* 全滅したコーネル第一艦隊の残骸が漂う、惑星フェンリルの軌道。 その狭間の宇宙空間に、トライトニアが誇る最強のアーマード・バトラー、L・オーディンが、金色の閃光を引きながら惑星トライトニアに向かって進路を取っていた。 コクピットの中には、全身に赤外線コードを纏った紫金の髪の青年と、そして、宇宙服に身を包んだ一人の少女の姿がある。 それは他でもない、「ミハエル」と名付けられたタイプΦヴァルキリー07と、宇宙の歌姫アンジェリカこと、ガブリエラ・ワーズロックであった。 ガブリエラは、ヘルメットを被ったまま、その容姿を別人に変えてしまったミハエルの首にぎゅっとしがみつくと、嗚咽に震える声で言うのである。 「ごめんね・・・・ごめんねミハエル。私のせいで、身体を失くしちゃったんだね・・・ごめんね、ごめんね無理させて・・・・ごめんね、ごめんね・・・痛かったよね、辛かったよね」 ミハエルは、緩やかなウェーブのかかった長い髪を微かに揺らし、その下から覗く翡翠色の瞳で、ガブリエラの泣き顔を静かに顧みたのだった。 「大丈夫だ。もう泣かなくていい・・・・俺がおまえを守りたかっただけだ・・・ただ、それだけだ。おまえが謝る必要はない」 そう言ったミハエルの唇が、小さく微笑んだ。 ミハエルは、涼麗な美貌を持つ金髪の青年から、オリエンタルな秀麗さを持つ精悍な青年へと姿を変えてはいるが、そのAIもメモリーも、全て以前のままだった。 それに安堵を覚えながらも、ガブリエラの胸は、鋭い痛みに苛まれたまま、いたたまれない思いで一杯になっていた。 溢れる涙を止めることなど出来ない。 ヘルメットシールド越しに、ミハエルの瞳を見つめている、涙で潤んだ蒼い瞳。 ミハエルは、赤外線コードが照射されたままの腕で、ガブリエラの頭部からそっとヘルメット外した。 L・オーディンのコクピットには重力制御システムが働いており、酸素供給モードに移行されている。 ヘルメットを取った所で、ガブリエラの生命になんら危険はない。 そこに露になった、光の切っ先のような柔らかな金色の髪が、ふわりとミハエルの頬を撫でた。 艶やかな白皙の頬を伝う涙が、その綺麗な顎の線を伝ってミハエルの甲に落ち、音も立てずに弾け飛ぶ。 「もう泣くな・・・ガビィ。元の場所に帰れる、だから、泣くな」 どこか穏やかな響きを持つミハエルの声が、泣き顔のガブリエラにそう囁く。 「ミハエル・・・・でも、お兄さんが・・・お兄さんが、あのテロリストの船にいるの、私、私・・・どうしたらいいの?ミハエル」 ガブリエラは、今にも消え入りそうな声でそう言うと、ミハエルの頬に、自らの綺麗な頬を押し当てて、華奢な肩を小刻みに震わせるのだった。 そんなガブリエラのしなやかな体を抱き締めながら、ミハエルは静かに言う。 「デボン・リヴァイアサンは一掃される。その時には、必ず助け出してやる・・・大丈夫だ」 「・・・・・・・・必ずよ、必ずよ・・・ミハエル。必ず、お兄さんを助けて・・・必ずよ」 「ああ」 ガブリエラの持つ、赤い血の通う純粋な温もりをその体で感じながら、ミハエルは、ゆっくりと翡翠色の瞳を閉じた。 ガブリエラは小さく頷くと、ミハエルの首に抱き付いたまま、涙に濡れた秀麗な頬を、その頬に摺り寄せたのである。 無限の闇の静寂が横たわるジルベルタ星系を、金色の機甲武闘神が駆け抜けていく。 だがこの時、ほんの些細なことから、ガブリエラが持つとてつもない秘密が、若きトライトニア大統領ジェレミー・バークレイに暴露されることになろうとは、ミハエルも、そしてガブリエラ自身も、まったく知らずにいたのである。
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