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作品名:『ダンナさまは18歳。』 作者:英庵

第12回   はじめてのプレゼンテーション

6月24日(水) 14:30

店長「河野さん、そろそろ行きましょうか。」

早智子「はいっ。」

加賀店長が緊張ぎみの早智子に笑顔で声をかけ、2人は第2役員室へと向かった。
役員室の前にはタイムテーブルが張り出されている。

<ドクターEコスメ 2009 販売促進案 最終プレゼンテーション>

発表順
1)孫 信義 営業企画部  案:『ドクタークーポン』の贈呈
   発表時間  15:00〜15:25
   質疑応答  15:25〜15:45

2)河野 早智子 販売部  案:『誕生花の香り』の贈呈
   発表時間  15:45〜16:10
   質疑応答  16:10〜16:30

  ( 休憩 ) 16:30〜16:45

3)講評
  石川政男社長 16:45〜17:00


 15:00 第2役員室

「それでは、只今から“ドクターEコスメ 2009 販売促進案 最終プレゼンテーション”を始めます。」
 総務部の中島部長がプレゼンの始まりを告げた。

第一発表者の孫氏は馴れた口調でたんたんと発表を進めた。
質疑応答も無難にこなしている。
ドクタークーポンを使用した時の効果予測もチャートを示しながら説明していた。

早智子の緊張は“最高潮”に達している。

中島部長「それでは、孫さんの発表を終了します。」
  室内に大きな拍手の音が響いた。

中島部長「続いて 販売部の河野さんの発表です。 販売促進案は『誕生花の香り』の贈呈。」

早智子は龍之介にもらったお守りに手をあてると、深呼吸をして発表台へと向かった。

早智子「販売部の河野です。 販促案『誕生花の香り』について‥‥‥ 」
  早智子も火事場の馬鹿力を発揮して、無難に発表を進める。

  そして、ポケットから“薔薇の香の香水”を取り出しながら言った。

早智子「最後に『誕生花の香り』を体験して頂きます。」
   「例えば6月の誕生花はバラで、花言葉は“愛”、“美”、“幸福”です。」
  そういうと、早智子は“薔薇の香の香水”の スプレーを審査員の方にむけて3回、
  聴衆にむけて3回噴きかけた。

 次第に役員室に薔薇の甘い香りが広がった。

「ほぉ〜。 いい香りだ。」 「花ことばの通り、幸せな気分だ。」

 孫氏の表情が少しこわばっている。

早智子「以上で、発表を終わります。」
 早智子がそういうと、孫氏に負けないくらいの大きな拍手が鳴り響いた。

中島部長「それでは、河野さんに対する質疑応答をお願いします。」

「はい。」営業企画部長を兼務する井上取締役が手をあげた。

井上取締役「大変すばらしい発表でしたが、1つ教えて下さい。」
     「この『誕生花の香り』を販促に使った場合、売り上げはどのくらい伸びると予測していますか?」

早智子「‥。」

井上取締役「わからないですか?」
  同じ営業企画部の孫氏の顔が一瞬ほころぶ。

早智子「この『誕生花の香り』をもらった人が友達に宣伝して、
    それを聞いた人がまたドクターEコスメの製品を買ってくれると思います。」

  室内で少し失笑が聞こえた。

「ちょっとよろしいですか。」加賀店長が手をあげた。

加賀店長「少し補足させて頂きます。 我が社の顧客調査を分析しますと、
     年に4回以上購入して頂いているお客様が50%
     年に2〜3回購入して頂いているお客様が30%
     年に1回購入して頂いているお客様が20%です。
     販売部では『誕生花の香り』を贈呈することにより
     年に1回購入して頂いているお客様に大きな効果が、
     年に2〜3回購入して頂いているお客様にも効果があると見ています。
     以上から推定しますと、5%から22%の間で売り上げUPが見込まれます。」

   早智子がペコリと加賀店長に頭を下げた。

石川社長「22%だと大きいな。」 ひげに手を当て、意味ありげな笑みを浮かべて石川社長が言った。

中島部長「他に質疑はございませんか。 それでは15分間の休憩の後、講評に移らせて頂きます。」

 場内は少しざわめきながら、休憩を迎えた。

 発表内容は互角、質疑応答は明らかに孫氏が優勢!といったところである。


16:45 第2役員室

中島部長「それでは、石川社長から講評を頂きます。」

真剣な表情でマイクを受け取ると石川社長はいった。
石川社長「なかなかレベルの高い発表で良かったと思います。
     役員の間でも評価が分かれました。
     孫君の案の売り上げUP予測が10〜15%、
     河野君の案の売り上げUP予測が5〜22%。」

    「そこで最後に私が河野君に質問し、その応答を受けて私が判断します。」

早智子の心臓がバクバクと音をたて始める。

石川社長「私の個人的な意見では22%の売り上げUPは少し過大評価だと思うのだが
     河野君はどう思いますか?」

早智子「‥。」
少しの間のあと、早智子は答えた。

早智子「社長をはじめ男性に売り上げUPを期待していません。
    『誕生花の香り』は女性のお客様をターゲットにしています!」

   早智子のキツイ性格が最後に出てしまった。

第2役員室はしばらく沈黙に包まれた。


そして、なぜか突然 石川社長が笑みを浮かべ話しはじめた。。

石川社長「はっ、はっ、は。 河野君、君は面白い人だな。
     我が社にも君のような活きのいい社員がいたんだな。
     河野君の発言を聞いて、ウーロン茶の開発ストーリーを思い出したよ。
     あれも女性社員だったかな。
     確かに化粧品販売の主なお客様は女性だ。
     ‥‥‥
     河野君の案に賭けてみるか! 私が責任を取る。」

  石川社長の声が響いたあと、役員室全体から大きな拍手が沸き起こった。
  今までにない笑顔で加賀店長が早智子のほうを見てうなずいている。

  早智子は切れ長の瞳から涙がこぼれるのを必死にこらえている。
  そしてポケットのお守りに手を当てて、心の中でつぶやいた。

 “ 龍ちゃん、やったよ!!”


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