20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:NEW WORLD〜交響曲第二楽章〜 作者:月野 智

第54回   【ACTX 砲撃のコンチェルト】15
             *
ガーディアンエンジェルの大型戦闘母艦、セラフィムの巨大な船体を包み込むように散布されたハイド粒子が、キラキラと輝きながら宇宙空間に漂っていた。
「エナジーバルブ接続解除。メインエンジン停止」
「シールド解除します」
機関オペレーター、バナム・トロルと、機関長ビル・マードックが同時に声を上げると、セラフィムの艦内照明が、火を吹き消すようにして次々と消えていく。
「ソドムシンク砲発射システムセットアップオールグリーンで完了。エネルギー充填開始します!」
火器担当オペレーター、ロウ・アンエイが厳しい顔つきをしながらそう声を上げると、薄暗くなったコントロールブリッジに、一際緊迫した空気が張り詰つめる。
「エナジーバルブ接続、ソドムシンク砲エネルギー充填開始。エネルギー充填完了まで、残り60秒!」
エナジーバルブが接続されたソドムシンク砲のエネルギー充填タービンが、鈍い音を上げて回転し始め、巨大なセラフィムの船体が、内部から小刻みに震え出す。
地響きにも似た重い重低音が、宇宙の闇に胎動を刻むようにしてブリッジの床を波打たせた。
ブリッジの大型モニターに、ソドムシンク砲エナジーゲージが映し出され、船首の装甲ゲートがゆっくりと開き始める。
モニター越し鮮明に映し出されるその様子を、猛禽類の如き鋭利な眼差しで見つめながら、セラフィムの艦長レムリアス・ソロモンは端整な唇を引き結んだ。
ワダツミに拘束されたままのトーマ、そして、アーマード・バトラーL・オーディンによって救助されただろう“イヴ”・・・・その双方とも、セラフィムで収容することは叶わなかった。
久しぶりに感じるその悔しさに、ソロモンは、ブロンズ色の肌に彩られたその優美な顔をいつになく険しく歪め、にわかに両眼を細めたのである。
そんなソロモンを振り返り、レーダー通信オペレーター、ナナミ・トキサカが言う。
「トライトニア艦隊、距離30000に到達しました、残り5000で、セラフィムは、敵艦隊の主砲射程圏内に入ります!」
ソロモンは、険しい表情のままゆっくりと前で腕を組み、ただ、押し黙った。
ソドムシンク砲のエネルギー充填ゲージが上昇していく。
このエネルギーゲージがFULLを表示するまで、残り35秒。
セラフィムが、敵艦隊の主砲射程圏内に入るのと、ほぼ同じ秒数だ。
ナナミに続くように、新人通信オペレーター、マデリン・ダレルが、緊張した面持ちで口を開いた。
「戦艦ワダツミ、ワープイン可能宙域に到達しました。残り約15秒で、ワープインすると思われます」
マデリンの報告を聞きながら、ソロモンは、引き結んだ唇の下で、ぎりりと奥歯を噛締める。
その脳裏に、先刻、ワダツミから送信されてきた、血まみれのトーマの姿が過ぎっていくと、胸の中には、身を裂かれるような鋭い痛みが走り抜けていく。
だが、それを表情に出すこともなく、ソロモンは、銀色の前髪から覗く紅の瞳で、頭上大型モニターを睨みすええたのである。
セラフィム前方の装甲ゲートから姿を現したソドムシンク砲の巨大な砲門が、螺旋状に回転する深紅の光粒子を蓄え始めている。
モニターに表示されたエナジーゲージは更に上昇していく。
 「トラトニア艦隊、主砲発射体制を取りました、距離、27650」
 ナナミの声と共に、ソドムシンク砲エネルギーゲージが90%まで達した。
