「今日も大したオトコいなかったわねぇ。」 花金のネオンが鮮やかな合コンの帰り道、早智子は親友の翔子に言った。
河野早智子 29歳 独身 ドクターEコスメの化粧品販売員。
「ほんと。一流メーカーの開発エリートというから少し期待したのに。」 早智子の1年後輩の翔子が残念そうにつぶやく。
「“日本の女は30からが旬!”ってCMでもいってるのに、最近のオトコは若い子ばかり チヤホヤして全く見る眼がない!」早智子が続けた。
そう!合コンにありがちな独り勝ち。 今回の合コンは3人×3人ということで、26歳の後輩 希(のぞみ)を参加させたのだ。 明らかな作戦ミス。今回の人選は早智子自身が行ったため、翔子にあたることもできずにイライラする早智子。
ガツン!!
「 痛あ。 」ジーンと痛む右ひじをさすりながら早智子が振り返る。
「す、すみません。」気の弱そうな高校生ふうの男の子が謝っている。 両手に植木鉢を抱えており、その小さな鉢の上でピンクのガーベラがネオンの光を受けて揺れていた。
「何で今頃、鉢を持って歩いてるのよ!!」 相手が気の弱そうな学生と見るや早智子はたたみかけた。
「先輩‥。」 翔子が早智子の服をひっぱりながら、興奮気味の早智子をなだめにかかる。
「バイト先の喫茶店が今日で1周年だったので、お祝いのガーベラをもらったんです。 ボク、花が好きなので‥。」 「そこの喫茶店『ポプラ』です。」 純粋そうな瞳を輝かせて男の子は答えた。
男の子が指差した方向を見るとお祝いのスタンドフラワーが立てかけてある喫茶店が見えた。
「そうなの。」いくぶん平静さをとりもどしながら早智子はいった。
「あのぅ。もし良かったら、このお花差し上げます。僕がぼっとしてたので。」 ニッコリと笑いながら男の子は言った。
「ありがとう。私たちもぼっとしてたからね。コレもらっとくね。」 無事にこの場をおさめたい翔子が、早智子よりも先に少年に答えていた。
「ありがとう。」早智子もいつしか笑顔になり続いて答える。
「今時、めずらしい男の子だったね。」何気なく翔子が早智子に語り掛けた。
「そうね。」植木鉢を持つ右ひじがまだ少し痛かったが、男の子の優しい気持ちに触れ なぜか少し心がほぐれる早智子。 「また来週ね。」地下鉄の駅前で早智子と翔子は別れた。
花金の夜の電車の中、植木鉢をもつ早智子に自然と客の視線があつまる。 少し恥ずかしそうな早智子。
「宮崎台。宮崎だ〜い。」 駅を降り、一人住むマンションへ。
“ガーベラの花言葉、家に着いたら調べてみよっと。” 植木鉢を抱えながら、こころの中で想う早智子がいた。 ピンクのガーベラが新しいご主人の胸の前で嬉しそうに揺れていた。
|
|