二次会のカラオケには約80人が集まり、3つの部屋に分かれた。 雄太、智美、愛、小谷の4人は当然のように同じ部屋に入った。
空いた席の奥に雄太が最初に座ると、隣に愛が座って来た。 学生時代は控え目だった愛も、子供を2人産むと物おじしない。
面倒見の良い幹事の山川が3つの部屋の飲み物を手配し始めた。
「俺、カクテルのジントニ白ぶどう。」 割勘負けしない小谷が1番に答えた。
「あんた、こういう時だけタイミングいいなあ。」智美が言った。
「おれはカクテルのライチ白ぶどう。」 「私もカクテルのライチ白ぶどう。」雄太に続いて愛が言った。
“マジかよ、人妻を好きになるやんか。” 雄太は喜びと少しの戸惑いの中、平静を装った。
「私は車やからウーロン茶にするわ。」智美が残念そうに言った。 智美の家は神戸の奥の新興住宅街。 電車だと約1時間半かかるが車だと30〜40分だ。
何人かが歌いはじめた。 そして、雄太は自分が歌うわけでもないのに 北城秀樹の懐かしのヒット曲「ヤングマン」を入力した。 中学の時、野球部の佐藤が振り付きで歌い盛り上がった曲だ。
佐藤は気づいていない。 ♪チャーチャチャー♪ ヤングマンの伴奏が鳴り出した。 「佐藤!佐藤!」佐藤コールが起こり始めた。
♪Y.M.C.A♪ ♪ワーイ.エム.シ.エ♪ なかなかの盛り上がり。
「この技師!」智美が雄太に言った。
佐藤に続き何人かが歌った時、突然智美が帰ると言い出した。 「タバコの臭い苦手やし、帰って犬の散歩もしなあかんし。」
「部屋に入って40分しかたってへんぞ。」雄太が言ったが 「でもやっぱり帰る。」と智美は返した。
「私送る。」愛が言うと、「そしたら俺も。」と雄太と小谷が続いた。 さすが智美の貫録、いや人徳である。
ボックスを出て駐車場へ向かう途中、雄太は立ちどまり言った。 「これから4人で軽く食事にでも行かへんか。折角久しぶりに会ったんやし。」
「そうしよう。」小谷が言った。
「犬の散歩は家の人に頼めばいいし。」愛が気の利くことを言った。
しばらくの沈黙のあと、 「じゃあ家に連絡してみるわ。」 智美が電話するのを3人は固唾をのんで見ていた。
「オッケー。」智美は八重歯を見せながら親指とひとさし指で○をつくった。 「この近くにイタリアンのサンゼリアがあったよな。」小谷が言った。
駐車場に向かった智美が赤のワンボックスに乗って駐車場から出てくる。 最初に小谷が助手席に乗り込んだ。 雄太は残った愛を先に後部座席に乗せ、最後に愛の横に座った。
4人を乗せた赤いワンボックスが、カラオケボックス チャンカラの前を通り過ぎていく。 4人はそれぞれに、チョットしたいたずらをしたような感慨に浸っていた。
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