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作品名:不釣合いなカップル 作者:英庵

第7回   7
同窓会が終わった後、雄太と愛は何日も同じメールを繰り返し見ていた。

雄太のメール:「今日は久々で楽しかったな。やっぱり昔の仲間はいいな。
        気をつけて帰りや。☆」

愛のメール:「今家に着いたよ。ほんと、あんなに笑ったの久しぶり。(^o^)/
       また6組で会いたいね。」 愛の思い:“ほんとは6組って書きたくないよ。”

雄太のメール:「是非今度会おうな。おやすみ。」 雄太の思い:“6組って書かないで返事するのが精一杯や。
        なんで愛 結婚してるねん。”


こんな現状を一時でも忘れたく、雄太はレナに向かう。
同窓会から一週間後のことだった。


「チリン、チリン」

「久しぶり!」いちはやく香奈が気づき雄太のほうを見ながら明るく言った。

「そやなぁ。いろいろあって。」
 ほんとうにいろいろあったが、雄太はあえて社交辞令のように言った。

「こんにちは。実夏です。覚えてますか?」
 ボブカットの実夏が照れくさそうに言った。店に入りたての3回生にはこれが精一杯の挨拶。
 しかし雄太は、結婚している愛にメールを送るのが精一杯の自分と重なり、ほほえましく思った。
“今日は実夏とメインで話そう。 香奈と話ししてややこしくなったらあかん。”

「実夏ちゃんはどんな歌聴くの?」雄太が話しかけた。

「私、ジュディ&サリが好き。」と眼を少し開きぎみに実夏は微笑んだ。

「そう言えば、その眼ボーカルのユキに似てるな。 だからボブカットか。」
 雄太は芸能ネタに結構スルドイ。

「そんなの気付いてくれた人初めて。」はずかしそうに実夏は雄太を見た。

「オレはクリスマスって歌が好きやけど知ってる?」

「知ってるけど歌えないカモ。カラオケで歌ったことないので。そばかすなら歌えます。」
 会うのが2回目の雄太に実夏はていねいに答えた。

「じゃ、それいこか。サビはおれも一緒に歌うわ。」
 雄太がそういうと、実夏はうれしそうにリモコンの画面をペンでタッチした。

「ピッ。ピッ。ピッ。」

♪ダダダダ・ダダダダ・ダンダダーン♪

♪想い出はいつもキレイだけど それだけじゃ おなかがすくわ♪
 実夏がこの曲を選んだのは偶然だったが、雄太は今の自分の気持ちを重ねてサビを歌った。

「ありがとうございました。」歌い終わって実夏は雄太にいった。

「有難う!」雄太はそう言うとふと現実に返った。

「雄太さん、ジュディ&サリも歌うんだ。」
 笑い顔と澄まし顔が半分混ざったような表情で香奈が話しかけてきた。

「ああ歌うよ。香奈ちゃんのイメージにジュディ&サリはなかったから今までリクエストせんかったけど。」
 香奈をフォローするように雄太は言った。

「ジュディ&サリとEvery Large Thing(E.L.T.)は良く聞いてたで。」
 これは事実である。そして雄太は香奈の歌うE.L.T.の恋文が好きだ。

“あかん。やっぱり香奈とは相が合う。”そう思いながら雄太は続けた。
「香奈ちゃん、久しぶりに恋文を歌ってや。」

 すると、もう一人の雄太が心の中で言った。
“今日は実夏とメインで話そう、言うたんと違うん。香奈を好きになるで。”

♪君とふたり 過ごした日々♪ 甘いかすれ気味の声で香奈が歌い始めた。

♪僕が見つめる先に 君の姿があってほしい 一瞬一瞬の美しさを、
 いくつ歳をとっても また同じだけ笑えるよう、
 君と僕とまた、笑いあえるように… ♪

 眞鍋さおり似の瞳を半分伏せながら、香奈は歌を終えた。

 店内には割れんばかりの拍手が鳴り響いた。

そして、雄太の心もいつも以上に癒されていた。
“香奈のことを意識しはじめたのは去年のクリスマス前だったよな”
 雄太はふと思い出していた。


 そのとき雄太は既に離婚が決まり、あとは手続きを残すのみの状態だった。


(2008年 冬)

「クリスマスまでまだ少しあるなぁ。」
 香奈の上がりの時間が近づいた頃、水割りを飲みながら雄太は香奈に言った。

「いや、もうすぐだよ。わたしの中では盛り上がってないけど。」香奈は答えた。

「さみしい女やねえ。」冗談ぽく店のママがいった。

「じゃ、白い恋人達を歌うわ。」雄太はそう言って曲を送信した。
 香奈は瞳を少し細め嬉しそうに笑った。

♪心折れないように負けないようにLoneliness
 白い恋人が待っている
 だから夢と希望を胸に抱いてForeverness
 辛い毎日がやがてWhite Love ♪

 香奈は伴奏が終わるまで曲を静かに聞いていた。

「香奈ちゃん、そろそろ上がりの時間よ。」ママが香奈に言った。

「じゃ。上がるね。」香奈は雄太にそう言うとフードのついた白いコートを身に纏った。

「お疲れ。」雄太はいつものように香奈に手を振った。

香奈は扉をあけ店を出たあと、雄太のほうを振り向いた。
雄太はもう一度手を振った。
香奈は雄太を見つめている。

“どうした香奈。さびしいんか。”雄太は心の中で香奈に語りかけた。

 香奈はまだ雄太を見ている。
 そして、家へと帰って行った。

この時なぜ雄太は香奈を追わなかったのか。

追いかけても厳格なママが止めに入った?

いや、それ以上の理由が雄太にはあった。
先に述べたように、
雄太は香奈に対し『似てるけどどこか違う だけど同じ匂い』を感じていた。
それだけ香奈の事を大切に思っていた。最初は妹として。

今、香奈を追いかけて抱きしめたら、世間から見れば不倫。
そして、その後2人が結ばれたら、香奈は不倫として知り合った女。
香奈にそのイメージが似合わないのは、雄太が一番分かっていた。

だが、この日の出来事をきっかけとして、雄太の香奈への思いは“妹”を超えていこうとしていた。


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