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作品名:『ダンナさまは18歳。』 作者:英庵

第30回   バトン2

ドクターEコスメの『今度は誕生“花”』キャンペーンも
花屋フィールドの『誕生香をもらおう』キャンペーンも順調な7月の末。

早智子のお腹もだいぶん目立つようになり、周りの人も気を使うようになってきた。
そんな日の定時後の更衣室。
早智子と2人だけになった事を確認して景子が話しかけてきた。

景子「店長、お疲れさま。 お腹だいぶん大きくなりましたね。」

早智子「そうなの。 いよいよって感じです。
    でも初めてで不安もあって‥。」

景子「私もそうだったわ。 店長、キャンペーンも順調だし、そろそろ産休とった方が‥。」
  言いにくいことではあったが、景子はその性格から早智子を思って切りだした。

早智子「そうね‥。」 早智子も部下の中で景子を一番信頼している。
  その景子からかけられた気遣いの言葉。

早智子「入院準備、ベビー用品の準備、名前も考えなくっちゃいけないし‥。
    お言葉に甘えちゃおかな!」
   早智子は景子の反応を伺いながらいった。

景子「そうして下さい。 その方がお母さんも安心だろうし。
   仕事の事は任せて下さい。店長がやってきたことは理解してますし‥。」

早智子「理解してますし‥?」早智子はその後に続く言葉が気になった。 

景子「角派には乗っ取られないようにシマス!」
  冗談とも本気とも取れる言い方で、景子はいった。

 実際、角派はどんどん実績を出して行く森山店長から店長の座を奪う事など、考えていなかった。
 むしろ、“森山店長に付いて協力した方が、高い地位で自分の位置が安定する”という風に
 考えを修正していた。
 そんな気の抜けない角派に対し、景子が警戒心を込め“乗っ取られないように”という言い方をしたのだった。

“景子さんはそこまで気づいている。”そう思った早智子は少し安心し景子に言った。

早智子「では、勝手ですが本当に宜しくお願いします。」
 “やっぱり景子さんは信頼できるな。”そう思いながら、先輩の景子に頭を下げた。

早智子の産休届けは、その週末に無事に受理される。


一方、
『フィールド』では、売り上げが前年同月比81%アップとなり、
直樹の人件費どころか利益も倍増でホクホクであった。
しかし、良い時も悪い時も知っている二宮さんは浮かれることもなく
ある日の午後、優太と龍之介を呼び出した。

二宮さん「優太君、龍之介君。よくやってくれて有り難う。
     私ももう68歳じゃ。今度の3月で一線を退こうと思ってな‥。」

優太、龍之介「えっ‥‥‥。」
  いつまでも二宮さんが一緒と思っている29歳の優太と、20歳の龍之介は言葉を失った。

二宮さん「そこで私が最後に考えてることがある。それを今日伝えようと思ってな。」
  二宮さんはいつもの穏やかな表情で、淡々と話しを始めた。

優太と龍之介は“大変重大な話し”であることを感じ、話しに聞き入っている。

二宮さん「最初はこの店だけで一線を退こうと思ってたんだけどな。
     最後にお前さん達のお陰で良い思いをさせてもらって、有り難いと思ってる。
     そこでじゃ‥。」
  優太と龍之介は二宮さんの話しに意識を集中させた。

    「このペースで行くと、今年度の利益はかなりの物になる。
     このお金は、これからの2人の為に使いたいと思ってな。
     つまりじゃ、もう1件『フィールド』を作ろうと‥。」

優太と龍之介は顔を見合せ、そして聞いた。

優太「もう1件作ってどうされるんですか?」

二宮さん「1件は優太の店、もう1件は龍之介の店じゃ。
     優太、お前最初この店に来た時いってたな。将来は自分も花屋を持ちたいって。
     博美と協力してこの店盛り上げてくれんか?」
   二宮さんは、博美の優太に対する想いを知ってか知らずかそう言った。

   優太は、二宮さんの思いをかみしめ深々と頭を下げた。

二宮さん「次は龍之介。お前はここへ来てまだ日が浅いが、結婚してるせいか
     年の割には覚悟をもって働いとるな。
    “将来花屋を持ちたい”の思いは言わなくとも伝わってるぞ。
     それに“ネット販売”とやらか?
     詳しいことは分からんが、新しい事にも挑戦して良くやってくれとる。
     場所はこれから2人で決めようと思うが、新しい店で頑張ってもらえんか?」

 「ありがとうございます。是非宜しくお願いします。」
 “店に来てまだ間もない僕に‥。”龍之介も二宮さんに深々と頭を下げる。

二宮さん「ただし1つだけ条件がある。」
  穏やかな二宮さんの表情が少し厳しくなった。

二宮さん「それは、店の名前じゃ。『フィールド』という名前だけはそのままにしておいてくれ。」
 『フィールド』それは、二宮さんが田舎から東京に出てきた時
 “荒れた野原がまだ残るこの土地を綺麗な花でいっぱいにしたい”という願いを込めて
 つけられた名前で、二宮さんにとっては人生の一部だった。

そうした想いを二宮さんから伝えられ、2人は言った。

優太、龍之介「“フィールド”の名前、大切にしていきます!」

それを聞いた二宮さんは。
「少し安心したよ。私があの世に行っても2人で仲良くな。」
そういうと、二宮さんはまた仕事場に戻って行った。

二宮さんの後ろ姿を見ながら、
“この人の為にもこれから頑張らなければ! ”そう心に誓う優太と龍之介だった。


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