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作品名:不釣合いなカップル 作者:英庵

第2回   眞鍋さおりの瞳

『 “求職活動は恋愛と同じ”って言うけど、ホンマにそうやなぁ。
 良いと思った会社にはソッポ向かれて、
 あまり気が向かない会社の面接はポンポン進んで。

 増してこの不景気。
 給料は安いけど雰囲気の良い会社に残りの人生を賭けるか、
 給料も雰囲気もそこそこ良い会社が見つかるまで粘るか。
 でもそんな会社見つかる保証はどこにもないからなぁ。

 まあやるだけのことはやって、どっかで判断するしかないな。 』

そんな事を考えながら雄太はリグナピの画面をログアウトした。

求職活動中の雄太の日課は、
・WEBを通じての求人情報チェックと応募
・英語教材のヒアリング
・WEBを通じての経済情報チェック
・株価のチェック
・ニンタイドウDSでのペン字トレーニング
と、意外に多忙である。

そして、1〜2週間に1度、神戸郊外のスナックに通う。

「今日は2週間ぶりに“レナ”(スナックの名前)に行こか。」
 雄太はひとりつぶやいた。

雄太の実家がある芦屋市からレナまでは電車で約1時間20分。
なぜそんなに遠いスナックまでわざわざ通うのか。

理由の1つは値段が安い。
ボトルキープさえしておけば何時間いても、何曲歌っても3500円。
ボトルを入れた日でも9000円。
今時こんな店があるだろうか。
しかし、こんな理由は30%に過ぎない。

残りの70%は“香奈”である。
香奈は神戸の女子大の4回生で1回生の時からレナでバイトしている。
最初は少女っぽさを残していたが、今では眞鍋さおり似の瞳で雄太の心を癒してくれていた。


「チリン、チリン」

「いらっしゃい!」店内に香奈の低い声が響いた。
 それでいて歌うときは高音になる。

「元気にしてた?」短めの髪をかきあげながら、香奈が笑顔で話しかけてきた。
 笑うとほほの肉が人より盛り上がるのが香奈の特徴だ。

「俺はいつも元気やで。」雄太はあまり落ち込まない性格である。
 たまに落ち込んでも、翌朝には気持ちが切り替わっている。
「横の子は新人さんか?」

「そう。大学では新人じゃないけど、この店では新人の実夏ちゃん。」
 笑わそうと思っているのか、天然なのか。
 香奈の言葉の真意が未だに良くわからないことがたまにある。

「実夏ちゃんか。雄太です。宜しく。
 というこは、2回か3回生?」

「3回生です。」最近にはめずらしいボブカットの実夏が言った。

しばらく世間話をした後、
「就職は決まったんか?」雄太は香奈に聞いた。
香奈も不景気のあおりを受け、希望の食品会社を何社か受けたが内定をもらえないでいた。

香奈は伏し目がちに首を横にふった。

「頑張ってれば、なんとかなるさ。今日は楽しもうぜ!」
 自分にも言い聞かせるように雄太は言った。

そして雄太はカラオケのリモコンを手に取った。

雄太のレパートリーはかなり広い。
フォークソング時代に若き日を過ごしたが、ポップ、ロック、演歌、
その日の気分で好きな歌を歌う♪  O型の典型か。

「香奈ちゃん。未来予想図Uを歌おう。」
 最近、雄太と香奈は良くこの曲を歌う。

「いいわよ。」
 香奈はバラード系のゆっくりとしたテンポの曲を好む。

♪きっと何年たっても こうしてかわらぬ気持ちで
 過ごしてゆけるのね あなたとだから〜♪

香奈は自分の恋人を想像しているのか(本人は彼氏はいないと言っているが)、
穏やかに微笑みながら歌った。
たまに雄太をみる視線が雄太の心を癒した。

雄太の声は歳のわりに爽やかで、香奈の声と良くなじんだ。
香奈のファンは多く、嫉妬の混ざった拍手が店内に響いた。

雄太と香奈はお互いに満足して、マイクを置いた。

雄太は香奈のことが好きだったが、眞鍋さおり似の瞳が気に入ったわけではない。
容姿で人を好きになることは既に卒業していた。

人は10年〜15年に一度、“生理的に相性が合う人”と出逢う。
“あいつは生理的にキライ”の全くの逆で、
基本的な部分が同じで 違う部分がお互いを刺激し惹かれ合う存在。
歌のフレーズで言うと『似てるけどどこか違う だけど同じ匂い』といったところか。

雄太にとって、B型の香奈はそんな存在であった。
しかし、2周り以上離れている香奈を好きになることを必死に抑えようとしていた。


レナでの3時間が過ぎ、終電の時間が近づいた。

「ママ、チェック。」
 雄太は両手のひとさし指で×しるしをつくった。

「それじゃ。」3500円を支払い、雄太は何事もないかのように香奈を見た。

「また来てね。」香奈はB型らしくマイペースで雄太を見送った。

香奈の瞳を思い出しながら、雄太は店を後にした。


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