T―1を急降下させたリョータロウの声が、T―2のコクピットに響き渡る。 リョータロウは、照準レンジに捉えたオーディンをロックオン、咄嗟にミサイルリレーズボタンを押す。 同時に、フレデリカが操縦桿を斜め向こうに倒し、機体を左に傾けながら急降下を試みる。 T―1から発射されたレーダー誘導ミサイルが、白い帯を引きながらオーディンの右肩を被弾させ、爆音と白煙と共にミサイル発射ユニットを破壊すると、その激しい衝撃で、金色の機体が豪速で左舷に弾かれた。 そのため、オーディンのクラッシャーブレードは、ぎりぎりのところでT―2を貫くことはなかった、だが、やはりミサイルの着弾ポイントが近すぎたのだ。 宇宙の闇に弾け飛んだミサイルユニットの破片が、あろうことか、T―2のコクピット側面の装甲板を豪速で突き破り、次の瞬間、フレデリカの左太腿に鋭く突き刺さったのである。 「あぁ・・・・っ!」 全身を薙ぐ壮絶な痛みに、フレデリカがうめくような悲鳴を上げると、形の良い足からみるみる鮮血が溢れ出し、黒いパイロットスーツとフライトブーツに、幾筋もの深紅の帯が滴り落ちたのだった。 そのあまりの激痛に、ブーストコントローラーから爪先が離れ、急激に失速したT―2の機体が、惑星フェンリルの重力圏へと吸い込まれていく。 T―1のモニターに、T―2が被弾したことを知らせるカーソルが浮かび上がると、リョータロウは、実に悔しそうに眉間を寄せ、ぎりりと奥歯を噛締めながら、落下していくT―2を流星の速度で追走したのである。 その様子を確認しているはずのオーディンは、体制を立て直しながら機体を反転させるも、落下していくT―2と、それを追うT―1に、それ以上の攻撃を仕掛けることはなかった。 金色の機体を光芒の如く煌かせながら、波間に漂う小船のようなシャトルへとその進路を取っていく。 リョータロウは、それをモニターで確認しつつ、開きっぱなしの通信回線に向かって、勤めて冷静な声で呼びかけたのである。 「フレデリカ、無事かっ?フレデリカ・・・・っ!」 リョータロウの声に、フレデリカは答えない。 だが、生命反応はまだグリーンを表示している。 確かに彼女は生きている。 「負傷したのかっ?答えろ、フレデリカっ」 そこで初めて、T―1のモニターに通信ウィンドウが開かれると、そこに、苦痛に秀麗な顔を歪めたフレデリカの姿が、鮮明に映し出されたのだった。 『・・・足・・・足を・・・っ』 ヘルメットシールドを上げたフレデリカの額には、冷たい汗の粒が流れ落ち、気強いはずのその顔は、激しい痛みで蒼白になっている。 シートにしなやかな肢体を押し付け、蛾美な眉を眉間に寄せながら、モニター越しにリョータロウを顧みるライトグリーンの気丈な両眼。 負傷はしていても、フレデリカが無事であったことに安堵を覚え、リョータロウは、ヘルメットシールドを上げながら広い肩で小さく息を吐いたのである。 「T―2のマニューバを、T―1からのリモートに切り替える。このままセラフィムに戻るぞ」 『・・・・』 フレデリカは、長い睫毛に縁取られた眼をどこか悔しそうに細めると、押し黙ったまま、じっとリョータロウの黒曜石の瞳を見つめすえたのだった。 リョータロウは、先程までの怒気を端整な顔から一掃し、冷静で落着き払った表情で、ナビゲーションシステム“キリア”に言う。 「キリア、T―2のマニューバをT―1リモートに移行」 『イエッサー』 キリアの返答と同時に、T―2のイグナイトエンジンが再点火されると、リョータロウは、通信回線を切り替えて、セラフィムブリッジにこう告げたのである。 「ツァーデ・リーダーよりコントロール。ルーベント大尉が負傷した、ドックに担架を頼む。T―1及びT―2、RTB・・・これより帰投する」 両翼にダビデの星を掲げた二機のレイバンが、惑星フェンリルを背景に旋回し、銀色帯を引きながら、戦闘空母セラフィムに向かって宇宙空間を駆け抜けていった。
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