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作品名:『ダンナさまは18歳。』 作者:英庵

第26回   想定外

4月1日 『今度は誕生“花”』キャンペーンの初日。

早智子はお腹で順調に育つわが子に気を配りながら、店内を見廻った。
前回の『誕生香』キャンペーンの時に比べると少ないが、それでも普段の5割増しの人出で賑わっている。

一方の花屋『フィールド』では。
『誕生香をもらおう』キャンペーンの初日。

主人の二宮さんも龍之介も相当な客足を期待したが、いつもの1割増し程度にとどまっていた。
2人で少しがっかりしながら事務室で昼食を食べていると、パソコンの前で店員の優太と博美が叫ぶように言った。

優太「ネットでの『誕生花』の申し込みがすごいことになっています。
   11時半から12時半の1時間で150件に迫る勢いです!」

博美「どちらかが一人パソコンに張り付かないと、対応しきれません。」

二宮さん「そうか。優太くん、悪いがやってくれるか!」
  二宮さんは喜びもつかの間、事態の重大さを認識した。

東京の都会にあるとはいえ、1店舗の花屋。
契約店を含め全国に148店舗を展開するドクターEコスメの影響力は
二宮さんと龍之介の想像を遥かに超えていた。

花屋『フィールド』のホームページを立ち上げるときには過剰設備と思われていた2台目のパソコン。
しかし、今は不幸中の幸い。
“パソコンを2台に増やしていて良かった。”そう思う龍之介だった。

だが、そんな悠長なことは言ってられない。
このままにしておけば、早智子とドクターEコスメにも迷惑が掛かる。
“さっちゃんの忠告をもっと真剣に受け止めておけば。”
 そう反省すると同時に行動を起こす龍之介。

龍之介「二宮さんスミマセン。 昼からパソコンの応援のバイトを頼みに行きたいのですが。」

二宮さん「そうか。夜の残業時間のバイト1人と朝の早出のバイト1人がいると助かるんじゃが‥。」
  人区にかんしては計算が速い二宮さんが龍之介に言った。

龍之介は残っていたご飯を口の中にかき込むと、急いでコンピュータ総合学園NATSUに向かった。
“優太さん、博美さん頑張って下さい。”そう心に祈りながら。

龍之介は、額から大粒の汗を流しながらNATSUにたどり着いた。
左腕の時計を見ると午後1時13分。午後からの情報処理学科の講義まで、あと17分だ。
龍之介は足早にエントランスホールに入った。

額の汗をハンカチで拭きながら周りを見渡すと、楕円形の受付の横に翔と達也がいた。
龍之介は手をあげ、2人のもとに歩を進めた。

龍之介「急に呼び出してゴメン。」
  龍之介はNATSUに駆けつける途中、電車の中でメールを打ってエントランスに呼び出していた。

翔「今日は、龍之介の言ってたキャンペーンの初日だろう。」

達也「『誕生香をもらおう』キャンペーンだっけ。時間が無いから手短にな。」
  時計は1時16分を示している。

龍之介「前に話していた件なんだけど、万が一の時が今日きちゃって明日から手伝って欲しいんだ。」

翔「それって見通しが甘かったんじゃないの?」

龍之介「‥‥。 実はそうなんだけど、ゴメン頼む!!」
  今はメンツなど言ってる場合ではない。
  花屋『フィールド』と、早智子と、ドクターEコスメへの信用がかかっている。
  龍之介は自分のミスを認め、2人に頭を下げた。

達也「そんな事しなくても、俺たちの気持ちは固まってるよ! 忙しいのは嬉しい悩みじゃん。」

翔「明日からO.K.だよ。 パソコンを活かしたバイトもしたかったし。」

龍之介「翔、達也。有り難う! じゃあ、1人は午後6時から9時か10時まで。
    もう1人は朝の6時から8時まで。」

達也「えっ。朝もあるの? オッ、俺、朝はダメだよ。 NATSUに遅刻しないのが精一杯なんだから! 翔、頼む。」
  今度は達也が翔に頭を下げてる。

翔「‥‥。」

龍之介「バイト代、1割増し!!」
  花屋の二宮さんから言われている切り札を最初から出してしまう龍之介。

翔「‥‥。 しょうがないな。 引き受けるよ。」
  “1割増し”で気持ちが動いたと思われないように、翔は苦虫を噛んでいるような笑っているような表情で答えた。

「やったー。」龍之介と達也が手をあげた。達也は朝が相当弱いみたいだ。

龍之介「じゃあ、明日から頼むね。仕事の内容は現場で説明するから。」
そういいながら、龍之介は花屋『フィールド』のアクセスマップが載っているビラを2人に手渡した。

「キーン。コーン。カーン。コーン。」始業5分前を告げるチャイムが鳴った。

龍之介「明日、ヨロシク!」龍之介はホッとしながら講義に向かう2人に手を振った。


自分の行動力に少し満足しながら龍之介が店に戻ると‥。

事務室の2台のパソコンの前で優太と博美が慌ただしくキーを叩いている。
梱包場では二宮さんと奥さんが梱包の準備を忙しく進めていた。
奥さんは店が忙しい時に手伝うのが慣例である。

二宮さん「龍之介!なに突っ立てるんだ。早く手伝ってくれ!!」
  普段は温厚な二宮さんが声を強め言った。

龍之介「すいません!」慌てて梱包の準備を手伝う。
  その一方で、お客さんが来られた時の対応もする。

そんな龍之介に二宮さんは言った。
「龍之介、明日は大量に花を仕入れないとな。」
 二宮さんは別に怒っていなかった。ただ、仕事の責任の果たし方を態度で示すかのように黙々と働いていた。

事務室から博美が龍之介に向って言った。
博美「龍之介くん。『誕生花』の申し込み320件超えたよ!」
  「このままだと、500件こえちゃうよ。」 悲鳴にも似た博美のことば。
  
“店員総出で対応。”いみじくも早智子が孫課長にいった状態が、今 花屋『フィールド』で起こっていた。

二宮さん「もう1人、バイトじゃなくて正規にパソコン担当を雇わないとマズイな‥。」
    「龍之介君、ちょっと考えておいてくれ。」
  二宮さんは“龍之介が提案したキャンペーンだからこそ、龍之介に乗りきって欲しい思い”でいった。

  この状況を乗り切る自信がない龍之介は
「は、はい。」と力なく答え、トイレに向かい早智子にメールを打った。

龍之介:「ゴメン。今日帰るの10時をまわりそう。夕食はコンビニでお願いします。」


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