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作品名:『ダンナさまは18歳。』 作者:英庵

第33回   祝開店

年が明けた3月、陽斗も生後5ヶ月を迎えた。
首もすわり、あらゆるオモチャに興味を示している。
特にお気に入りなのは、ガラガラをオモチャのピアノの鍵盤にぶつけて音を出す遊び。

「ガラ、ピャン。 ピョン、ガラ、ピャン、ガラ。」
 ガラガラとピアノが奏でる微妙な和音‥。

“音楽的才能が有るのか無いのか?”早智子にも未だ不明である。

一方龍之介はというと、来月に開店する横浜店の準備が大詰めを迎えていた。
今月で契約が切れるNATSUの卒業生 直樹は4月からも『フィールド』で働きたいと
申し出てくれた。

二宮さんも龍之介も大喜びで、4月から龍之介と一緒に横浜店で働くことになった。
現在の山王店(東京都大田区)と横浜店のデータ管理を一括して直樹が受け持ち、
客層別の売れ筋解析をすることになった。

直樹「龍之介さん、僕はこういう仕事がしたくてNATSUに入ったんだ。
   これから楽しみだなぁ。」

龍之介「そうなんだ。こっちも直樹さんがフィールドに残ってくれて大助かりだよ。
    これからもヨロシクお願いします!」
   
二宮さんはと言うと、山王店と横浜店の双方に顔を出すことになっている。
「もう、私は楽をさせてもらうよ。」とおっしゃるが、
 長年の経験に基づくアドバイスは優太と龍之介にとっては大変心強く、
 いつまでも力になって欲しい人。

龍之介「二宮さん、僕たちを見捨てないで下さいよ。まだまだなんですから。」

二宮さん「横浜店長になる人がそんなことでは困るな。期待してるよ!」


そして、いよいよ横浜店開店の4月1日を迎えた。

二宮さんとその奥さん、龍之介と直樹君、午前中 山王店を臨時休業にした優太と博美、
そして陽斗を抱えた早智子が晴れやかな表情で真新しい『フィールド』横浜店に集まった。

入口の両サイドには、赤い“祝開店”のメッセージが飾られたスタンドフラワーが
華やかに立て掛けられている。

1つは、コラボでキャンペーンを成功に導いた株式会社『ドクターEコスメ』から。
もう1つは、龍之介のことをいつまでも気に掛けてくれている喫茶店『ポプラ』からの花飾りだった。

龍之介は2つのスタンドフラワーの赤い文字を見つめながら、
改めて “横浜店を成功させるぞ!”の決意を胸にするのだった。

店のまわりには、新しい花屋の開店を知った人たちが集まり少し騒がしくなっていた。

午前10時。
「本日から、ここ横浜で開店させて頂く花屋『フィールド』です。
 どうか宜しくお願いします!」
 龍之介の声が、あたり一帯に広がった。

「パチパチ。パチパチ。」 店のまわりから歓迎の拍手が鳴り響く。
 龍之介は入口の前に置かれたクス玉へと歩を進める。
 クス玉からは白いひもがヒョロヒョロと春風に揺れていた。

「せーの。」みんなの掛け声で、クス玉のひもを掴んで引っ張る龍之介。
 2つに割れた大玉の中から「ヒュル、ヒュル」と垂れ幕がその身をひろげ
 “祝、『フィールド横浜店!』”と書かれた文字がにわかに現われた。

「パチパチ。パチパチ。」 再び店のまわりから歓迎の拍手。

 その人だかりの奥で、誰にも気づかれぬように涙をぬぐう龍之介の母の姿があった。
“良かったね。龍之介‥。”
 お母さんは静かに開店を見届けると、二宮さんにお礼をいって帰っていった。


龍之介はと言うとそんな事も知らず、力強く働いていた。

「龍之介、気合い入り過ぎて体壊すなよ!」 二宮さんが笑いながら声を掛ける。

優太「体壊しても、店つぶすなよ。」 優太もブラックジョークで続いた。

早智子「龍ちゃん倒れても、私は陽斗くんの世話が優先だからね。」

龍之介「さっちゃんまで。ひどいなぁ。」
  そういいながら早智子のまねをして頬を膨らますと、
 「はっ、はっ、はぁ。」店の周りは笑いの渦に包まれた。

龍之介の人柄もあり、『フィールド』横浜店は賑やかな初日。
お客さんの入りも上々だ。

早智子「二宮さん有り難うございました。」
  早智子は二宮さんにお礼を言うと、陽斗くんの世話をすべく
  川崎のマンションへと帰っていった。

二宮さん夫婦は、子供を背負う早智子の背中と希望に満ちて力強く働く龍之介を見ながら
店を始めた頃の若き日の自分たちを想い出し、微笑み合った。


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