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作品名:NEW WROLD〜Side Story〜 作者:月野 智

第2回   乙女なナナミの華麗な恋路 EP1<2>
              *
「マキ少佐っ!お仕事、お疲れ様です!!」と、ツァーデ・リーダー・オフィスのオート・ドアを潜ったナナミだったが、そこに、ツァーデ小隊隊長リョータロウ・マキの姿は無く、その代わり、驚くべきものを発見したのである。
デスクの上には、空いていない三つのランチボックスが並んでおり、それぞれのボックスにはこんなメモが貼られていたのだった。
『T―1の整備は完了でーす(ハート)。いつでも発進できますけど、出撃の度に泣きそうになって帰りを待ってます。無理しないでくださいね。   マリア』
次のメモはこう。
『前回の任務お疲れ様でした!少佐の腕には毎回惚れ惚れ(ダブルハート)。一度、操縦技術の指導をお願いします!    ネリー』
そして最後のボックスにはこう書かれている。
『ハードなスケジュール、いつもお疲れ様です。食事ぐらいゆっくりと摂れるといいですね。今度は、私が何か作ってもってきますね。     ケイティ』
ナナミは、握りしめた拳をぷるぷると震わせてしまった。
背中から憤怒の炎が立ち昇るが如く、可愛らしい顔を険しく歪め、敵ランチボックスを真っ向から睨みつける。
完全に先を越された・・・・
ナナミ、不覚・・・
遅れを取った・・・・・
でも、ナナミは負けない!!
そう。
片思い歴の短い輩はこうやって物資を置き去りにするのだ。
だが、片思い歴の長いナナミは、手渡しするまで・・・・絶対に、絶対に諦めないのだ!!
再び気合を入れなおし、ナナミは、猛然とツァーデ・リーダー・オフィスを飛び出した。
ナナミの調査情報によると、デスクワークが一段落した時、リョータロウは、コーヒーを買うために、パイロット更衣室近くにある休憩室に向かう。
もしかしたら、そこで一人コーヒーを飲んでるかもしれない。
ナナミ、第二次迎撃体制完了。
犬の尻尾のような髪束を揺らし、パンプスのかかと鳴らしながら、ナナミは、パイロット・ワーク・オフィスの通路をひた走り、レイバン発進デッキ近くの休憩室へと向かっていく。
通路を歩いていた整備士やパイロット達が、旋風を巻き上げて走り抜けていくナナミを、何事かと言うような顔つきで眺めやるが、やはり、ナナミはそんなことなど全くもって気にも止めない。
目指すは・・・・!
卓越した操縦技術を持ち、クールなのにどこか熱血漢で、子供に優しくて、すらりとした長身で、セラフィム一の出世株で、精鋭部隊ツァーデ小隊の隊長であるマキ少佐の元である。
初めて会った時、あの凛とした黒曜石の瞳にすっかり見惚れ、そこから、ずっと片思いをし続けてきたのだ。
ライバルが多かろうが何だろうが、そんなの全然関係ないのだ。
ライバルなんて・・・
ライバルなんて・・・・
全部ナナミが蹴散らしてやるうぅぅぅぅ―――――――っ!!
ナナミは、心中でそんな奇妙な雄叫びを上げながら、休憩室の入り口に設置されたガラスのオート・ドアの一歩手前へと立った。
すると、ガラス越しに見えるソファの上に、膝を組んだ長い足が見える。
自販機の陰になって顔は見えないが、ソファに横になった姿勢。
スラックスの色は、指揮官職を示すシルバーグレイ。
『きゃぁぁぁぁ――――――っ!ターゲット発見―――――・・・・っ!!』
声にならない歓喜の叫びを上げて、ナナミは、慌てて乱れた髪を整え、制服の襟とタイトミニスカートの裾を直した。
そして、意気揚揚と、オート・ドアの前に立ったのである。
ゆっくりと、ガラスのドアがスライドする。
その時だった、ソファの方から、聞き覚えのある低い声が響いてきて、ナナミは、ハッと足を止めたのだった。
「・・・・・なんでおまえが此処にいるんだよ?飯はどうした飯は?休憩時間だぞ?」
いやん、マキ少佐の声だ〜(ハート)。
もしかして、ナナミに気付いてくれたの!?と、そんな事を思い、にんまりと笑いながら、ソファの上に横になるリョータロウに声を掛けようとした。
その時である。
「あら、そう言うあなたは、一体此処で何してるのよ?」
ナナミより早く、リョータロウの声にそう答えたのは、明かに女性の声だった。
な、な、なんですとおぉぉぉぉ―――――――っ!?
