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作品名:『ダンナさまは18歳。』 作者:英庵

第2回   合コン?

「へえ〜。 ガーベラの花言葉って色によって全然違うんだ。」
 ねむい眼をこすりながら、花金の夜にパソコンで花言葉を調べる早智子がいた。

「ピンクのガーベラはと。」

“熱愛・崇高な愛・童心にかえる”
“♪恋愛運UPの色でもあるのでお部屋に飾ってもいいかも♪”

「最高じゃーん!♪」早智子はいつしか少女の気持ちになっていた。
 まさに“童心にかえる”である。コンパのこともすっかり忘れていた。
 と同時にパソコンの“童心にかえる”の文字をみて、ふとあの男の子のことを思い出した。
「今日は少し悪いことしちゃったなぁ。」

「ガーベラを窓際に移動させなくっちゃ。」
 HPで育て方のサイトを読んだ早智子は小さな植木鉢を陽のあたる場所に移す。

「シャワーも浴びたし、歯も磨いたし。 手を洗って今日は寝るとするか。」
 そうつぶやくと早智子はベッドにころがりこんた。

薄い掛け布団にくるまりながら、
“こんどあの男の子にお礼を言いに行こう。”早智子は思った。


( 翌週の金曜日 )

「早智子先輩。今日ヒマですか?」
 ホンワカした笑顔で、昼休みに翔子が聞いてきた。

早智子「ゴメン。今日、予定があって。」

翔子「そうなんですか。今日、私が主催のコンパあるんですけど。」

早智子「コンパねえ。ちょっとペース落そうかな。」

翔子「へ〜え。早智子先輩、ひょっとして彼氏でもできたんですか?」
疑惑の目で翔子は早智子に言った。

早智子「一週間前にいなかったのに急にできる訳ないでしょ!」
  彼氏は本当にいなかったが、何故か少し慌てながら早智子はいった。

翔子「めずらしいこともあるんですね。」翔子はまだ疑惑の目をやめていない。

早智子「あの男の子に会いに行こうと思ってるのよ。ガーベラをくれた。
    私ちょっと悪いこと言っちゃったし。
    金曜だからたぶんあの喫茶店にいると思うんだ。」

翔子「なーんだ。あの高校生か。」
  高校生の確証はとれていないのに少し安心したように翔子は言った。

  「先輩、がんばって来てください。私もがんばって来ま〜す。」

早智子「はい、はい。」


定時後、先週のコンパ会場に近い喫茶店『ポプラ』へと早智子は向かう。
花金のため人通りが多く、人と肩が触れることもあったがなぜが穏やかな気持ちの早智子。

そして、『ポプラ』の前に到着した。

深呼吸をして、早智子は自動扉の前に歩をすすめた。

「いらっしゃいませ。」若い男の声がした。
「あっ。こんばんは。」少しおびえたように続けてその若い男がいった。
 見るとあの時の高校生ふうの男の子だった。

「こんばんは。」こみあげてくる笑いをこらえつつ、優しく早智子がこたえた。

早智子「今日は絡まないわよ。晩ごはんを食べにきたの。」

男の子「そうなんですか。」ホッとしたように男の子がいう。
早智子は窓際にある2人用の小さなテーブル席にすわって聞いた。

早智子「ここは何がおすすめ?」

男の子「喫茶店なので品数は少ないですが、コロコロピラフが美味しいと思います。」
    明らかに年上でしっかりしてそうな早智子に、男の子は丁寧に答えた。

早智子「コロコロピラフ? 訳がわからない。説明して。」

男の子「はいっ。焼き肉のタレをからめたサイコロステーキがはいったピラフです。」

早智子「太りそうだけどいいわ。それ戴くわ。あとウーロン茶1つね。」

男の子「はいっ。コロコロピラフとウーロン茶1つお願いします。」
    男の子ははっきりとした口調でオーダーを通した。

早智子「ところで、あなた学生?」

男の子「はい。高校3年生です。」

早智子「高校3年生? ということは私と同じ羊年?」

男の子「はっ、はい。 じゃあ、お姉さんも高3ですか?」
  男の子なりに気をまわしたつもりが、かえって早智子の反感を買った。

早智子「あなた今“お姉さん”って言ったじゃない。高3のはずがないでしょ!!」
   “しまった!今日は怒りに来たんじゃなかった。”早智子はスグに反省した。

早智子「いつもバイトしてるの?」

男の子「はい、毎日。」

早智子「毎日?」

男の子「父を小さいときに亡くしたので。 お母さんを少しでも楽にしてあげようと思って。」

早智子「そう。」
男の子の純粋な瞳を見て少し涙腺が緩んだが、早智子は続けた。

早智子「名前は何て言うの?」

男の子「森山リュウ之介です。森山直太郎の“森山”に、芥川リュウ之介の“リュウ之介”です。」

早智子「あっ、そうなんだ。」
と言いながら、芥川リュウ之介のリュウは“竜?”or“龍?”と自問自答する早智子であった。

早智子「そうそう忘れてた。この間はありがとうね! ガーベラ。」
   「今でも元気に咲いてるわよ。 秋にもまた花が咲くように頑張るからね。」

龍之介「ありがとうございます。僕、花好きなので嬉しいです。
    ‥今度、ガーベラ観に行ってもいいですか?」

早智子「観に行く?私の家に?! …。 本当は私が目当てだったりして‥。」
   早智子はいたずらっぽく笑いながら、龍之介の眼を見た。

龍之介「とっ、とんでもないです! また怒られるのイヤですから。」
   龍之介は正直な気持ちで否定したが、早智子は少しショックだった。

早智子「まっ、いいか。『花の好きな人と羊年に悪い人はいない』って言うから。」
  “羊年”の部分は意味不明だったが、自信たっぷりに早智子はいった。

早智子「龍之介くん。携帯貸して。」
  早智子は少し勇気を出して龍之介にいったが。

龍之介「すいません。僕、携帯持ってないんです。」

早智子「あっ、そうなの。」
  その時早智子は、龍之介が『ポプラ』で働いている“ワケ”を思い出した。
  そしてカバンからメモを取り出し、自分の名前と携帯番号をすばやく書くと。

早智子「ガーベラ観たくなったら、電話してもいいわよ。」
   少し高鳴る鼓動を隠しながら、早智子は龍之介にメモを渡した。


すると、奥からマスターがコロコロピラフとウーロン茶を運んで来て言った。

マスター「お客さん困りますな。店員とずっと話しされちゃ。 合コンじゃないんだから…。」

早智子「すいません。」バツが悪そうに首をすくめながら早智子がいう。

龍之介「マスターすいません。僕も悪いんです。」
  メモをポケットに押し込みながら龍之介は早智子をかばう様に言った。
  そして、奥で呼んでいるお客の方へと去って行った。

早智子はコロコロピラフをかきこむと、龍之介とそれ以上話すことなく店を後にした。

“あいつ、結構いいやつだな。”そう思いながら、地下鉄の駅へ向かう早智子だった。


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