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作品名:NEW WORLD〜交響曲第二楽章〜 作者:月野 智

第50回   【ACTX 砲撃のコンチェルト】11
              *
血の繋がらない兄であるトーマによって、脱出シャトルに乗せられたガブリエラは、宇宙服を纏ったその身を震わせ、その蒼く澄んだ瞳から止めどなく宝石の涙を零していた。
今、窓越しに赤いレーザービームを回避したのは、青い星を掲げた複数の黒い戦闘機である。
それは、惑星ドーヴァで見たあの機体と同じ物だった。
そこに搭乗しているのは、ガブリエラ自身が『宇宙(そら)飛ぶ天使』と称した人物達かもしれない。
だが、ガブリエラは、その胸の不安を解けないままでいた。
何故なら。
今、此処に、決死の覚悟でガブリエラをシャトルに乗せた兄、トーマ・ワーズロックの姿がないからだ。
ワダツミから脱出した時、兄であるトーマは、その身体にまともに銃弾を受けた。
あの後、トーマがどうなってしまったか、ガブリエラには知る術もない。
だからこそ心配で、不安で、どうしようもないのである。
もし叶うのであれば、あのテロリストの戦艦から、兄を救い出して欲しい。
別れ際に見たトーマの笑顔が、幾度も幾度もガブリエラの脳裏を横切っていく。
「お兄さんを助けて!お兄さんは、まだテロリストの船から逃げてないの!私は、いいから!お兄さんを助けて上げて――――・・・・っ!」
必死で窓を叩きながらそう叫ぶが、その声が、あの黒い戦闘機に届く筈もなかった。
「お兄さんが・・・まだ、テロリストの船にいるの・・・お願い、お兄さんを助けて・・・っ」
無重力にふわりと身体を浮かせたガブリエラが、グローブをした両手でその綺麗な顔を覆った。
長い金色の髪が漂うように虚空に揺れ、今まで抱えていたヘルメットが、ふわふわとその頭上に浮き上がる。
その時だった。
シャトルの内部に設置されていた通信機がザザッと短い雑音を上げると、不意に、聞き覚えのある声がガブリエラの名前を呼んだのである。
『・・・ガビィ、無事か?ガビィ・・・シャトルにいるのは判っている。直ぐに行く。』
その声は、明らかに、護衛としてガブリエラに付き添い、全身をビームガンで撃ち抜かれたまま、上空800メートルから地上へと落下したヴァルキリー、ガブリエラ自身が『ミハエル』と名付けた、あのタイプΦヴァルキリーの声であったのだ。
「ミハエル・・・・・っ!?」
ガブリエラは、ハッと細い背中を震わせると、慌ててシャトルの壁を蹴り、通信機の取り付けられた壁際に移動し、グローブに覆われた指先で通信回線のオープンスイッチを押したのだった。
「ミハエル!ミハエル!ガビィよ!ミハエル・・・私は無事よっ、ミハエルも無事だったんだねっ・・・良かったっ、良かったっ!・・・ミハエルが無事で・・・良かった!」
激しく嗚咽しながら、堰を切ったようにそう言ったガブリエラに、通信機ごし再び、ミハエルが話し掛けてくる。
『待っていろ、迎えに行く』
「ミハエル・・・っ」
綺麗な涙を虚空に飛び散らせながら、ガブリエラは、両手で可憐なその顔を覆い、声を上げて泣き始めたのである。
しかし、この時、ガブリエラは気付かないでいた。
本来なら、戦闘中には起動しないはずのミハエルの情緒プログラムが、アーマード・バトラーに搭乗しながらも、その一部を起動させていたという、その重要な事実に・・・
             *
ツァーデ小隊隊長リョータロウ・マキが搭乗するT―1が、流星を越える速度で宇宙空間を貫いていく。
その僅か後方には、女性パイロットフレデリカ・ルーベントが搭乗するT―2が続いていた。
リョータロウの有視界で、みるみる大きくなっていく金色のアーマード・バトラーの姿。
その重装備の機体を、リョータロウが忘れるはずもない。
幾度か交戦したことのあるその機体は、タイプΦヴァルキリー、識別コード07が搭乗しているものに相違ない。
五年前、リョータロウの顔に鋭い傷跡と残し、そして・・・リョータロウ自身が『メイヤ』と名付けた女性体タイプΦヴァルキリー011を、アーマード・バトラー『グィネビア』ごと破壊した男性体ヴァルキリーである。
操縦桿を握るリョータロウの脳裏に、五年前のあの辛苦で悲壮な思い出が、今、鮮やかに蘇ってくる。
ヘルメットシールドの下で、凛と強い黒曜石の瞳を鋭利に閃かせ、リョータロウは、ナビゲーションシステム“キリア”に向かって低く言うのだった。
「キリア、拡散ミサイル発射準備」
『イエッサー、RDY GUN』
キリアの返答と同時に、眼前のモニターには、使用火器が対アーマード・バトラー用拡散ミサイルに変わったことを知らせるグラフィックが表示された。
強い加速Gに僅かに眉間を寄せたリョータロウの耳に、入電を知らせるアラームが鳴り響き通信ウィンドウが開くと、それと同時に、さも怪訝そうな顔つきをした女性の姿がモニターに映し出されたのだった。
『T―2からT―1。私をパートナーにするなんて、一体、どういう風の吹き回しかしら?』
それは他でもない、T―2に搭乗する女性パイロット、リョータロウとは犬猿の仲とも言うべきフレデリカ・ルーベントであったのである。
リョータロウは、冷静さを失わない声で低く返答した。
「T―1からT―2。この金色の奴とまともに交戦した経験があるのは、俺とおまえぐらいなもんだからな。こいつの動きはよく知っているはずだ、意地でもシャトルに近づけるな」
『その言い方は気に入らないけど、最善は尽くすわ。先に墜されないように、気をつけることね』
「誰が墜とされるかよ」
相変わらずのフレデリカの返答に、リョータロウもまた相変わらずの返答をし、鋭利な表情で両眼を細めると、ミサイル発射ボタンに指をかけたのだった。
銀色の帯を描くレイバンの機体と、金色の閃光を上げるL・オーディンの機体が、流星を越える速度で真正面から対峙する。
T―1のコクピットに、ロックオン回避警報がけたたましく鳴り響くと同時に、その視界で、L・オーディンの背中で羽根のように開いた8基の高エネルギーレーザー砲が、赤い粒子を舞い上げたのだった。
リョータロウは、ブーストコントローラーを踏み込んで操縦桿を左に倒し、急加速急旋回。
宇宙を二分する高エネルギーレーザー砲の帯が、たった今までT―1の機体があった空間を凄まじい速度で貫いていく。
後方にいたT―2もまた、迅速で右舷に退避。
迸るレーザー砲の軌跡は、救難シャトルの付近にいるツァーデ小隊の元へと迫るが、全機共に急速旋回で回避する。
リョータロウは、唇の下でチッと舌打ちして、苦々しく眉間を寄せると、通信回線に向かって鋭い声色で言うのだった
「ルーベント大尉、俺は、こいつの懐に飛び込んで迎撃する。援護を頼む」
『また接近戦を仕掛けるつもり?あなたも懲りないわね?』
「懲りるかよ。こいつの動きを止めるにはそれしかない」
フレデリカの返答にそう返して、リョータロウは再び操縦桿を倒すと、T―1を急旋回させ、流星を越えるかのような速度で一機にL・オーディンへと迫っていく。
L・オーディンの右腕に青い閃光が閃くと、そこから、アーマード・バトラーの接近戦主要武器、クラッシャーブレードが伸び上がった。


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