L・オーディンの右腕が迅速でもたげられ、急速接近してくるT―1に向かって、戦艦の強固な装甲も一撃で薙ぎ払う閃光のレーザーブレードが翻される。 俊足の青い弧を描く光の刃を、急加速急上昇で回避し、リョータロウは、その照準レンジの中にL・オーディンの姿を一瞬で捉えた。 左右に揺れる照準レンジが、小刻みなデジタル音を上げて赤く点滅し、ロックオンを表示する。 右旋回と同時に、凛と厳しい顔つきをしたリョータロウの指が、拡散ミサイルの発射ボタンを押す。 T―1の両翼下部から、轟音と白煙を上げた弾頭が容赦なく発射されると、バーニアを噴き上げながらほぼ直角に左舷へと移動したオーディンへと、白い帯を引きながら豪速で迫った。 拡散ミサイルからブースターが切り離され、その弾頭が割れると、その中から、無数の小型ミサイルが、その名の通り、広範囲に渡って拡散し暗黒の宇宙空間に縦横無尽の白い閃光を描いていく。 流星の如き速度で宇宙を貫くオーディンが迅速に右腕を掲げ、そこから翻ったクラッシャーブレードが、鞭のように伸びながら広範囲の闇を駆け抜けた。 解き放たれた無数のミサイルが白煙と爆音を上げ、放射線状の鋭利な軌跡の中で次々と大破すると、辺りは、湧き上がるような白煙に満たされていく。 メインバーニアを噴き上げ、流星の速度で虚空を駆けるオーディンを、生き残ったミサイルが凄まじい速度で追尾する。 リョータロウは、その上限でレイバンを急旋回させると、火器をビームガドリングに切り替え一気急降下していった。 伸び上がるクラッシャーブレードが、次々とミサイルを大破させながらレイバンT―1に翻る。 フレデリカ機T―2が、オーディンの進路を塞ぐように流星の速度で飛来し、急旋回しながらビームガドリングを連射した。 リョータロウは、照準レンジにオーディンを捉えたまま、180度ロールでクラッシャーブレードの斬撃を回避すると、反転した状態でビームガドリングを発射する。 宇宙の闇に無数の赤い弾丸が炸裂し、上限と左舷から同時攻撃を加えられたオーディンが、左腕のビームキャノンを構えた状態で急加速降下していった。 ぎりぎりのところでガドリング弾を回避したオーディンは、機体を反転させながら800mという大型ビーム砲を扇柄の動線で容赦もなく発砲、同時に、背中の高エネルギーレーザー砲まで撃ってくる。 暗黒の闇を9方向に切り裂きながら、戦艦の主砲並みの威力を誇る凄まじい砲撃が、青と赤の粒子を飛び散らせて、二機のレイバンへと豪速で迫っていった。 「化け物かこいつは!」 苦々しくそう呟いたリョータロウが、ブーストコントローラーを踏み込み、その機体を大きく右に旋回させ、流星を越える速度で9方向の閃光を回避していく。 だが、間髪いれずに発射された8基の追尾ミサイルが、白い帯を引きながらその後方に追いすがった。 「キリア、レーダー誘導ミサイル発射準備!」 『イエッサー、RDY GUN』 コクピットにけたたましい回避警報が鳴り響く中、ほぼ垂直に機首を上げたT―1が縦ループを描くと、リョータロウは、照準レンジに追尾ミサイルを捉え、降下しながらミサイルリレーズボタンを押した。 レイバンのミサイルユニットから、爆音と白煙を上げて発射された八基の弾頭が、追いすがる追尾ミサイルをまんまと迎撃してしまう。 立ち昇る白煙を切り裂きながら旋回したT―1とすれ違うようにして、やはり、追尾ミサイルを迎撃したT―2が流星の速度で駆け抜けていく。 生意気でいけ好かない女であはるが、フレデリカの操縦手腕はやはり高水準だ。 イエローゾーンで回転する高性能イグナイトエンジンに振り回されることもなく、オーディンのあの攻撃を難なくかわしたのだから。 パートナーとして彼女を選んだリョータロウの判断は、やはり正しかったと言えよう。 リョータロウは、ブーストコントローラーを踏み込み、T―1の機体を、オーディンに向かって急加速させる。 高性能イグナイトエンジンが甲高い音と共に回転数を上げると、メインバーニアが青い炎を噴き上げながら、流星を越える速度で闇を突き抜けていく。 強いGに眉間を寄せたリョータロウの有視界で、やはりオーディンもバーニアを噴き上げ、その進路を、宇宙の歌姫を乗せたシャトルに向けたのである。 それと同時にT―1の通信回線が開き、鋭利に両眼を細めたリョータロウの耳に、T―6、ハルカの声が響いてきたのだった。 『T―6よりT―1!シャトル回収作業完了!このまま、セラフィムに帰投します!』 ハルカの報告を受けて、リョータロウは、何故、オーディンが進路を変えたのか理解した。 恐らく、オーディンは、デボン・リヴァイアサンに拉致された宇宙の歌姫アンジェリカを救助するために、この宙域に向かわされたのだろう。 だとすれば、その任務は確実に遂行せんと試みるだずだ。 凛と強い表情で端整な顔を引き締めて、低く鋭い声でリョータロウは言う。 「T―1了解。全機、帰投。バトラーは俺が食い止める。ルーベント大尉、おまえも帰投しろ」 ツァーデ小隊各機が、一斉に『了解』と返答し、母艦セラフィムに機首を向けた時、何故か、たった一人だけ、こう返答した人間がいたのだった。 『T―2は、その命令を拒否します』 それは、明らかにフレデリカの声である。 リョータロウは、T―1を殊更加速させオーディンの後方に追いすがると、照準レンジに金色の機体を捉えながら、苦々しく眉間を寄せたのだった。 だが、今のこの状況で彼女と押し問答している暇はない。 「ツァーデ・リーダーは、その返答を上官に対する命令不従順と見なす。帰投後、処分を通告する、覚悟しておけ」 『どうぞ、お好きにしたら』 フレデリカの返答と時を同じに、T―1の照準レンジがデジタル音を上げてオーディンをロックオンする。 リョータロウの指がミサイルリレ―ズを押すと、白煙を上げる八基のレーダー誘導ミサイルが、宇宙空間を貫くようにして豪速でオーディンへと向かっていった。 オーディンは、一瞬で左舷に移動、俊敏な動作で振り返りながら、右腕のクラッシャーブレードを凄まじい迅速(はや)さで一線させる。 青く鋭利な帯を引いて伸び上がった閃光の斬撃が、後方のミサイルを全て破壊し、正確な軌跡でT―1の眼前に迫った。 T―1はピッチアップ、急上昇でその斬撃を退き、銀色の閃光を引きながら急降下でオーディンの上限へと闇を駆ける。 オーディンの右腕が翻り、鞭のように伸びるクッラッシャーブレードが、湾曲した鋭い軌跡を描いて虚空を二分した。 時を同じに、オーディンの左腕に装備された大型ビームキャノンが、シャトルを牽引するT―6へと向けられる。 戦艦の主砲と同じ性能を持つオーディンのビームキャノンは、この距離からでも、余裕でT―6を射程圏内に捉えることが出来るのだ。 リョータロウは、T―1の機体を左舷に急速移行させながら、クラッシャーブレード回避し、大きく声を上げたのだった。 「ハルカ!牽引解除!避けろ!!」 『りょ、了解!』 どこか焦ったような返答と共に、ハルカは、牽引レーザーを瞬時に解除し、T―6の機体を急加速で右舷に移行させる。
|
|