翌朝
龍之介「じゃあ、さっちゃん先に行っとくね。」 パジャマ姿の早智子に声をかけると、 龍之介は気持ちを入れ替え花屋『フィールド』に向かった。
早智子は玄関で龍之介を見送り、冷蔵庫から龍之介の作ったレモン水を1杯飲んだ。 早智子「さあ、私も朝食べて、準備しよっかな。」
最近は不快感も徐々に薄らいでいた。朝食のパンも喉の通りがだいぶん良い。
早智子は自分のペースでゆっくりと準備を済まし、 朝の8時前に家を出て待ち合わせ場所のNATSUへと向かう。
心地良い春の陽を受けながら9時前にNATSUに着くと、龍之介と翔君がもう待っていた。 早智子は翔君に向かって、エクボを見せながらいった。
早智子「翔君、今日はゴメンね。 情報処理学科の先生紹介してね。」
翔は早智子の顔を結婚式で知っていたが、 今日は大人の女性の魅力と、何かしらのプレッシャーに圧倒されていた。
翔「はっ、はい。 もちろんですっ。」 そして、龍之介にこっそりいった。
翔「お前、あんな綺麗な嫁さんと夜寝てるのかよ。このヤロー。」
早智子は問題を乗り越えるたびに、人間としての良いオーラが出はじめていた。 龍之介は重大な状況にもかかわらず、この時は一瞬鼻が高かった。
しかし、すぐに現実に戻り翔に言った。
龍之介「そんな事いってる場合じゃないんだ。 頼むよ!」
翔「はいよ。 もちろんですっ。」 同じセリフでも龍之介に対しては、当てつけがましいトーン。
しかし、朝のバイトで大変そうな事を感じている翔は、快く先生を紹介してくれた。
早智子「はじめまして。突然で申し訳ございません。ドクターEコスメの森山と申します。」 そういいながら先生に名刺をさし出す早智子。
先生「情報処理学科の波留と申します。」 そういいながら先生は早智子の名刺を見て“女店長?!しかも赤坂本店!” と言う感じで、まゆ毛をピクリと動かした。
早智子は先生に事の状況を丁寧に説明し、熱心にお願いし頭を下げている。 龍之介は“僕の事で頭を下げてくれている。”と慌てて一緒に頭を下げた。 横を見ると何故か翔も頭を下げていた。
先生もNATSUの卒業生がお役に立てるのならと前向きに検討し、 上司と相談して連絡をくれることになった。
早智子と龍之介は翔と別れ、それぞれの仕事場に向かう。
龍之介「さっちゃん、ありがとね。」
早智子「お礼を言うのは卒業生を紹介してもらってからで良いわよ。」
龍之介「そうかも知れないけど、僕いっぱい勉強させてもらったよ。」 微笑みながら、しかし引き締まった表情で龍之介がいった。
早智子「そう? じゃぁ、卒業生を紹介してもらえたら、フランス料理ごちそうしてもらおカナァ〜。」
龍之介「えっ。 体の調子はだいぶ良いの?!」 お金のことより、早智子の体調を心配する龍之介。
早智子「フランス料理はどうか分からないけど、“その位の覚悟はしておけよっ。”てこと!」
龍之介「もちろん。 任しておいて!」
早智子「今回、任せてこの状況だからなぁ。」龍之介をチラッと見ていたずらっぽく笑う早智子。
龍之介「それもそうだね。」と半分笑って早智子を見つめる龍之介。
しかしその言葉の中に、“今度は、僕がしっかりやるよ!” という覚悟を感じる早智子だった。
卒業生を紹介してもれえれば、卒業生と優太がパソコンに張り付いて『誕生花』の宅配処理を行うことができる。 梱包とお客の対応は、二宮さんと龍之介と博美、それに二宮さんの奥さんとバイトの翔と達也もいる。 なんとか切り抜けられそうだ。
NATSUを早智子と龍之介が訪ねてから3日間、 龍之介を始め『フィールド』の店員は朝6時から夜遅くまで必死に働いた。 精神的な疲れに加え体力的にも追い詰められてきていた。
そんな『フィールド』にNATSUの波留先生から電話が繋ってきたのは 4日目の朝11時過ぎだった。
「卒業生決まりましたので、明後日からお願いします。 明日、顔合わせにNATSUに10:00に来て下さい!」
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