ドクターEコスメの販売員の朝礼。 店長の加賀淑恵が店員を前にして強い口調でいった。
「ここにきて、売り上げは前年同月比を3カ月連続で下回っています。 このままでは夏のボーナスもままなりません。皆さん、各自1件以上の販売促進案を考えて来て下さい。 企画書の締め切りは2週間後の6月15日(月)とします。」
早智子「え〜。2週間後?! 私こういうの苦手なのよね。」
翔子「私もです、先輩。 それにこの不景気なら去年より売り上げ落ちるの当然ですよね。」
早智子「そうよね。 化粧品はハンバーガーや餃子とは訳が違うし。」
もっともらしい事を言いながら、最初からあきらめている2人だった。
早智子「でも、案を出さないとまた店長にイヤミをいっぱい言われるし。」
翔子「何でもいいからそれらしい案を考えなくっちゃ。」
早智子「その“それらしい”が難しいのよね。 気が重いわ。」
翔子「ほんとです、先輩。」
早智子「あまり先輩、先輩、言わないでくれる。 だからコンパでもでるのよ。 年上丸出しじゃない。」
翔子「すっ、すません、先輩。?」
早智子「‥‥‥。」
その日の昼休み 早智子は仲間と談笑することなく、あごに手のひらを当て物思いにふけっていた。
翔子「早智子さん。 珍しいですね。 販促案を考えてるんですか?」
早智子「ううん。そうなの。」 本当は販促案など考えていなかった。ポプラに行ってから10日。 それから何の音沙汰もない龍之介のことを想っていた。 “あいつ元気にしてるのかな…。 携帯がないって不便だよなぁ。” 自分から連絡の取りようがない現実に、やるせない思いの早智子だった。
それから11日が過ぎた6月12日(金)定時後
翔子「早智子さん。販促案できました?」
早智子「まだよ。この週末に考えないとね。」 最近、『先輩』と言わなくなった翔子に少し満足しながら早智子はいった。
翔子「まだなんですか。私はバッチリですよ!」ホンワカと笑いながら早智子がこたえる。
早智子「販促案が苦手な翔子がバッチリ?!」
翔子「は〜い。兄が考えてくれてるの。明日メールで送ってくれるって。」
早智子「ナヌッ! ホントに、反則(ハンソク)ね‥。」
翔子「先輩、笑えないんですけど‥‥‥。」
早智子「また、先輩って言ったわねっ!!」
翔子「きゃー。コワイ。」 半分おどけながら逃げていく翔子。
その後ろ姿を見ながら、一人っ子の自分と、 まだ販促案ができていない自分と、龍之介のことが気になる自分に憂鬱になる早智子がいた。
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