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作品名:『ダンナさまは18歳。』 作者:英庵

第35回   もう1つの愛

10月1日。 早智子が職場に復帰した。
景子をはじめとする中堅グループと、翔子をはじめとする若手グループは
早智子の復帰を心から歓迎した。

翔子「店長、お帰りなさい。」 ホンワカした笑顔で翔子が駆け寄ってくる。

早智子「ただいま。 あれっ。翔子、ちょっと綺麗になったんじゃない?!」
  ホンワカ+晴れやかな表情を見て、早智子は言った。

翔子「そうですか? 仕事も恋も順調ってことかな‥。」
  まんざらでもなさそうに翔子が答える。
 
早智子「今度、私に健太君紹介してね! 一番に‥。」
  産休前の約束を思い出し、早智子はにこやかに言った。

翔子「はい。了解しました!」翔子は右手を顔の横にあて、敬礼のポーズ。


景子「店長、こんにちは。」今度は景子が寄ってきた。

早智子「景子さん。休み中はいろいろ有り難うございました。
    今日からまたバリバリやりますので、宜しく‥。 」
  早智子はさまざまな想いを込め、景子の瞳をみながら言う。

景子「こちらこそ、宜しく。 それに子供の事は何でも聞いて下さいよ!」

早智子「はい。‥ところで、景子さんのお子さんって女の子でしたっけ?」

景子「そうよ。 陽菜といって今3歳よ! 太陽の“陽”に菜の花の“菜”よ。」

早智子「同じ“陽”の字がつくのね。陽斗の2つ年上か‥。 ヨメ候補?!
    家族ぐるみで末永くヨロシク‥!」
  景子を心から信頼している早智子はエクボを見せ、将来を空想しながら再会の喜びを表現した。


そして、
早智子の率いる販売部と、孫氏のいる経営企画部と、新製品を生み出す開発部は
1年あまりのブランクを感じさせず、互いに上手く連携しながら業務を進めている。

また販売部の中では、早智子を筆頭として景子の中堅グループと翔子の若手グループが
スクラムを組み、赤坂本店を益々盛り上げている。
早智子の復帰後も、順調な滑り出しをみせるドクターEコスメだった。


一方、花屋『フィールド』も好評だった『誕生香をもらおう』キャンペーンを7月から再開したこともあり、
ネット販売の比率が5割を超え山王店、横浜店ともに順調だった。


そんな山王店の閉店後の事務室。

博美「優太さん。体の調子でも悪いの? 元気ないですよ!」

優太「あ、うん。 大丈夫だよ。」
  実は優太は30歳になったこともあり、以前から想いを寄せていた友人の看護婦に
  昨晩、愛の告白をしようとしたのだった。

(昨晩)

優太「友里ちゃん、元気にしてた?」

友里「私は相変わらず元気よ! 優太君は?」

優太「僕も元気だよ! ところで友里ちゃん、もうすぐ誕生日だったよね。」

友里「そうよ。覚えてくれてたんだ。 有り難う!」

優太「花は何が好きかな‥。 誕生花はコスモスとかだけど。」

友里「そうそう。優太君にも話ししておかなくっちゃ。」
  「2日前、患者さんからも同じこと聞かれちゃった。
   その患者さん、一流電気会社の係長なんだけど34歳で独身なの‥。」

優太「ふーん。それで‥。」

友里「今日が退院だったんだけど、お陰で早く元気になりましたって赤いガーベラくれたの。
   家に帰って見たら、中に手紙がはいってて。」

優太「‥‥‥。」

友里「で、手紙を開けてみたら、“付き合って下さい。”だって。 ただそれだけよ。」

優太「‥‥‥。」

友里「で、パソコンで調べてみたら、赤のガーベラの花言葉が“燃える神秘の愛”で
   “告白やプロポーズに、燃える神秘の愛を赤いガーベラで伝えるのも素敵”だって。」

優太「そうなんだ‥。」

友里「最初、彼のことは全然気にも留めてなかったんだけど、
   次第に意識するようになって“不器用だけど誠実だな。”って思ってた。」


 “今、彼って言ったよな。”優太は心の動揺を必死に抑え込んだ。

友里「で、さっき又彼から電話があって、“つき合ってくれますか”って。
   私、いつの間にが“はい。”っていっちゃってた‥。」

優太「そう。 良かったね。」
優太はそれ以上は友里の話しを聞くことができず、電話を切ってしまった。


(再び、山王店の事務室)

優太は、いつも明るくふるまう博美をいつしか見つめていた。
恋に鈍感な優太も、山王店を2人で協力してやっているうちに博美の気持ちには気付いていた。

優太“俺は今、確かに落ち込んでいるよな。 でも博美は最近落ち込んだことがあっただろうか。
   俺は博美の気持ちを知りながら気付かないフリをしていたのに‥。”
  自分の恋が実らなかった直後だけに、博美の気持ちが心に染みる優太だった。

博美「仕事は順調なのに、そんな顔してたら“貧乏神”が憑くわよ!!」
  そう言いながら、事務室の机の上に紅茶をもって来る博美。

優太は紅茶を飲もうとはせず、しばらく博美を見つめていた。

「‥‥‥。」しばらくの沈黙。


博美「今日の優太さん、ちょっと変だよ。元気ださなくっちゃ!」
  博美はそう言って明るく立ち去ろうとした。
  そのさり気ない優しさが優太の心の琴線に響いた。

優太「博美!!」

優太はそう叫ぶと後ろから博美を抱きしめた。
そして、床の上にゆっくり押し倒すと
ピンクがかった博美の唇に自分の唇をそっと重ねた。

博美は急な展開に言葉を失っている。
ただ、フィールドに来た3年前から想いを寄せていた優太に
今こうして抱かれている幸せを身体全体で感じていた。

「優太さん‥。」 優太に身を任せながら、その背中に手のひらを滑らせる博美。

「博美‥。」 博美の顔に唇を優しく滑らせる優太。

『フィールド』山王店で、今3年越しの愛が芽生えようとしている。

♪僕が見つめる先に 君の姿があってほしい 一瞬一瞬の美しさを、♪
♪いくつ歳をとっても また同じだけ 笑えるよう、君と僕とまた、笑い合えるように…♪


机の上では、誰にも飲まれることのない紅茶から
暖かな湯気がフワフワと浮かんでいる。


優太と博美が結婚の約束を交わしたのは、
それから3ヵ月近くたったクリスマスイブの夜だった。


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