ぎりぎりのところでビームキャノンを回避したT―6から、泣き顔の歌姫を乗せたシャトルが急速に離れていった。 その瞬間、レイバンのレーダーが、アーマード・バトラーとは違う、多数の高エネルギー熱源を捉えたのである。 リョータロウは、照準レンジにオーディンを捕捉したまま、端整な顔を険しく歪めた。 レーダーに映った機影は、間違いなくトライトニア艦隊のものだった。 このままこの宙域に留まれば、否応なしにトライトニア艦隊とも一戦交える羽目になる。 トライトニア艦隊の主砲射程内に入るまでにはまだ余裕があるが、シャトルを牽引して離脱するのはかなりのリスクがあると、リョータロウはそう判断した。 リョータロウは、再びシャトルの回収に向かおうとしたハルカに向かって声を上げる。 「帰投しろハルカ!トライトニア艦隊だ!セラフィムから、交戦命令は出ていない!帰投が最優先だ!」 『で、でも、リョータロウ!それじゃ、ガブリエラが!!』 通信モニターの中で、ハルカは複雑な表情しながら反論せんととするが、リョータロウは強い口調で更に言うのである。 「いいから戻れ!隊長命令だ!」 ハルカのことも、ツァーデ小隊の隊員たちのことも、これ以上の危険に晒すわけにはいかない。 ハルカは、モニター越しに映った、凛々しい強さを誇るリョータロウの黒曜石の瞳を見つめながら、軽く唇を噛締めると、後ろ髪を引かれる思いで『了解』と返答したのだった。 T―6がメインバーニアを噴き上げて、セラフィムに向かって進路を取る。 リョータロウは、それをモニターで確認しながらブーストコントローラーを踏み込み、流星を越える速度でオーディンの上限を駆け抜けて行った。 操縦桿を倒して急反転、ブースト圧最大で急降下。 真正面に迫るオーディンを照準レンジに捕捉すると、デジタルカーソルが、小刻みな音を上げながら赤く点滅しロックオンを表示する。 リョータロウがミサイルリレーズを押すと同時に、オーディンの右腕から、凄まじいを残光を引いたクラッシャーブレードが一瞬で伸び上がった。 ミサイル発射と同時にT―1は左急旋回、クラッシャーブレードの斬撃が発射されたミサイルを両断しその全てを大破させると、T―1の右舷ぎりぎりを鋭利な光芒と共に豪速で行き過ぎていく。 リョータロウが、厳しい顔つきをしながら唇の奥で舌打ちすると、その有視界で、オーディンが急加速し、流星を超える速度でシャトルを追走して行った。 だが、それと同時に、T―1の右舷を、銀色の帯を引いたT―2が、やはり、宇宙の歌姫を乗せたシャトルに向かって一直線に暗黒の闇を駆け抜けて行ったのである。 「!?」 その光景に一瞬驚愕したリョータロウの耳に、セラフィムからの入電を知らせるアラームが飛び込んでくる。 『こちらセラフィムブリッジ、オリヴィア・グレイマン少佐。ツァーデ小隊各機に通達、セラフィムは、これより、ソドムシンク砲発射体制に入ります。ツァーデ小隊は、救助作業を中断し、速やかに帰艦してください。繰り返します、セラフィムは、これより、ソドムシンク砲発射体制に入ります。ツァーデ小隊は、救助作業を中断し、速やかに帰艦してください』 冷静な口調で帰艦命令を告げるオリヴィアの声に、リョータロウは、『ツァーデ・リーダー了解』と返答し、急加速でT―2を追う。 「ルーベント大尉!セラフィムはソドムシンク砲発射体制だ、帰艦命令が出ている!シャトル回収を中断して直ぐに帰投する!聞こえなかったか!?戻れ!」 通信回線に向かってそう言ったリョータロウに、フレデリカの声がこう返答してくる。 『このシャトルにいるのは“イヴ”かもしれないのよ?それをみすみすトライトニアに渡すつもりなの?』 「トライトニアはまだそれに気付いていない!バトラーも彼女には危害を加えないはずだ!戻れ!ルーベント大尉!」 『馬鹿を言わないで!万が一それに気付かれたらどうするつもりなの!?』 「それを考えるのは俺たちじゃない!セラフィムに帰投しろ!ルーベント大尉!」 『その命令も拒否する!』 「・・・・・フレデリカっ!!好い加減にしろ!!」 