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作品名:NEW WORLD〜交響曲第二楽章〜 作者:月野 智

第68回   【LASTACT ぬくもりを抱く優しい闇】13
              *
ジルベルタ星系、惑星トライトニア。
その首都オーダムの西30キロにあるリンデンバーク艦隊基地に、金色のアーマード・バトラーが帰投した時、艦隊総司令本部の関係者も、そして、政府関係者達も、皆一様に歓喜の声を上げた。
テロ集団デボン・リヴァイアサンに拉致された、宇宙一有名な少女を、トライトニアが誇るヴァルキリーが、無事に救助して帰ってきたのだ。
これで、惑星トライトニアの面目は完全に潰れなくて済んだのだ、政府関係者は、ほくそ笑むしかない。
リンデンバーグ艦隊基地のドックに収容されたアーマード・バトラー『L・オーディン』から、タイプΦヴァルキリー07、ミハエルの腕に抱えられながら、ガブリエラ・ワーズロックが降り立った。
ドックには、大勢の政府関係者や基地関係者が待機しており、その人々の中には、ガブリエラの養母ミリアム・マギーの姿もあった。
「ガビィ―――――――っ!!」
ミリアムは、化粧が崩れることも気にせずに、涙で顔をくしゃくしゃにして、宇宙服姿のガブリエラの元に駆け込んでくると、その体を、強い力で抱き締めたのである。
「心配してたのよ!もう・・・本当に、無事でよかった、本当に無事でよかった!!」
ガブリエラは、そんなミリアムの背中をぎゅっと抱き締め返して、綺麗な唇であどけなく笑った。
「ごめんねミリー、心配かけて・・・でも、私、とっても元気よ。ミハエルにお礼を言ってあげて」
「うん、うん・・・・あなたの命の恩人ですものね、沢山お礼をしなくちゃね」
ミリアムは、溢れ出す涙を拭いながら、ガブリエラの背後に立っている紫金の髪の青年に駆け寄ると、怪訝そうな顔つきをするミハエルの手を、ぎゅっと握りしめたのだった。
ミハエルは、そんなミリアムの泣き顔を、細めた翡翠の瞳で真っ直ぐに見やる。
「有難うございました!本当に、有難うっ・・・ガビィを連れて帰ってきてくれて、守ってくれて本当に有難う・・・・っ」
人間は、悲しくなくても泣く事がある事を、ミハエルは、この時初めて知った。
ガブリエラ以外には、あまり感情を見せることの無いミハエルは、冷静な顔つきのままじっとミリアムを見つめすえる。
ミリアムは、そんなミハエルの手を握ったまま、くしゃくしゃに泣きじゃくりながら何度も「有難う」と繰り返すのだった。
僅かばかり困ったように形の良い眉を寄せて、ミハエルは、ちらりと、ガブリエラの顔を見る。
ガブリエラは、その清楚で秀麗な顔を飛び切りの笑顔で満たした。
それにつられたように、ミハエルもまた、小さく笑う。
トライトニアに戻ってきたということは、カブリエラは、歌姫として再びユニバーサルコンサートツアーに旅立つと言う事だ。
あと少ししたら、「ミハエル」と言う名を与えてくれた美しい少女と、否が応でも離れなければならない。
ミハエルの情緒プログラムに、「寂しさ」という新たな感情が増幅していく。
「ガビィ」と呼びかけたミハエルの片手が、ガブリエラの腕をそっと掴み、その細くしなやかな体を腕の中に抱き寄せる。
ガブリエラはニッコリ笑った。
右腕にガブリエラ、左腕にミリアムを抱えたミハエルが、もう一度小さく笑う。
それは、不思議な感情だった。
ミリアムは、ガブリエラにとって大切な存在だ、だから、一緒にこうしてもなんの抵抗もない。
嗚咽するミリアムの背中を、ガブリエラが撫でる。
ミリアムは、そんなガブリエラをもう一度強く抱きしめた。
その時、待機していた医師と看護士が、ドックの人込みを掻き分けながら、そんな三人の元へと駆け寄ってきたのである。
コンサート前、ガブリエラの世話役だった政府の広報担当者ライアンも一緒だ。
「アンジェリカさん!ご、ご無事で本当によかったです!いや、本当に、一時はどうなるかと思いましたよ・・・・・・警備の不手際で、大変な思いをさせてしまいまして、申し訳ありませんでした!!」
ライアンは、涙目になりながらそう言って、一度、片手で目元を拭うと、笑顔で振り返るガブリエラを、ひどく申し訳なさそうな顔つきでまじまじと見やった。
ガブリエラは、艶やかな金色の髪を揺らして首を横に振ると、くったくない口調で答えたのである。
「大丈夫です。怖かったけど、私、全然平気ですから。そんな顔しないでください」
その言葉に、感無量と言った顔つきになったライアンが、ますます瞳に涙を浮かべる。
「そう言っていただけると、す、救われます・・・!大変な思いをされたでしょうから、一応、メディカルチェックを受けてくださいね」
ライアンの申し出に答えたのは、やはり、片手で涙を拭うミリアムであった。
「宜しくお願いします。この娘(こ)、小さい頃から風邪一つひいた事のないので、メディカルチェック、一度もうけたことがないんです。遺伝子病の検査もしたことなくて」
「でしたら、この機会に、遺伝子病の検査もトライトニアに受けていってください。これからまた、コンサートツアーに出るんでしょうから、何かあったら大変ですからね」
「はい、宜しくお願いします」
深々と頭を下げるミリアムに、ライアンもまた、深々と頭を下げた。
少し困ったように眉根を寄せたガブリエラが、ちらりと傍らのミハエルを顧みた。
ミハエルは、穏やかに微笑したまま小さく頷いたのである。
宇宙の歌姫の拉致騒動は、こうして、幕を下ろすことになった。
だが、しかし、この些細なメディカルチェックが、宇宙の歌姫アンジェリカこと、ガブリエラ・ワーズロックの運命を左右することになろうとは、この時、この場にいた誰もが知らずにいたのである。


