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作品名:『ダンナさまは18歳。』 作者:英庵

第14回   願い

早智子の販売促進案は “『誕生香』キャンペーン” と名付けられ、8月15日(土)の実施に決まった。
残された期間は1か月余り。この不況を乗り切るために極めてタイトなスケジュールが組まれ、
そのプロジェクトチームに販売部から早智子が一人選ばれた。

もちろん、早智子は“8月の『誕生香』ひまわり”の開発に直接協力はできない。
できるのは開発部の人たちを応援し、見守ることだけ。
そうした中で、一つのキャンペーンが多くの人たちの協力によって出来上がっていくことを実感する早智子だった。

今まで積み重ねたノウハウもあり、“8月の『誕生香』ひまわり”は何とか間に合い
今日はいよいよそのキャンペーン初日である。
キャンペーンの内容は、8月生まれの会員の人はもちろん、その日に新たに会員になった人でも
8月生まれの人には“8月の『誕生香』ひまわり”を贈呈するといったもの。
これを来年の7月まで続けるのである。

キャンペーン初日と翌日の日曜日は売り場に多くの人が並び、大盛況であった。
その中には、龍之介と8月生まれの龍之介のお母さんの姿もあった。
早智子はこっそり社割で龍之介のお母さんに化粧水を提供した。

8月17日(月)夜 早智子は龍之介にメールを打った。

早智子:「この土日はいつもの2倍の売り上げがあってもうクタクタ。
     これも龍ちゃんと私の“美貌”のお陰?」

龍之介:「お疲れさま。“美貌”よりさっちゃんが“怖かったり”して‥?!」
   このころは龍之介もだいぶん言うようになっていた。呼び方も“さっちゃん。”


“『誕生香』キャンペーン”は好評で、年末時点での総売り上げは昨年と同じ水準にまで回復していた。
この調子でいけば、3月末の年度売り上げは昨年を上回りそうだ。
それと同時に社内での早智子に対する評価も上がっていた。
当の本人はそんな事に無頓着であったが。


新年 1月1日

初詣。龍之介の家の近くの神社で、早智子と龍之介とそのお母さんは待ち合わせをしていた。
そう。龍之介が早智子のプレゼン前に“赤いお守り”を買った神社。

早智子「龍ちゃ〜ん。」
早智子は人ごみの中、門の横で待っている龍之介とお母さんに向かって手を振った。
龍之介のお母さんは早智子に向って軽く会釈した。
早智子が人ごみを掻き分けやっとのことでたどり着く。

早智子「龍ちゃん、お母さん。明けましておめでとうございます。」

龍之介、お母さん「おめでとうございます!」

龍之介「じゃ、さっそくお参りしようか。」

早智子「うん。」

3人は家族のように境内に向かい、そしてお賽銭を投げ入れた。

「パチ。パチ。」

龍之介:“早智子さんのキャンペーンが大成功で終わりますように。
     それから、早智子さんと結婚できますように。”

早智子:“龍之介と今年も仲良くできますように。
     そして、年上の私をお嫁さんにしてくれますように。”

お母さん:“早智子さんと龍之介が仲良く過ごせますように。
      そして、2人が幸福になりますように。”


早智子「龍ちゃん、何お願いしたの?」

龍之介「“さっちゃんのキャンペーンが成功しますように”って。」

早智子「それだけ?」早智子はちょっと頬をふくらませてみせた。

龍之介「あとは言えないよ。」そういいながら龍之介は頬を赤く染め笑っている。

早智子「ずるいよ龍ちゃん。」

龍之介「さっちゃんは何お願いしたの?」龍之介が聞き返す。

早智子「ヒ・ミ・ツ。」 口元を“ツ”の形にしたまま早智子がおどけている。

龍之介「なんだそれ。」

2人のやりとりを見ながらお母さんが笑っている。
その人ごみの中の3人をまた、お稲荷さんがほほ笑み眺めている新年の門出だった。


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