怒気を含んだリョータロウの声が、強い口調でそう言うと、通信回線はフレデリカによって一方的に遮断された。 「あの女・・・・っ」 リョータロウは、ヘルメットシールドの下で形の良い眉を眉間に寄せると、あからさまに憤慨した情で拳を握り、思い切りキャノピを叩いたのである。 流星の速度でシャトルに向かうT―2を、オーディンの高エネルギーレーザー砲が狙う。 後方のトライトニア艦隊は、此処から約30000の距離で交戦体制を整えており、宇宙の歌姫を乗せたシャトルは、ソドムシンク砲の射程圏内よりも下限を航行している。 リョータロウの声を全く無視したフレデリカが、T―2を駆り、一直線にシャトルへと急速降下していく。 それを追走するオーディンの背に、高エネルギーレーザー砲門が羽根のように開き、八基の砲門が赤い粒子を舞い上げると、そこから発射された灼熱の閃光が暗黒の闇を貫いていった。 右急旋回で全速回避したT―2が、機体をロールさせながら更にシャトルへと近づいていく。 トライトニア艦隊との距離は更に縮まるばかりだ。 後少しで、トライトニア艦隊は、母艦セラフィムに向かって攻撃を開始するだろう。 「フレデリカ!戻れ!帰投する!フレデリカ!!」 リョータロウは、T―2に対して再び通信回線を開くと、鋭い声でそう叫び、照準レンジの中にオーディンを捕捉しながら、レーダー誘導ミサイルの発射ボタンに指をかけたのだった。 だが、オーディンとT―2、そしてシャトルの距離が余りにも近すぎる。 下手に撃てば、全く無防備なシャトルまで被弾する可能性がある。 流石のリョータロウが躊躇いを覚えるこの最中にも、トライトニア艦隊はみるみる間近に迫り、セラフィムはソドムシンク砲発射シーケンスを始動している。 この状況下において、あのシャトルを回収することは、ハイリスクなことこの上ない。 まもなく、セラフィムはソドムシンク砲を発射する。 そうなれば、被弾したトライトニア艦隊の残骸が、この宙域に降って来る可能性が大きい。 セラフィムの艦長レムリアス・ソロモンは、“イヴ”と思しき少女を乗せたシャトルを、ツァーデ小隊に回収させるよ、トライトニアのアーマード・バトラーに回収させた方が、イヴにとっても、ツァーデ小隊にとってもより安全だと考えたに違いない。 何故それが判らないのかと、リョータロウは、怒りを通り越して悔しさすら感じる。 もし、彼女のこの行動が、リョータロウへの反発からくるものだとしたら、自らが招いた、それこそ目も当てらない最悪の事態だ。 ヘルメットシールドの下で、端整な顔を険しい表情で歪めると、リョータロウは、ブーストコントローラーを踏み込み、ミサイル発射体制のまま、シャトルへと迫るT―2の上限へと急旋回した。 シャトルへと虚空を駆けるオーディンは、クラッシャーブレードを迅速で翻し、伸び上がった凄まじい斬撃でT―2を薙ぎ払わんとする。 T―2は右急旋回で、光芒の如き迅速の弧をぎりぎりで回避。 「フレデリカ!戻れ!フレデリカ!!」 リョータロウは、尚も通信回線からそう呼びかけるが、フレデリカは答えない。 それどころか、T―2は、急加速しながら、シャトルとオーディンの合間に流星の速度で突っ込んでいく。 T―2の火器はビームガドリングへと変更され、オーディンのクラッシャーブレードは、鞭のような形状から、細長いランサー(槍)へと一瞬で変化する。 オーディンのメインバーニアが青い炎を噴き上げ、予想を遥かに越える凄まじい速度で暗黒の虚空を駆け抜けた。 機甲武闘神の右腕に携えられた青い閃光の槍が、流星を越える速度でT―2の真正面に迫る。 オーディンのクラッシャーブレードは、確実にT―2のコクピット狙っている。 リョータロウの眼下で、豪速で突き出された鋭い軌跡は、T―2のコクピットを目掛け、宇宙を駆ける光芒の如く一直線に闇を貫いていく。 フレデリカは、眼前に迫り来る高エネルギーランサーを目の当たりにして、驚愕でその両眼を大きく見開いた。 「!!?」 「フレデリカ!避けろ―――――っ!!」
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