ナナミは、綺麗な眉をぴくぴくと痙攣させて、意味もなくさっと自販機の陰に隠れると、苦々しい顔つきをしながら、まるで、インフォメーション(諜報部)のエージェントのように、ソファ・ブースをこっそり覗きこんだのである。
すると、リョータロウは、さも気だるそうな顔つきでソファに仰向けになりながら、片手で黒茶色の髪をかきあげていた。
そんなリョータロウの頭の先には、なんと、「史上最強のライバル」・・・と勝手にナナミが思い込んでいる、フレデリカ・ルーベントの姿があったのである。
フレデリカは、気強そうなライトグリーンの瞳で、横になっているリョータロウの端整な顔を覗きこみながら、なんとも不機嫌そうな表情をしている。
ブルーシルバーの軍服に包まれた、形良くグラマラスなその胸元、長く形の良い足と、スレンダーにくびれた腰のライン。
長いブラック・ブロンドの髪に、どこか妖艶な雰囲気をかもし出す綺麗な顔立ち。
ナナミ最強のライバル・・・・ツァーデ小隊ルーベント大尉。
スレンダーなスタイルも、胸の大きさも、そして顔立ちも、数段あちらの方が上。
く、く、くぅぅ――――・・・・っ
ナナミは、テイクアウトボックスを片手に、プルプルと拳を震わせて、思わず、自分の胸に目をやった。
・・・・・・・・・。
哀しいぐらい、負けている。
その上、あちらは見事なヴィーナスラインだが、こちらは、見事なずん胴。
思わず意気消沈したナナミの耳に、再びリョータロウの声が響いてきたのだった。
「眠いんだよ。大体、やる事が多すぎなんだよ、指揮官職は。だから、こんな職はご免だって言ったんだ・・・・っ」
「あなたでも愚痴を言う時があるのね?デリカシーもないくせに、そういうところは一人前な訳?」
嫌味な口調でフレデリカはそう言った。
「デリカシーもくそもあるかよ」と、リョータロウは不機嫌そうにそう返答。
「相変わらず生意気な言い方」と、フレデリカは蛾美な眉を吊り上げる。
「悪かったな」
「悪いと思うなら、デリカシーぐらい持ちなさいよ。ほんとに失礼な男」
「どうせ俺は失礼だよ」
そう言ったリョータロウの気だる気な黒曜石の瞳と、それを上から覗くフレデリカの気強いライトグリーンの瞳が、真っ向からぶつかり合った。
 会話そのものは、正にミサイルの撃ち合いのような内容なのに、何故が、互いの顔を見つめあうその光景は・・・・・なんだか、やけに色っぽい。
 ナナミは憤怒に燃えた。
き――――――――っ!
 やはり、フレデリカは最強のライバル!!
もはや黙っている訳にはいかない!!