            *
トライトニア大統領官邸に、苦々しい顔つきをしたジェレミー・バークレイが戻った時、首都オーダムには、新たな朝が目を覚ましかけていた。
デスクの大きな椅子に腰を下ろしたバークレイの元に、筆頭秘書官がゆっくりと歩み寄ってくる。
バークレイは、いささか疲れたような顔つきをしながら、灰色の瞳でちらりと秘書官の生真面目な顔を見やった。
秘書官は落ち着いた声で言う。
「お疲れのところ申し訳ありません。閣下、ご報告申し上げます。こちらの要請を受理したハーレン・シュテンブルグが、先程、巡視艦ヴォルフ・シュバルツを発進させたとの連絡を入れてきました」
ハーレン・シュテンブルグとは、惑星連合AUOLPの警察機構で、主に、海賊やテロリストなどの逮捕取締りを行う広域宇宙の治安維持艦隊のことである。
今回の事件を重く見てたトライトニアは、つい数時間前、デボン・リヴァイアサンの幹部たちを一人残らず拘束するため、惑星連合AUOLPにその協力要請入れたばかりであった。
だが、それは、トライトニア艦隊を、無駄に出撃させたくないジェレミー・バークレイの思惑でもあった。
「あの姑息なテロリストどもを追っている暇など、今のトライトニアには無いからな。奴等の掃蕩は、ハーレン・シュテンブルグに任せておけばいい。それが連中の仕事だ」
憮然とした態度で、バークレイはそう答え、大きな椅子の背もたれにその身を委ねると、なんとも苦々しい表情で細い眉を眉間に寄せたのだった。
確かに、デボン・リヴァイアサンにも腹立たしいが、どういう目的があったのか、突然このジルベルタ星系にワープアウトしてきて、コーネル第一艦隊を一瞬で殲滅させたガーディアンエンジェルには、殊更腹立たしくてならない。
トライトニアは事あるごとにガーディアンエンジェルと交戦してきたが、ガ―ディアンエンジェルの船を撃沈したことなど、実は数えるほどしかないのだ。
いち早く量産型ヴァルキリーを完成させ、新たなアーマード・バトラー部隊を結成し、今以上に戦力拡大して、ガーディアンエンジェルから、再び、NW−遺伝子を手に入れなければならない。
そのためには、やはり軍備は必要不可欠である。
バークレイの目的である、人間の遺伝子をNW―遺伝子に組替えることが出来るNW−遺伝子ワクチンの製造は、未だ研究段階であり40%も完成していない。
それはひとえに、NW−遺伝子に関するデータが不足しているためであり、このままでは、何年かかってもその完成は期待できないだろう。
ましてや、度重なる軍備拡大で、バークレイ政権に異議を唱える者も大分増えてきた状況だ。
このまま捨て置く訳にはいかない。
なんとも渋い顔つきをするバークレイの機嫌を伺うように、秘書は、勤めて冷静な声で言う。
「閣下、もうお休みになられてください。AUOLPの常任理事国会議が明後日に控えています。今の内に休息をお取りにならないと・・・」
「そうだったな・・・・・そんな会議もあったな」
バークレイはそう答えて、スーツの肩で小さくため息をついた。
現在トライトニアは、AUOLPからある打診を受けている。
それは、トライトニアが量産型ヴァルキリータイプΧ(カイ)とアーマード・バトラーを完成させたら、それらを、AUOLP連合艦隊にも配備して欲しいという主旨のものだった。
だが結局は、軍備を拡大していくトライトニアを懸念し、その技術をAUOLP自体が知るための口実に他ならないのだろう。
ジェレミー・バークレイが政権を取ったトライトニアを、AUOLPもあまり歓迎していない。
それならそれで、こちらも考えというものがあると、バークレイは、ほくそ笑んだ。
AUOLP連合艦隊に、アーマード・バトラーを配備させるのは構わない。
タイプΧヴァルキリーの身体機能はタイプΦヴァルキリーを同じだが、そのプログラムの性能は決してタイプΦに及ぶものではない。
所詮コピーなど、オリジナルを越えることなど出来ないのだ。
タイプΧヴァルキリーは、確かに相当の戦力になる。
だが、トライトニアにはタイプΦヴァルキリーで構成する最強のバトラー部隊がある。
万が一のことがあっても、AUOLPの艦隊など数機で撃沈できるのだ。
バークレイは、その灰色の瞳を、獲物を狙う蛇のように煌かせると、落と着き払った口調で言葉を続けた。
「惑星バーガンデスとの同盟交渉を進めておけ。あそこは、トライトニアと同じでガーディアンエンジェルを敵視している。AUOLPより、ガ―ディアンエンジェルの方が厄介だ。早めに連中を黙らせて、NW−遺伝子を手に入れる。常任理事国会議より、そちらの方が重要だ」
「・・・・・承知しました」
秘書はそう返答し、トライトニアの若き大統領に向かって恭しく一礼した。
惑星トライトニアに夜が明ける。
ジェレミー・バークレイの野望もまた、地平線から昇るこの太陽のように、その胸中で揺らめくような光芒を迸らせていたのだった。





【NEW WORLD〜交響曲第二楽章〜 END】



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