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作品名:『ダンナさまは18歳。』 作者:英庵

第25回   協力
妊娠のことを早智子と龍之介は自分たちのお母さんにだけ報告した。

早智子のお母さんは「つらい時はいつでも連絡するように。」と、
龍之介のお母さんは龍之介に「いままで以上に早智子さんに対して協力するように。」と告げた。

しかし、早智子は体の許す限り働く覚悟を決めていた。

店長になったばかりでようやく赤坂本店も軌道に乗り始めたところ。
しかも、龍之介の店とのコラボの企画も会社は好意的に受け止めてくれ、
今度の4月から『今度は誕生“花”』キャンペーンとして実施することが決まりつつあった。

龍之介は、今年から月、水、金の花の仕入れを担当している。
その為、当日は朝早く店に行き、昨日までの花の在庫状況や今の売れ筋を考慮しながら
二宮さんが出勤するまでに仕入れ案を決定しておかなければならない。


1月下旬の火曜日の朝。

龍之介「さっちゃん、体の具合はどう?」

早智子「少し熱っぽいけど大丈夫。」

龍之介「冷蔵庫にもレモン水いっぱい冷やしてあるから。あと、野菜ジュースも沢山買っておいたからね。」
  そう微笑みながら早智子にレモン水入りの水筒を手渡す。

早智子「龍ちゃん、ありがとね。 私、龍ちゃんと結婚して良かった!」
  早智子は龍之介から水筒を受け取ると、辛そうながらも笑みを浮かべ会社へと向かった。


会社に着くと、早智子は早速龍之介の作ったレモン水を水筒の蓋に注いで飲んだ。
その横を景子が通りかかった。

景子「店長、お水ですか?」

早智子「いいえレモン水です。」
  早智子はそう言いながら、ポケットにしのばせておいた“梅のど飴”を口に入れる。

景子「店長、ひょっとして‥。」
  景子は1人の子持ち。早智子の瞳を覗き込み、反応を窺うように言った。

早智子「他の人にはまだ言わないで下さい。 安定するまでは‥。」

景子「分かってるわよ。 無理しないで下さいよ。」
  そう言って、景子は更衣室のほうへ向かっていった。

“景子さんで良かった。” “これからは気をつけなくっちゃ。”
 乾いた喉を、飴と唾で潤しながら早智子も更衣室へ向かう。



今日も早智子は営業企画部と『今度は誕生“花”』キャンペーンの打ち合わせ。
営業企画部といえば、以前のプレゼンで戦った孫課長(当時、係長)のいる部署である。
孫課長も打ち合わせのメンバーに入っており、今はお互い良い仕事仲間である。

孫課長「これで、キャンペーンの内容もだいぶん固まってきたな。
    準備も今のところ順調だし。」

早智子「そうですね。 4月の実施は大丈夫そうですね。」

孫課長「ただ心配点が1つあるんだよな。」

早智子「何でしょうか?」 早智子は自分も心配している事を頭に浮かべながら聞いた。

孫課長「タイアップする花屋『フィールド』なんだけど。
    誕生花の依頼が殺到した時に対応しきれるのかどうか‥。」
  それは早智子も心配していた。“それを孫課長がすでに把握しているとは。”
  早智子は孫課長の実力を改めて認識するとともに、
 “龍ちゃん頼むね。”という龍之介への期待と願いが交錯するのだった。

早智子「その件なら、店員総出で対応し必要に応じてバイトも雇うと言っておりますので
    ご心配なく。」
  早智子は自らの不安を隠しながら、孫課長に言った。

孫課長「森山店長のダンナがいる花屋でもあるし、ここは任すとしますか。
    今日の打ち合わせはここまでとしましょう。」
  孫課長は、そういって会議室を出て行った。

体のけだるさ以上に、孫課長の一言が早智子の肩に重くのしかかる午後だった。


その日の夜。

龍之介「さっちゃん、お帰り。」 龍之介は疲れを見せずに笑顔で早智子を迎えた。
  龍之介自身も月、水、金は毎日朝5時に起き、早智子の朝食の準備もして6時に出勤。
  そして毎日、午後7時に帰宅してから夕食の準備という生活が続いていた。
  その他、早智子を思いレモン水を作ったり、今までは早智子がやっていた洗濯もやっていた。

 そんな龍之介に、“帰るなり孫課長の言った事をいうのは酷だ。”と思う早智子だったが、
 今後のお互いの為と思い直し、夕食の席で早智子は言った。

早智子「龍ちゃんね。 『今度は誕生“花”』キャンペーンのことなんだけどね。
    反響が良かった時、花屋の人員は大丈夫かな?」

龍之介「二宮さんはパソコンダメだよ。」

早智子「‥‥。」 

龍之介「だって、パソコン世代の前だもん。
 でも、店員の優太さんと博美さんはパソコンバリバリだよ。
 二人でホームページ作っちゃう位だし。僕だってパソコン使えるし。それに。」

早智子「それに?」 

龍之介「僕の友達にも声かけてる。 万が一の時は頼むよって。
    コンピュータ総合学園NATSUに2人通っているんだ。」

早智子「そう‥。」
 “そこまで考えてくれているなら、今日はこれ以上やめよう。”
 ビタミンB6がツワリにいいからと、龍之介が作ってくれた“アボカドと豆腐のサラダ”を食べながら早智子は思った。


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