初詣の後、早智子は龍之介の家に呼ばれることとなった。 龍之介のお母さんのおせち料理を、龍之介の妹:美雪を含む4人でテーブルを囲んで食べた。
早智子「お母さんのおせち料理美味しいです。私、料理全然できなくて。」
龍之介「でも、タラコスパ美味しかったよ。」さり気にフォローする龍之介。
早智子「そうなの。ゆでて混ぜるのにコツがあって‥な訳ないでしょ!」
美雪「早智子さん、オモシロイ! 私、早智子さんみたいなお姉さん欲しいな‥。」 美雪の思わぬ発言に顔を赤らめる早智子、動揺する龍之介。
お母さん「そうね。そうだったら良いわね。」 龍之介にはしっかりした人が良いと思っていたお母さんが追い打ちをかけた。
龍之介「‥‥‥。」 その願望はあるが、高3で早智子を養う目処がない龍之介は黙っていた。 そして切り出した。 龍之介「あのぅ。卒業後の進路のことなんだけど‥。」
お母さん「そうね。早智子さんもいるし、丁度いいわね。」
龍之介「僕、将来は花屋さんをやりたいんだけど。」
お母さん「‥‥‥。」
龍之介「いきなりは無理だから、最初はどこかの花屋さんで働いて‥。」
お母さん「どこかの花屋さんで働くっていっても、それで自活できるのかい。」
龍之介「‥‥‥。」
お母さん「お前は花が好きだから、花屋さんになることは反対しないよ。 でも、それまでの人生設計をちゃんとしとかないとね。」 龍之介に幸せになって欲しいからこそ敢えて厳しく接するお母さん。
しかし、今の龍之介に “花屋の夢”と“自活の糧を得る”ことを両立させるのは 現実として無理であり、そのことはお母さんも早智子も龍之介も解っていた。
‥‥‥。
しばらくの沈黙の後、早智子が切り出した。
早智子「龍ちゃん、卒業したら私と一緒に暮らそう。」
プロポーズともとれる言葉に龍之介とお母さんは驚いた表情で早智子の方をみている。 その横で美雪だけがニコニコ笑っていた。
早智子「私と一緒なら、花屋さんで下働きしながら花屋を目指せるわ。」
お母さんは目頭をハンカチで押さえている。
お母さん「龍之介。黙っていないで何かおっしゃい。」
龍之介「さっちゃん。いや、早智子さん有り難う。 僕、そのうちきっと早智子さんを幸せにします! それまでお願いします!」
龍之介の男らしく潔い言葉に、早智子の切れ長の眼からも一筋のうれし涙がこぼれた。
「早智子姉さん、私も遊びに行くからね。」 みんなの気持ちを代弁するかのように、無邪気な笑顔で美雪がいった。
その後、早智子と龍之介はおせち料理がどんな味だったか覚えていない。 お母さんはハンカチで目頭を拭いていた。 ただ、妹の美雪だけが栗きんとんを美味しそうに食べている。 そんな4人のお正月だった。
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