かってたよ。」

「ウソだぁ〜。」 龍之介と博美が同時にいった。 立つ瀬無い優太。

早智子「だったら何がキッカケで、付き合いだしたの?」
  今、仕事仲間の早智子が核心をついた。

「知りた〜い!」龍之介と、翔子、健太が同調する。

 優太と博美は16年前の事務室の出来事を思い出し、赤面している。

優太「あとで。あとで。」

博美「そう、後で!」

早智子「じゃ後で、絶対よ。」

優太「早智子さんには敵わないなぁ。」

博美「ほんと。店でも敵わないし‥。」

優太と博美の言葉に、今度は早智子、龍之介、翔子、健太、陽斗の5人が笑っていた。


「ピンポーン。」 本日、最後の来客だ。
  陽斗がゴクリと息を呑む。

「はーい。」 朗らかに早智子が答える。

「今田でーす。」 インターホンから鶯(うぐいす)のような若々しい声。

“ちょっと違う?”
 一瞬、早智子が間をおくと同時に、陽斗が緊張した面持ちでインターホンに答えた。

「今、行きます!」

早智子と龍之介は声の主を理解し、顔を見合せて言った。
早智子、龍之介「陽菜ちゃん!!」

「こんにちは!」
 陽斗が玄関の扉を開けると、艶のある声と若々しい声が重なり合って響いた。

扉の向こうに景子さんと陽菜ちゃんが微笑んでいる。

陽斗は、みんなに陽菜ちゃんを皆に紹介する緊張からか
扉を開けたままで突っ立ている。

「どうぞ、入って下さい。」早智子があわてて2人を迎え入れた。
 陽斗は扉を閉め、頬を真っ赤に染めながら最後に入ってきた。


早智子「景子さん。いらっしゃい! それに陽菜さんも。」

景子「ごめんなさい、遅くなって。 陽菜が服選ぶのに時間かかっちゃって。」

陽菜「‥‥。」

早智子「陽菜さん、そんなに洋服もってるの?」

景子「いや、そんなに持ってないのだけど。あっちを着たり、こっちを着たりで。」

早智子「乙女心って言うヤツですか?!」
  早智子がそういうと、先客と龍之介5人の眼差しが一斉に陽菜の方に向いた。

 陽菜も真っ赤になり、景子さんの陰に隠れている。

龍之介「さあ、全員揃ったところで早速始めましょうか。」

全員「そうしましょ。」「そうしよう!」

 そう言いながら9人は、普段の四角いテーブルに臨時用テーブルをくっつけた
 横長の食卓の席についた。

 早智子は準備をしながらとの理由で端のお誕生日席に、その左隣に龍之介と陽斗、
 そのまた左隣に優太と博美のフールド組が座った。

 早智子の右隣りには景子が、その右隣りつまり陽斗の前には陽菜がはじらいながら座った。
 陽菜の右隣りには健太と翔子が座り、ドクターEコスメ組となった。

 横長のテーブルに早智子お手製のお節料理:数の子、栗きんとん、黒豆、紅白かまぼこ、
 昆布巻き、田作り(ごまめ)、里芋、れんこん、が並んだ。


翔子「これ全部、早智子さんが作ったらしいです!」
  「会社にいた時は、料理なんて全然ダメたったんですよ。」
  翔子は昔のエピーソードを加えながら、親友の早智子の料理を自慢げに紹介した。

優太「龍之介、仕事も料理もサポートしてもらって幸せもんだな。」

翔子「私、早智子さんを見習って、まず栗きんとんの作り方を習います!」

景子「陽菜も将来のために教えてもらったら?」

陽菜「はい!」はじらいながら、でも素直に陽菜は返事をした。

翔子「陽菜ちゃんの手料理、誰が最初にありつくのでしょう?」

博美「誰かしら?」
 陽菜は伏し目がちに、他の7人は正面から、視線を陽斗の方に向けた。

 すると、箸を置いて急に陽斗が立ち上がった。
 大きく深呼吸したあと、陽斗は大きな声で言った。

陽斗「僕は今、今田陽菜さんと結婚を前提に付き合っています。」
  「陽菜さんにはまだ言ってませんが、できれば来年高校を卒業したら
   すぐに働いて結婚したいです。」

優太「いいぞ、陽斗!!」

「パチパチ。パチパチ。」
  優太の掛け声のあと、温かい拍手が陽斗と陽菜を包んだ。

 あまりにも突然の出来事に、呆然とした陽菜の眼から頬へポトポトと涙がつたう。

景子「これだけの人の前でちゃんと挨拶。陽菜よかったね。
   早智子さんと龍之介さんの息子さんだから、私も安心だわ。」

健太「親の公認が得られたぞ!」

翔子「陽斗くんって誕生日、秋だったよね。」

陽斗「はい。10月2日です。」

翔子「ということは、卒業してすぐに結婚となると
   親子2代で『ダンナさまは18歳。』?!」
  早智子と龍之介の馴れ初めにも詳しい翔子がいった!

