夜の10時26分 「ピンポーン。」 「ただいま。」 龍之介の元気のない声が、インターホンから聞こえる。
早智子「お帰り。大変だったね。」 自分も身重で大変だったが、龍之介にそう声をかけ出迎える早智子。
龍之介「まずい事になっちゃった‥。」 疲れ切った表情で龍之介は言った。 “疲れているのは体よりも精神的に。”それは早智子にもすぐ理解できた。
早智子「どうしたの?」 年上らしく、早智子は優しく包みこむように言った。
すると龍之介は、今日の出来事の一部始終を早智子に話しはじめた。
早智子「嬉しい悩みじゃない。」 困難を前向きに捉え、解決しようとする早智子。社会人としては遥かに先輩だ。
龍之介は仕事に対する自分の未熟さを痛感していた。 しかし、妙案は全然浮かんでこない。
龍之介はしばらく黙って窓際を見つめていた。 そこには今年も綺麗な花を咲かせるピンクのガーベラがあった。
早智子「明日、NATSUに行きましょ。朝のバイトを終えた翔君も一緒に。」
龍之介「さっちゃん、会社は?」
早智子「龍ちゃんはそんな事心配しなくていいの。景子さんに連絡しておくから。」
龍之介「で、NATSUに行ってどうするの?」
早智子「卒業生を紹介してもらうのよ。 自分で出来ないのなら、誰かにお願いするしかないでしょ。」 店長になって半年が過ぎ、早智子の決断力はキレを増していた。
龍之介「そうか。」 “さっちゃんが一緒にNATSUに行ってくれる!” 社会人といってもまだ19歳の龍之介。 それを思うと少し安心したのか、急に睡魔が襲ってきた。
龍之介「さっちゃん、僕シャワー浴びたら寝るね。」 明日も5時に起きの龍之介がいった。
早智子「晩御飯は?」
龍之介「『フィールド』でおにぎり食べたからいいよ。」 そう言うと、浴室にいきシャワーを浴び始めた。
手短にシャワーで汗を流し、バスタオルで身体を拭くと ベッドで待っている早智子の横に子供のようにもぐり込んだ。
早智子が少し龍之介の肩を撫でていると、龍之介はもう眠っていた。 その安心した寝顔を見ながら、早智子は半年前龍之介の胸の中で泣いた自分を懐かしく思い出していた。
“持ちつ持たれつ、お互いさま。”
そう思うと早智子もいつしか眠っていた。
神奈川県のマンションの一室。 新たな課題をまた2人で協力して乗り越えて行こうとする早智子と龍之介が 肩をならべて眠っている。
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