ソロモンは、組んでいた腕をゆっくりと解き、険しい表情で片腕を前方に伸ばすと、いつになく鋭い声で言い放ったのである。
「ソドムシンク砲発射用意、カウントダウン開始!」
「ソドムシンク砲、発射カウントダウン開始します。発射まで、残り10秒」
主任オペレーター、オリヴィアの返答と共に、火器担当オペレーター、ロウが、真剣な顔つきをして手元のコンソールパネルを叩き、大きく声を上げる。
「ソドムシンク砲発射用意!照準修正1.244、距離25000」
ソドムシンク砲発射トリガーに指をかけながら、ロウは、厳しい顔つきで照準レンジを覗きこんだ。
鈍く振動するブリッジの床が、徐々に熱を帯びてくる。
前方装甲ゲートの真ん中で、ソドムシンク砲の大型砲門が、炎の如き深紅に光に包み込まれた。
「9、8、7、6・・・」
オリヴィアの声が、発射までの一秒一秒を冷静な声でカウントし始める。
「5、4、3、2・・・・・・1!」
大型モニターに映し出されたエナジーゲージが、赤く点滅しながらFULLを表示すると、ソロモンの鋭い声がブリッジに響き渡った。
「目標、左舷前方トライトニア艦隊、ソドムシンク砲・・・・・・発射!!」
照準を覗いていたロウの指が、ソドムシンク砲の発射トリガーを思い切り引いた。
大型砲門一杯に蓄えられた深紅のエネルギー粒子が、暗黒の宇宙に舞い飛ぶと、凄まじい破壊力を携えたソドムシンク砲が、轟音を上げながら前方のトラトニア艦隊に向けて発射される。
それと同時に、コーネル第一艦隊と銘打たれたトライトニア艦隊もまた、セラフィムに向けて一斉主砲を発射したのだった。
ソドムシンク砲から解き放たれた、炎の形にも似た膨大なエネルギーの閃光が、重く低い轟音を上げながら幾度も発光し、暗黒の宇宙空間を灼熱の帯で切り裂いていく。
螺旋の波動を描きながら揺らめく閃光が、無限の闇を豪速で迸ると、その先端が、トライトニア艦隊から発射された青いビームの閃光を瞬く間に飲み、一瞬にして無力化させてしまう。
恒星フレアの如き破滅の光芒が、瞬く間にコーネル第一艦隊全艦を先端に捉えると、僅かな時間を置いて、闇の中に破裂するようなパルスが走り抜けた。
深紅に輝く螺旋の光粒子が、艦隊全体を浸透するように横に広がり、雷光の如く発光する。
次の刹那、眩いばかりの赤い閃光を上げたトライトニア艦隊が、みるみる強固な船体を溶解させると、広大な宇宙空間が震える程の大爆発が、惑星フェンリルの軌道上で巻き起ったのだった。
パルスと共に上る凄まじい爆音。
原形も留めぬままに溶解し大破するトライトニア艦隊。
耳をつんざく激しい轟音と眩い深紅の光が広大な宇宙空間を振動させ、火炎の如き光の塊が流星の速度で暗黒の闇に乱舞した。
セラフィムの前方に展開していたトライトニア艦隊は、その瞬間、一隻残らず全滅したのである。
ソロモンは、銀色の前髪から覗く紅の瞳を猛禽類の鋭さで発光させ、片腕を前方に伸ばした姿勢で大きく声を上げる。
「装甲シャッターを開け!エナジーバルブをメインエンジンに再接続。急速反転180度。ワープイン可能領域まで、両舷全速出力最大。セラフィム、発進する!」
セラフィムの巨大な船体が急速反転しながら、機関最大でメインバーニアを噴き上げた。
甲板からせり上がったカタパルトに、ツァーデ小隊のレイバンが次々と着艦してくる。
戦闘空母セラフィムが、ジルベルタ星系第六惑星フェンリルの軌道上から、轟音を上げながら急速離脱していく。
だが、そのレーダーレンジから、ギャラクシアン・バート商会の若き経営者を拘束した戦艦ワダツミは、既に、跡形もなく消えていたのだった。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 4421