陽斗「早熟は遺伝かな‥?」

「はっ。はっ。はー。」 陽斗の一言に茶の間は再び笑い声に包まれた。


早智子「あっ。そうそう! 優太さんと博美さんのキッカケは何だったのよ!」

優太「覚えてたの?!」

博美「“今日は切り抜けれた”と思ってたのに‥。」

龍之介「さっちゃんを甘く見たらダメだよ。」

景子、翔子「そうよ!」

早智子「なんか、私が悪いみたい‥。」

景子「そんな事ないわよ。 さあ、早く言ってー。」

優太「店長経験者は皆コワイわ。 ‥今から白状します!」

全員「ワーイ!」


優太「16年前の秋、そう陽斗くんが1歳のときかな。
   僕が失恋したんです。ずっと想いを寄せてた人に。
   そしたら、博美に励まされて。気が付いたら‥。」

健太「気が付いたら‥?」

優太「博美を押し倒していました!!」
  あっけらかんと話す優太とは対象的に、博美が照れくさそうに下を向いている。

 「いいぞ、いいぞ。」「今日は、無礼講だわ。」

翔子「無礼講ついでにもう1つ。 今まで聞きたかったのだけど聞けなくて‥。
   早智子さんはどうして、店長辞めたのですか?」

景子「私もそれ聞きたかったわ。」

 場は一瞬静まり返り、龍之介を除く視線が早智子に集中した。

‥‥‥

しばらくの沈黙の後、早智子は話し始めた。

早智子「景子さんも、翔子も昔の私を知ってるから理解してもらえると思うけど、
    私はもともと地位にはあまり興味ないの。」

 皆は早智子の話に耳を傾ける。

早智子「で、龍ちゃんと出逢ってからかな。 龍ちゃんの言葉をきっかけに仕事の案がいろいろと浮かんで‥。
    実は、“『誕生香』キャンペーン”も“『今度は誕生“花”』キャンペーン”も
    龍ちゃんと考えた案なの。」
  早智子は今まで黙っていた事を話して、なんだかスッキリした気分だった。

景子「そんなの当たり前だわ。人間、自分でゼロから作り出せる人なんていないわよ。
   みんな色々なものから影響を受けながら生きているんだもの。」
  景子の言葉にみんな頷いた。

早智子「ありがとう。
    で、私が言いたいのはネ、自分の生き方をしたいって事なの。
    私は龍ちゃんと協力すると、自分以上の力を出せてすごく楽しいの。
    だから、龍ちゃんが『フィールド』を株式会社にすると言ったときから、
    店長を続けることよりフィールドで協力したいと思う気持ちが強くなって‥。」


優太「龍之介はホント幸せもんだよな。」

翔子「早智子さんも幸せと思うわ。
   早智子さん、龍之介さんと出逢ってから凄く変わったもの‥。」

早智子「そうかも‥。私、龍ちゃんと出逢ってから何気ない幸せを感じることが増えたような気がする。
    だから、店長を辞めたのかも‥。」


早智子の話を聴いたあと、皆はしばらく黙っていた。

しかし、その後またすぐに9人のパーティーは賑やかな笑い声に包まれていった。


早智子たちは皆、それぞれの幸せのカタチを探して生きている。
人生の終わりに後悔しないように、そして自分の子供たちもまた幸せになって欲しいと願いながら‥。


このホームパーティーから22年後、
風の便りによると、陽斗の陽菜の子供:陽太も18歳で年上の花嫁さんをもらったそうだ。

そして、早智子と龍之介は孫:陽太の結婚披露宴に
株式会社『フィールド』から沢山のピンクのガーベラを送ったそうな。
テーブルがピンクの花で溢れるくらいに。
“2人が自分たちの様にいつまでも幸せになって欲しい。”と願いを込めて‥。


♪ 笑顔咲ク 君とつながってたい♪ 

♪ 愛し合う2人 幸せの空  隣どおし あなたとあたし さくらんぼ♪
♪ 愛し合う2人 いつの時も 隣どおし あなたとあたし さくらんぼ♪
(*^^)v


おしまい。


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