「本日から土日の高速道路1000円の2重徴収がなくなり、完全実施となります。」 テレビのニュースが暗にゴールデンウィークの始まりを告げている。
「もうすぐ中学の同窓会か。」 雄太は懐かしさと期待が入り混じった気持ちでカレンダーに目をやった。 その一方で、離婚したことに加え、求職中の現実をどこまで話すか決めかねていた。
雄太の離婚と退職は密接な関係がある。 雄太の前妻はとある会社の会長の娘であり、雄太は一流大企業で順調に昇進していたものの その道を捨て義父の会社の発展にその身を捧げた。 そして、どこの家庭にもあるささいな理由での夫婦げんか。 雄太は再びやり直す道を模索したが叶わず離婚となった。 そして専務職から求職中の身となった。
“まあ、その時の流れで決めればいいや。” 雄太は心の中でつぶやいた。
( 同窓会当日 5月2日 )
「行って来るで〜。今日は遅なるかも。」24区スポーツのシャツに紺のジャケットを纏って雄太は家を出た。 “今日は遅なるかも。”は勿論期待の言葉。 “智美は「今回は今まで連絡つかへんかった子がいっぱい来るで。」って 言っとったよなぁ。 愛の消息がわかったんかな。今まで1回も参加してへんからなぁ。”
愛は智美と同じく小学校と中学校の同窓で、中学では2年・3年と同じ6組だった。 性格は天然ぼけだったが、その性格で住所を連絡していないだけなのか、それとも本当に消息が不明なのか雄太は心配していた。
“俺確か中3の時、愛のこと好きだったよな。2年のときは違ったけど。” 中学生の時、男子はたいがい1年毎に好きな子が変わる。 雄太もそのうちの1人だった。 “でも、小学校から何回も同じクラスになったのに何で中3で好きになったんやろ。”
そんなことを考えているうちに、同窓会会場である芦屋市内のホールに着いた。
“5Fだったよな。”雄太はエレベーターのボタンを押した。
「ピンポン」エレーベータのドアが開くと。
「雄太!」 受付けで野球部で一緒だった山川が叫んでいた。
「山川、久しぶり!」 前回、雄太は参加していないため15年ぶりだ。 横には同じく野球部と3年6組で一緒だった横山がいた。 「おう横山、今日は話しが合いそうやな。」雄太は笑いながら言った。 智美からの情報で横山も離婚していることを雄太は知っていた。
受付で参加費8000円を払い、参加者名簿をもらった。
“6組は最多の21人が参加予定。”と同時に、 「早川智美」の下に 「星野愛」の文字。 “愛 来るんや。” 雄太は安堵と嬉しさが混ざりあった気持ちになった。
その時、「今日、ドタキャン多いねん。」面倒見の良い幹事の山川が言った。
“愛は来るんか。”心の中で雄太は思ったが、そんな事を聞いたら中学のノリで 「雄太まだ愛に気があるんか。」と、山川と横山がつっこんでくるに違いない。 雄太は知りたい気持ちを心の中にしまった。
「雄太!」 向こうから八重歯をのぞかしながら智美が近寄って来た。
「智美。」 雄太も手をあげてこたえた。 「智美、結構若いやん。」
「結構とはどういうこっちゃ。」 いつもの調子で智美がサバサバ言った。 こんな会話をしながらも雄太と智美は仲が良い。 正義感が強いもの同士お互いを信頼していた。
「今から青山中学校の同窓会を始めます!」 幹事の山川が相変わらずの大きな声で叫んだ。 「最初は記念撮影!!」
「智美、隣に座ろうぜ。」 雄太は智美に声をかけた。
「よし。座わったろう。」 智美がまた八重歯をのぞかしながら言った。
撮影を終えた後、「席は自由です。」幹事の山川が言った。
3年6組は自然に2つのテーブルに集まりだした。
「雄太。愛が来たら教えてな。」智美が言った。
すると、雄太の視界の右側から“小柄でポワンとしたショートヘアの少女?、 いや女性? いや、愛だ!” 雄太は心の中で叫んだ。
「愛やんか!」すぐに親友の智美が反応した。 「あんた全然変わってへんなぁ。」
実際、智美も若く35、6歳に見えたが、愛は20代後半でも通用した。
「あんた苦労してへんのとちゃう?」智美が言った。
「でも子ども二人産んだで。」ポワンとした声で愛が答えた。
「雄太君。久しぶり!」 中学時代の顔立ちに少し大人の香りをただよわせた愛が言った。
雄太の右横に智美、その横に愛が座った。
これまで多くの修羅場を経験した雄太が、テンションが上がるのを見破られまいと 平静を装う。
しかし、思いもよらない恋の炎は31年ぶりに燃え始めようとしていた。
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