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作品名:『ダンナさまは18歳。』 作者:英庵

第31回   息子

「陽斗(はると)くん、ママが・わ・か・り・ま・ちゅ・か?」
 12月も半ば、生後2ヵ月の長男を抱いて早智子があやしている。

 初めての孫とあって、早智子のお母さんも、龍之介のお母さんも
 暇さえあればマンションに顔を出すといった日々が続いている。

育児休暇中の早智子にとって
オシメのかえ方、陽斗くんの持ち方、2ケ月目に入ってから母乳以外に
生搾りのジュースをあげることなど何もかもが初めての経験で、
双方のお母さんが顔を出してくれるのは大変有り難いことだった。

おまけに、お母さんがマンションを訪れる度に陽斗くんグッズは増えるばかり。
それぞれのお母さんは、プレゼントを見せながら自分を覚えてもらおうと
アピールを繰り返す。

龍之介のお母さん「陽斗(はると)くん、わ・か・り・ま・ちゅ・か?
         りゅうちゃん・ばあ・ちゃん・でちゅ・よ!
         く・ちゅ・し・ちゃ・買って・来まちたよ。」
  そう言いながら、掌より小さなブルーの靴下を陽斗くんの目の前で振っている。

早智子「お母さん、カワイイ靴下有り難うございます!」

龍之介のお母さん「靴下も可愛いけど、それをはいた陽斗くんはチョウ・カワよね!」
  孫に靴下をはかせながら、美雪ことばで話すお母さん。


別の日には

早智子のお母さん「陽斗くん、わ・か・り・ま・ちゅ・か?
         さっちゃん・ばあ・ちゃん・でちゅ・よ!
         ピ・ア・ニョ・買って・来まちたよ。」
  そう言いながら、オモチャのピアノを陽斗くんの頭の上で振っている。

早智子「お母さん、危ないからやめて!」

早智子のお母さん「子供の頃から“音”に親しむのは大事なことなのよ。
         ひょっとしたら、ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールで優勝するカモ?」

早智子「そんな訳ないでしょ。 お母さんの孫よ!」

早智子のお母さん「そっか‥!」
 昔、MHKのど自慢で1フレーズしか歌えなかったお母さんは言った。


一方、龍之介は最近帰りが遅い。
子供ができた事、来年4月から新しい店を任される事が彼をそうさせている。

『誕生香をもらおう』キャンペーンも順調で、新しい店も横浜に出すことに決まっていた。


12月17日の夜。

「ピンポーン」 龍之介は今日も午後10時を過ぎて帰って来た。

早智子「お・か・え・り。」
 そう言って疲れた龍ちゃんの頬に軽くキスをする早智子。

龍之介「た・だ・い・ま。」
 少し元気になって早智子の鼻のてっぺんにキスをお返しする龍之介。

まだ熱い2人は儀式を終えたあと。
龍之介「陽斗はもう寝たの?」

早智子「うん。 いつ泣き出すかわからないけど‥。」

龍之介「さっちゃんも大変だね! ここんとこ、睡眠不足でしょ。」

早智子「大丈夫。 お母さんが来てくれる日は昼間休めるし。
    龍ちゃんも頑張ってるし。」

龍之介「明日は早く帰るよ。 さっちゃんの誕生日だから。」

早智子「龍ちゃん忙しくても、誕生日覚えてくれてるのね!」

龍之介「当たり前だろ。 3人でお祝いしよう!」

早智子「そうか。3人か‥。」
  早智子は陽斗が眠る部屋に目をやったあと、右頬にエクボをつくりながら龍之介を見つめた。

最初はこのマンションで一人っきりで過ごした誕生日。
それが龍之介と二人で祝うようになり、明日は陽斗が加わり3人で。
人数が増える程以上に幸せが大きく膨らんでいくように感じる早智子だった。


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