20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:NEW WROLD〜Side Story〜 作者:月野 智

第1回   乙女なナナミの華麗な恋路 EP1<1>
           *
本名、ナナミ・トキサカ(時坂 奈々美)。
年齢、花も恥らう21歳。(まもなく22歳)
職業、宇宙戦闘空母セラフィムのブリッジオペレーター。(レーダー通信セクション)
階級、少尉。(昇格してレイバン部隊の発進アナウンスが出来なくなったため、最近ちょっと寂しい)。
 趣味、オンラインゲーム。怒涛の如きショッピング。ピアノを少々。
 好きなもの、甘いお菓子とリョータロウ・マキ。

 無限の宇宙を行く、ガ―ディアンエンジェルのネフィリム級宇宙戦闘母艦セラフィム。
 その船内の長い通路を、乙女なナナミは、今日も気合いを入れて歩いていた。
 後ろで巻いてきちんと結った髪束が、まるで犬の尻尾のようにふわふわと揺れる。
 ファンデ―ションOK。
マスカラOK。
 買ったばかりのパールピンクルージュもOK。
 臨戦体制はばっちりだ。
 ブリッジの休憩時間は、毎日・・・・戦闘である。
 ナナミは、パンプスのかかとを鳴らしながら、D第一ブロックにある乗組員専用のカフェへと向かう。
 今日の休憩時間は、レイバン部隊ツァーデ小隊の休憩時間と被っている。
 それは、ブリッジの端末から小隊スケジュールを検索してチェック済みだった。
パイロット達は、きっと今頃、カフェテラスで食事を摂っている頃であろう。
 目指せナナミ!
 負けるなナナミ!
 ライバルは多いぞ!
 ターゲットを発見したら、そ知らぬふりで、「あ、休憩時間同じですね?ナナミ、隣でご飯食べていいですか?」と飛び切りの笑顔で聞くのだ・・・・!
 ナナミは、ワイン色の制服のポケットから徐にコンパクトを取り出し、化粧ののりをチェック。
攻撃体制万端。
さぁ、いくのだ!
殊更気合を入れ直し、カフェテラスの入り口に設置された、ガラスのオート・ドアを潜る。
広いカフェテラスに充満する、芳しい料理の香り。
並べられたテ―ブルには、多くの船員達が腰を下ろし、談笑しながら各々で食事を摂っている。
ナナミは、大きなへーゼルの瞳できょろきょろと辺りと見回し、その中に、もうよく見知った少年の姿を発見したのだった。
その瞬間、ナナミは、綺麗な眉を凛と吊り上げて、並ぶテーブルの合間を猛然と全力疾走したのである。
けたたましいパンプスの音に、食事を摂っていた船員達が何事かと振り返るが、そんなことなど目にも入らない。
凄まじい勢いで傍らに滑り込んできたナナミの姿に、テーブルの端に座っていた少年パイロット、ハルカ・アダミアンが艶やかな黒髪の下で大きな瞳をきょとんと丸くしてしまった。
肩で荒い息を吐くナナミを、盛んに瞬きしながらまじまじと眺めやり、ハルカは、僅かばかり困ったように綺麗な眉を眉間に寄せると、思わず聞くのだった。
「ナ、ナナミちゃん?ど、どうしたの???」
そんなハルカの向かいでは、ツァーデ小隊の副隊長エドワード・パーマーと、ギメル小隊のスティーブ・カルキンが、ハルカの隣では、やはりギメル小隊の新人パイロット、ヨシュア・エスキベルが、何事が起こったのかというような顔つきをして、鬼気迫る形相のナナミをぽかんと凝視していた。
その視線に気付いて、ナナミは、ハッと細い肩を揺らすと、思い切り誤魔化し笑いをしながら、わざとらしく胸元で両手を合わせハルカに聞くのだった。
「あ、あれ?マキ少佐は?」
「リョータロウ?リョータロウなら、まだオフィスだよ。一緒にご飯食べようって言ったんだけど、デスクワークが忙しくて手が離せないんだって」
そこまで言って、ハルカは、同じテーブルに着くパイロット達に「ね?」と同意を求めた。
すると、歴戦のレイバンパイロット達が、何か珍しいものを見るような視線でナナミを見つめたまま、「うん」と一斉に頷いたのだった。
先程の猛ダッシュと鬼気迫る形相が、余りにも凄まじかったため、さすがのパイロット達も度肝を抜かれてしまったのだろう。
ナナミは、僅かに頬を引きつらせながら、えへへと誤魔化し笑いをしてみせると、「そ、そう有難う」と答え、未だぽかんとしているパイロット達にくるりと背中を向けたのだった。
頭の後ろで巻いてきちんと結った髪が、犬の尻尾のように揺れる。
予想外の迎撃に思わず肩を落としたものの、片思い歴七年のベテラン乙女はこんなことでは諦めないのだ。
よし!差し入れを持っていって、さり気無くオフィスで二人きりになるのだ!!
ナナミは、片手でぎっちりと拳を握り、へーゼルの瞳を恒星の如く煌かせると、何故かその場で「ナナミ!負けない!!」と叫んでから、カフェテラスのレジへと再び猛ダッシュしたのである。
「・・・・・・・・」
その様子を眺めていたハルカが、僅かばかり頬を引きつらせて苦笑する。
カフェテラスを駆け抜けていくナナミの後姿を見つめながら、ハルカ以外のパイロット達が、訝しそうな半眼になった。
「おい・・・なんだありゃ?」と、エドワードがハルカに聞く。
ハルカは、「え、えと・・・・」と言葉を濁してから、一息置いてこう答えるのだった。
「ナナミちゃん・・・リョータロウのことになると、いつもああだから・・・・きっと、差し入れでも持ってくつもりじゃないのかな?」
「ああ〜・・・」と、その場にいたパイロット達が、声を揃えて頷いた。
しかし、ハルカの隣にいたヨシュアが、半眼のままで頬杖をつくと、思わず、こんなことを呟いたのである。
「でもさ・・・・差し入れ、さっき整備のマリアが持っていかなかった?」
その言葉の語尾をエドワードが続ける。
「その前は、へート小隊のネリーが持って行った」
更にハルカが続ける。
「ブリッジのケイティも・・・・」
全員が沈黙。
ギメル小隊のスティーブが、徐に手元のパンを引き寄せながら、勤めて冷静な顔つきをしながら言うのである。
「まぁ、なんだ・・・・俺たちには関係ないし・・・・とりあえず、本人は全然自覚してないみたいだけど、マキ少佐はモテるっていうことで・・・・・・で、俺たちは、何も見なかったし聞かなかった・・・・いいな?」
「了解」
レイバンパイロット、全員で一斉呼応。
そんなことなど全く知らぬまま、ナナミは、テイクアウトボックスに入ったサンドイッチを抱え、パイロット・ワーク・オフィスへ向かって全力疾走していった。


次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 4669