拳を握りしめたナナミが、咄嗟に自販機の陰から飛び出した。
「マキ少佐―――――――――――っ!!」
突然響いてきたナナミの凄まじい叫び声に、びくりと広い肩を震わすと、リョ―タロウは、驚いたようにソファの上から半身を起した。
そして、黒茶色の長い前髪の下で、訝しそうに凛とした眉を寄せ、黒曜石の瞳でまじまじと自販機脇のナナミを見つめやる。
「な、なんだよ・・・っ、おまえ、いつからそこにいたんだよ?」
思わずそんな事を呟いたリョータロウの傍らで、フレデリカが、珍しくきょとんとした顔つきでナナミを振り返った。
ナナミは、顔を真っ赤にして綺麗な眉を吊り上げ、抱えていたテイクアウトボックスを眼前に掲げると、無意味に大きな声で言うのである。
「あの!!差し入れ持ってきました――――――っ!!ランチまだなんですよね――――っ!?よかったら食べてくださいぃぃ――――――っ!!」
「・・・・・・・」
リョータロウとフレデリカが、二、三度瞬きして、そんなナナミをひたすら見つめすえてしまう。
双方が双方、「そんなこと、叫んで言うことじゃない・・・・」と思っていたのは言うまでもない。
リョータロウは、広い肩で小さく息を吐くと、ゆっくりとソファを立ち上がり、相変わらず顔を真っ赤にしているナナミの元へ、その足を進めたのだった。
そして、精悍な唇だけで小さく微笑して、ナナミに片手を差し出しながら、こう言ったのだった。
「じゃ、もらっとく。カフェテラス行くの面倒臭かったから、助かるよ」
刹那、ナナミは、大きなへーゼルの瞳を歓喜に潤ませてしまった。
ナナミ、感無量――――――――っ!!
大きなへーゼルの瞳が見つめる先に、リョータロウの長身が立っている。
癖のかかった長い前髪の隙間から覗く、凛と強い黒曜石の瞳が、真っ直ぐにナナミを捉えている。
広い額から眉間を抜け、右目の下にまで及ぶ細い傷跡。
それが、殊更彼の顔を精悍で凛々しく見せていた。
ああ・・・ナナミ、もう駄目ぇぇえ〜〜〜っ
気を許すと、唇が閉まり無く半開きになってしまうため、ナナミは、必死で顔を引き締めて、飛び切りの笑顔でリョータロウの手にテイクアウトボックスを渡そうとした。
「は、はい!どうぞ!!」
その次の瞬間だった。
セラフィムの船内に、けたたましいスクランブル警報が響き渡り、休憩室のスピーカーから、ブリッジの主任オペレーター、オリヴォア・グレイマンの声がこう告げたのである。
『所属不明戦艦20隻、12時の方向より急速接近中。ツァーデ小隊、アレフ小隊はフォーメーション凵iデルタ)で発進準備。繰り返します、所属不明戦艦20隻、12時の方向より急速接近中。ツァーデ小隊、アレフ小隊はフォーメーションデルタで発進準備』
リョ―タロウの黒曜石の瞳が、鋭利に発光した。
その傍らに、フレデリカが駆け寄ってくる。
「マキ少佐!」
「悪いナナミ、また後でな!」
うっそおぉぉおぉぉ―――――っ!!?
その余りの出来事に、今にも泣き出しそうになったナナミの前から、リョータロウとフレデリカが俊足で駆け出していく。
セラフィムの船内に無情に鳴響くスクランブル警報。
ぷるぷると肩を震わせたナナミが、両手の拳を握り締め、涙目だったへーゼルの瞳を修羅の瞳へと豹変させた。
「こんな時に・・・・こんな時にスクランブルですってえぇぇぇ―――――――っ!!?
ナナミの恋路を邪魔するあほな艦隊なんてぇぇぇ―――――――っ!!
絶対全滅撃沈させてやるぅぅぅぅぅぅううううう――――――――っ!!」
全身から怒りのオーラを迸らせ、意味もなくそう叫んだナナミが、ブリッジに向かって走り出す。
ナナミ・トキサカ。
花も恥らう21歳。
乙女なナナミの華麗な恋路は、なかなか報われることはない・・・・・



【NEW WORLD 〜Side Story〜 乙女なナナミの華麗な恋路  END】









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