「雄太、女の子から電話よ! 」
南城雄太 46歳 求職活動中
母親の呼び声で雄太は目を覚ました。 テレビではイヤネ屋の司会者が笑顔でグルメ情報を伝えている。 “坊主からだいぶん髪が伸びたな” そう思いながら 雄太は音量を3つ下げた後、電話に出た。
「雄太ですけど。」
「はっはっはー。私よ。智美。 女の子なんて言われたん久しぶりやわ。」
電話の相手は、中学の同級生の智美だった。 母親も良く知っているが、耳が遠くなったせいで 名前を聞き逃したらしい。
「おう、久しぶり。震災以来やなぁ。 びっくりしたわ。」 本当は、相変わらずの元気な声にビックリしたが 余分なことは言わずに雄太が話を続けようとすると‥
「私のほうがびっくりしたわ。なんで実家におるん?」
「あぁ。実は今年の1月末に離婚してん。 で、2月の中からこっちにおるねん。」 “智美やったらいいか。” 雄太は包み隠さず話した。
するとすかさず 智美「最近、離婚多いなぁ。横山や大西もやで。 小谷もやわ。」
雄太「よう知っとるなあ。」
智美「私も子供の養育費が無かったら…。」
雄太「あほな事言うな。で、何の用やねん?」
智美「そう。そう。電話切るとこやったわ。 今度の5月2日に中学の同窓会をするねん。 雄太の住所が不明になってたから、私が実家に連絡することになったんやわ。 そしたら雄太がおって、本題に入るまでが長なって。」
“半分以上はお前のせいや。”そう思いながらも 雄太「おう。5月2日は空いてるで。 前回参加できへんかったから是非参加するわ。」 本当は5月3日以外の連休はヒマだったがそう答えると‥
智美「ほんまぁ。雄太と会うの久しぶりやから楽しみやわ。」
雄太「14年ぶりやなぁ。俺も楽しみや。宜しくな。」 震災直後に顔を出してくれた智美を思い出しながら雄太が答えると‥
智美「詳細はまた連絡するわ。携帯教えて。」
雄太「090−1234−5678」
智美「覚えやすいねえ。で、会社はAq?」
雄太「そうや。」
智美「私もやからBメールするわ。 今回は今まで連絡つかへんかった子がいっぱい来るで。」
雄太「ほんまに。俺への連絡係みたいになって悪いけど頼むわ。」
智美「ほんまやわ。じゃあね。」 ストレートに悪気なく智美は言って電話を切った。
雄太も受話器を置き、ソファーに腰を下ろしてカレンダーに目をやった。 “5月2日(土)かぁ。離婚直後に同窓会か。”
テレビではイヤネ屋で新型インフルエンザのニュースを伝えている。 だが、雄太も新型のウィルスにうなされることになろうとは誰も知る由がなかった。
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