お客様相談窓口の一件以来、赤坂本店は森山店長のもと少しずつチームとして1つに纏まっていった。 そして12月も後半となり、早智子の誕生日を迎えようとしていた。
12月18日(土) 今日、龍之介は早智子に手料理をごちそうするため『フィールド』に休みをもらった。 ハンバーグ、コーンスープ、大根サラダ。デザートのフルーツケーキ。
店長となった早智子は、今までのように土曜日に休みを取ることは控えていた。 しかし、全部を龍之介に任せては悪いと、早智子は帰宅してからタラコスパを作ることにしていた。
龍之介「さあ、これで準備はほぼ完了。 あとは、さっちゃんが帰ってからハンバーグ焼いて、スープを温めて、っと」
すると、 「ピンポーン」
「はあーい。」龍之介は明るくインターホンに向かってこたえた。
「クロネコハヤトです。印鑑お願いします。」
“なんだよ!” そう思いながら印鑑を用意してドアを開けた。
「へっ、へっ、へぇー。」 ドアの向こうで早智子がいたずらっぽく笑っている。
「龍之介をだましたなぁ。」 龍之介はたまに早智子がやるように頬を少し膨らませた。
“いまだに新婚気分の2人!” 羨ましい限りである。
龍之介「今日早かったね。」そういいながら龍之介は早智子を迎え、鍵を閉めた。
早智子「そうなの。景子さんが今日は早く帰っていいって言ってくれたの。」 「いい先輩だわ。“類は友を呼ぶ”ってか。」
龍之介「いい性格してるね。 そういうとこ見習わないと。
早智子「そうよ。 マイナス思考だと店長やってられないわよ。」
「ところで、夕食の準備は?」
龍之介「出来てるよ。あとはハンバーグ焼いて、スープを温めるだけ。」
早智子「さすがぁ。 そういうとこ見習わないと。」 でも、早智子に料理をものにする気は99%ない。
早智子「わーい。ケーキもある!! ローソクも大が2本、小が1本。」
“おいおい。自分の家でサバ読むか?!”龍之介は思ったが、 “今日はさっちゃんの日。大目にみておこ。” 早智子「さあ。 私も腕によりをかけてスパゲッティー茹でよう!」 そう言いながら早智子がタラコスパを作り始めた。
龍之介「じゃあ僕も。」龍之介がハンバーグを焼き始める。
早智子の31歳の誕生日パーティーがこうして始まった。
「それでは乾杯とまいりますか。」そう言って龍之介は早智子のもつワイングラスに 赤ワインを注ぐ。
「龍ちゃんは未成年だから1杯だけよ。」 “大目にみとこ。(筆者)”
早智子が龍之介のワイングラスに注ぎ返すと。
龍之介「さっちゃん、誕生日おめでとう!」
早智子、龍之介「カンパーイ!!」
早智子「 31歳か。 前に“日本の女は30からが旬!”ってCMあったけど、今、私楽しいなぁ。 そう言えば、あのCMの頃だね。龍ちゃんと出逢ったの‥。」
龍之介「そうそう。さっちゃんと僕の肘がぶつかって。さっちゃんが怒って。」
早智子「やめてよ〜。最近はあまり怒らないでしょ。」
龍之介「そうだね。」 龍之介は優しく微笑む。
早智子「私、龍ちゃんと結婚して良かったよ。私のそうした欠点を埋めてくれるから‥。」 タラスパをフォークにからめながら、さりげに早智子はいった。
龍之介「僕もだよ。 花屋の勉強しながら楽しい毎日を送れて。さっちゃん有り難う!」 龍之介がそういうと、二人はお互い何かを感じ眼を見つめ合った。
二人は食事もそこそこにケーキを食べ始める。
早智子「龍ちゃん、私が食べさせてあげる。 はい、アーン。」 早智子は、龍之介の口にフルーツがたくさん入ったショートケーキを優しく入れた。
龍之介「じゃぁ、今度は僕が。」 龍之介は、早智子の小さな口に小さく分けたフルーツケーキを優しく入れた。
早智子「美味しい!」 早智子が口元にクリームをつけながらそういうと、龍之介がそのクリームを人差し指ですくって舐めた。 そして2人は再び見つめ合うと、寄り添って抱き合いはじめた。 お互いの背に手のひらを優しく滑らせ、いつもより強く抱き締め合う。
そしてベッドの上に身を寄せると、優しさを見せつけ合うかのように熱く深く愛を交わした。「龍ちゃん‥。」「さっちゃん‥。」
31歳の誕生日の夜、早智子のお腹には新しい命が芽生え始めようとしていた
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