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作品名:『ダンナさまは18歳。』 作者:英庵

第11回   思いやり

6月23日(火) 昼休み

翔子「早智子先輩、準備のほうはどうですか?」

早智子「発表の方はだいぶん練習できたけど。」

翔子「発表の他に何かあるんですか?」

早智子「誕生花の香りのサンプル作っているのだけど、まだ出来なくて。」
  早智子は龍之介のことを隠しつつサンプルの事を話した。

翔子「そんな大それたことやってるんですか?」
  料理もロクにできない早智子を知っている翔子は、ごくあたりまえな反応をした。

早智子「うっ、うん。」

「河野さん、準備は上手く進んでる?」そういいながら、加賀店長がやってきた。

早智子「発表の方はだいぶん慣れてきました。」

翔子「早智子さん、誕生花の香りのサンプルも作ってるらしいですよ。」

早智子「まだ、出来てないんですけど‥。」

店長「そう。がんばってるのね。 昼からは販売のほうはいいわ、私がやるから。
   あなたはプレゼンの練習して、定時に上がってサンプル作り頑張りなさい。」

早智子「はっ、はい。」
  思いがけない店長の言葉に、思いやりとプレッシャーを感じる早智子。

翔子「店長意外にいいトコあるじゃん。」翔子が早智子にささやいた。

店長「山村さん、何かおっしゃって?!」
  店長が目を細めながら翔子に鋭い視線を投げかける。

翔子「 ‥ 。 さあっ、仕事はじめよっかな。」
  翔子はあわてて仕事場にむかった。

天真爛漫な翔子を微笑みながら見送る早智子。
そして、その後早智子は更衣室で一人プレゼンの練習を繰り返した。


6月23日(火) 20:48

プレゼンの練習を自分なりに精一杯やった早智子は、マンションで龍之介が来るのを待っていた。

早智子「そろそろ、バイト終わって来るころだよな。」

すると、
「ピンポーン。」 インターホンが鳴った。

早智子「はい。」

「龍之介です。早智子さん、出来ましたよ!」インターホンごしに弾んだ声が聞こえた。

扉を開けると、龍之介が香水のビンを右手に持っていた。

早智子「出来たの?」 切れ長の目を丸くしながら早智子が言った。

龍之介「サンプル品レベルですけど。」

早智子「まあ、入って。」

龍之介「こんな感じです。」部屋に入ると龍之介はそういって、ビンの蓋をあけた。
  すると部屋中に、甘い薔薇の香りが広がった。

早智子「すごい、龍ちゃん! どうして、作ったの?」

龍之介「えっへん。」 そう軽く咳ばらいをし、
「校庭に咲いているバラを拝借しまして、化学の先生にお願いして実験器具を借りて‥。」
  ビンの蓋を閉めながらそう言うと、龍之介は手順を説明し始めた。

龍之介「まずバラの花をハサミで小さく切って、それをすり鉢ですり潰して
    エタノールを少し加えてまたすり鉢で軽くすり潰します。
    それを濾紙で濾します。濾した液を香水に混ぜただけです。
    作り方が雑なので香水が少し濁っちゃってますけど‥。」

早智子「全然すごいよ、龍ちゃん。 ありがとね!」

龍之介「早智子さん、あとこれ‥。」
  そういうと、龍之介はジーンズのポケットから小さな袋を取り出した。

龍之介「早智子さんが力を出し切れるように、日曜日に近くの神社で買ってきました。」

  “赤いお守り”の中央に『心願成就』の文字。

早智子「 嬉しい! 本当にありがとう!!」
 早智子はそういうと、龍之介の両肩に手を置き少し背伸びをしながら
 まだ若いそのくちびるにそっとキスをした。

「さっ、早智子さん。 ‥  明日頑張ってくださいね。」
 そういって龍之介はあわてて帰って行った。

甘い薔薇の香りが漂う部屋の中。
龍之介や店長らの思いを感じながら、“明日、がんばろう。”そう決意する早智子だった。


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