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作品名:NEW WROLD〜Side Story〜 作者:月野 智

第10回   乙女なナナミの華麗な恋路 EP2<3>
            *
「リョータロウ、また、逃げ回ったんだってね?もぉ、本当に注射嫌いなんだから・・・
リョータロウってば、ツァーデ小隊の隊長なんだよ?その上、中佐だよ?
しかも、もう24歳だよ?戦闘に出るのは平気なくせに、何で注射が怖いの?インフルエンザの予防接種ぐらい大人しく受けなよ?別に銃で撃たれる訳じゃなんだからさ」
よく聞きなれた少年の声が、まだぼぉっとしている意識の底で、可笑しそうに笑いながらそんなことを言っていた。
「うるせ〜なぁ・・・・・嫌いなもんは嫌いなんだから、仕方ないだろーよっ!
しかもあの性悪医者、俺の熱は睡眠不足と過労だとか言いやがって、もう一本打ちやがったんだぜ・・・ほんとにありえねぇ・・・・・・・っ!」
不機嫌そうにそう答えたその声は、間違いなく、大、大、大好きなマキ中佐の声だ。
マ、マキ中佐・・・お、お願いします!
ナナミを、ナナミをお嫁に・・・・じゃない、秘書にしてください!お願いします・・・っ!
必死にそう言おうとするが、全く声が出せなかった。
まだ、足元がふわふわしている。
ゆっくりと瞼を開くと、そこには見慣れた自室の風景と、ベッドに両腕をついてバツが悪そうに眉間を寄せるリョータロウの横顔があった。
その傍らには、ツァーデ小隊に所属するパイロット、ハルカ・アダミアンの姿があり、ひどく可笑しそうに笑っていたのである。
ハルカの大きな黒い瞳が、ベッドの上で薄らと目を開いたナナミを振り返る。
「あ!気が付いた!ナナミちゃん、大丈夫?」
「・・・ハルカくん・・・・?」
掠れた声でそう言ったナナミの視線と、リョータロウの視線がぶつかった。
リョータロウは、癖のかかった長い前髪から覗く黒曜石の瞳を僅かに細めて、唇だけで困ったように笑ってみせると、ついついこんな言葉を口にしたのである。
「おまえさぁ・・・ぶっ倒れるのは別いいけどさ・・・変なこと口走ってからすぐに倒れるなよ・・・」
その言葉の語尾を、可笑しそうに笑いながら、ハルカが続ける。
「僕、看護士さんから聞いてびっくりしちゃったよ!すごい噂になってるし!」
「なに喜んでんだよ・・・?」と、ムッとした声でそう言って、リョータロウは、げんなりした視線で、何故か嬉々とするハルカの顔を見やった。
ナナミは、ハルカが一体なんのことを言っているのかさっぱり判らずに、まだ虚ろな瞳をニ、三度瞬きさせたのである。
「・・・・噂・・・?なに?なんのこと?」
掠れた声でそう聞いたナナミに、「うんとね・・・・」と、やけにもったいぶった様子で前振りし、ハルカは、何故かにっこり笑ってこう返答したのだった。
「ナナミちゃんが、リョータロウの子供を妊娠してるって!」
ゴンっと、鈍い音が響きわたり、思い切り壁に頭をぶつけたリョータロウが、ずるずると床の上に崩れ落ちる。
片手を黒茶色の髪に突っ込んで、ぴくぴくと眉尻を痙攣させながら、リョータロウは、怒ったような、情けなさそうな、なんとも複雑な表情でじろりとハルカの顔を睨み付けたのだった。
「い、い、一体いつそんな話になった!?なにをどうしたらそんな訳のわかんねー噂になるんだよ!?言ってみろっ!!?」
「ぼ、僕に怒らないでよぉ・・・・だって、ホントにそう聞いたんだもん」
困ったように眉根を寄せながらも、ハルカは、ひどく可笑しそうに笑ってあっけらかんとそう答えたのである。
余りにも突拍子もないその噂の内容に、抗ウィルス薬で熱が下がったはずのナナミが、再び顔を真っ赤にしてその身を捩り、ベッドの上でぷるぷると肩を震わせてしまった。
そ、そんな・・・・
ナナミが・・・ナナミが・・・・
マキ中佐の赤ちゃんを・・・・!
そ、そんな・・・・
そんなのことが、あったら・・・・・
あったら・・・・・
ナナミ・・・
ナナミ・・・!!
絶対嬉しいかもぉぉぉぉぉぉぉ―――――――――――――――――――――っ!!?
「もぉ・・・もおぉっ!ハルカくんてば、ハルカくんてばぁぁ!!そんな、そんな・・・っ!
ナナミ、照れちゃうぅぅぅ――――――――っ!!
もぉぉっ!いやぁぁぁ――――っ!!」
いきなり上半身起したナナミが、顔を真っ赤にしたまま、ばしばしとハルカの肩を叩いて、ぶんぶんと首を横に振る。
その唇が、やたらと嬉々として緩み、不気味なほどニヤついていたのは・・・もはや言うまでもない。
「い、痛いよナナミちゃん・・・・っ!い、痛いってば・・・・っ!」
思い切り狼狽したハルカが、盛んに瞬きを繰り返しながらそんなナナミをまじまじと顧みるのだった。
この後一ヶ月もの間、その奇妙な噂がリョータロウを悩ませたことは、語らずとも知れた事実である。
だがこの時、有頂天になり過ぎたナナミは、当のリョータロウに一番伝えたかった重要事項を、言い忘れてしまったのだ・・・それは、他でもない、「ナナミを秘書にしてください!!」と言うその一言だった。
秘書指名の期限日が、この日であったことも知らずに・・・・・
乙女なナナミの華麗な恋路は、まだまだ、果てしなく続く。




【NEW WORLD 〜Side Story〜 乙女なナナミの華麗な恋路2  END】


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