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作品名:『ダンナさまは18歳。』 作者:英庵

第34回   如意〜角派の逆襲〜

花屋フィールドの『誕生香をもらおう』キャンペーンはドクターEコスメとのコラボの効果もあり、
ネット販売が飛躍的に伸びて、前年度3月までの売り上げは125%アップであった。
新たな年度となった現在も、山王店と横浜店ともに順調な滑り出しを見せている。

一方、ドクターEコスメの『今度は誕生“花”』キャンペーンも好評のうちに終わり、
前年度3月までの売り上げは17.8%アップとなった。

しかし赤坂本店では、早智子の後を受けて無難に仕事をこなす景子の周りで、
再び不穏な動きが始まっていた。

角派が景子の働きを過大に評価し、育児休暇中の早智子に代わり
景子を店長代理に昇進させようとしていた。
角登志子の親戚の井上取締役もその意見に賛意を示していた。
勿論、景子の為ではなく角派の待遇改善を狙ってである。

その情報は、景子からも翔子からも早智子の耳に入っていた。
だが育児休暇は9月末まで取ると早智子は決めていた。
“せめて1歳までは、母親としてできる限りの事を陽斗の為にしてあげたい。”との思いから‥。

そんな5月のとある日、早智子は休日の龍之介に自分の思いを話した。

早智子「龍ちゃん、あのね。 赤坂本店で景子さんを店長代理に推す動きがあるんだって。」

龍之介「そうなんだ。またなんで?」

早智子「私が9月末まで育児休暇取るでしょ。
   “その間に代理を置くべきだ”という意見があるらしいの。」

龍之介「景子さんは何て言ってるの?」

早智子「景子さんはあと5ケ月足らずの話しだから、今のままでいいと‥。」

龍之介「本人はいいと言ってるのに‥。 」龍之介も何かを感じていた。

  しかし、それ以上詳しくは聞かずに早智子の思いを確認する。
   「それでさっちゃんはどう思ってるの?」

早智子「私ね、店長を引き受けたのは“店長”になりたかったからじゃないんだ‥。」

  龍之介は黙ったまま、早智子の話に耳を傾けている。

早智子「3年前、龍ちゃんと一緒に“誕生香キャンペーン”を考えて採用されたでしょ。
    それが凄く嬉しかったんだ。“自分が今まで経験していなかった喜びというのがあるんだ”って気づいて。
    店長になって苦しい事もあるけどだろうけど、また新しい喜びも経験できるかも知れないって。
    そう思ったんだ。」

龍之介「じゃあ、さっちゃんは万が一店長を辞めさせられても良いと思ってるんだ。」
  龍之介は怒る様子もなく、淡々と話した。

  その様子に早智子も少し安心して、続きを話し始める。
早智子「店長を辞めたいとは思ってないよ。でも、今は陽斗の為に頑張りたいの。
    そうでないと後悔しそうで‥。」

龍之介「僕もさっちゃんの生き方賛成だな。 大事なのは肩書きじゃなくて、どう生きるかだよね。
    自分の信じる生き方をすればいいと思うよ。」

 早智子は12歳年下の龍之介の意見に驚きながらも、
 “やっぱり根底の部分で私と繋がっている。”と思えたことが凄く嬉しかった。

早智子「龍ちゃん、わがまま言ってゴメンね。」

龍之介「わがままなんて、思ってないよ。
    だって、さっちゃんが陽斗の世話してくれるお陰で僕は横浜の店に集中できてるんだから。」
   「これから何があっても2人でまた頑張ろうね!」
  龍之介は早智子を元気づけるように、明るく言った。

早智子「有り難う。龍ちゃん‥。」


 1ケ月後、ドクターEコスメ。

景子は人事部長に呼ばれる。

人事部内の会議室のドアを神妙な面持ちでノックし、入室する景子。

人事部長「おおう。今田君、ここに座ってくれ。」

景子が人事部長の前の席に緊張した表情で座る。

人事部長「今回の『今度は誕生“花”』キャンペーン。
     森山店長の後を受けて良くやってくれたね。有り難う。」

景子「はい。」景子は不安な気持ちで話しの続きに耳を傾けた。

人事部長「今、君を店長代理に推す声があるのを知ってると思うが、
     君自身はその事に対してどう思っている?」

景子「‥‥。」 景子はしばらく考えたあと、ゆっくりと話しはじめた。


景子「私は今、店長代理になるべきではないと思っています。」

人事部長「ほう。それは何故かね?」

景子「今回の『今度は誕生“花”』キャンペーンも、前回の『誕生香』キャンペーンも
   提案したのは森山店長です。
   私は森山店長のやってきた事を、やり通しただけです。 それに‥。」

人事部長「それに?」

景子「今、私が店長代理になると、森山店長が帰って来てからやりにくくなると思います。
   森山店長じゃなく、私に話しを通しに来る人が出てきたりして‥。」
  景子は、角派の言動を予想しながら話した。

それを聞いた人事部長は、笑みを浮かべながらいった。
人事部長「今田君。 君はまっすぐな人間だな。 いや、会社としても方針は決まっていたんだが、
     参考に今田君の意見は聞いておこうと思って来てもらったんだ。」
    「分かった。今田君は今まで通り、森山店長と名コンビで赤坂本店を盛り上げてくれ。
     今回の森山店長の穴を埋めてくれたことに対しては評価しておくよ。」

景子「はい。 有り難うございます。」
  そういうと、礼をし景子は会議室を後にした。
  景子も自分の生き方を貫き、少し清々しい気分だった。 

 景子が店長代理を断ったというウワサは、すぐに翔子の知るところとなり
 翔子は早智子にメールで知らせた。

翔子:「さすが景子さん!我らが味方。
    角派の誘いに乗らず、店長代理を断ったらしいです。 \(^o^)/」

 翔子からのメールを読み、赤坂本店の方を見ながら早智子は思う。
“景子さん、有り難う! 10月からまた宜しくお願いします。”

この事件を契機として、早智子と景子さんの信頼関係は今まで以上に強いものとなっていった。


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