* 戦艦ワダツミから射出された救難シャトルを追ったツァーデ小隊が、惑星フェンリルの陰から急接近してくる高エネルギー熱源を感知したのは、セラフィムとワダツミがぎりぎりの攻防を展開し始めた時のことだった。 急接近してくるこの熱源は、間違いなく、タイプΦヴァルキリーを操縦ユニットとした人型機動兵器、アーマード・バトラーである。 ツァーデ小隊T―6、ハルカの眼前には、自らの軌道を周るフェンリルを背景にした、小型シャトルの機影が、どこか頼りなく浮かんでいた。 接近してくるアーマード・バトラーをレーダー確認しつつ、ハルカは、澄んだ黒い瞳を僅かに細めて、外部モニターの画像を拡大していく。 するとそこに、シャトルの窓にすがりつくようにしてこちらを見つめる、可憐な少女の泣き顔が映り込んできたのである。 宇宙服を着込んだその少女は、光の切っ先にも似た美しい金色の髪を、秀麗な白皙の頬に張り付かせながら、失われた惑星の色をした蒼い瞳を、宝石の涙で濡らしていた。 高機能重力制御システムを搭載していないシャトルの内部は、正に無重力状態である。 そのため、少女の綺麗な涙は、丸い球体となって緩やかに空間を漂いながら、ダイヤモンドのようにキラキラと輝いていた。 「ガブリエラ・・・・・っ」 ハルカは、咄嗟にその少女の名前を口にすると、開いたままの通信回線に向かって言うのである。 「T―6よりT―1!救助対象者確認!ガブリエラに間違いありません!」 『T―1了解。T―1より全機に通達、アーマード・バトラーが急接近している。交戦命令は出ていない。速やかにシャトルを回収して帰投する。T―5及びT―6は、シャトル回収作業に入れ、それ以外の機は、第一次防衛体制でシャトル回収作業を援護』 ツァーデ小隊隊長、リョータロウ・マキの冷静な声が、低く鋭い響きを持ってそう指示を通達した。 全機、一斉に『了解』と返答。 デルタ編隊からT―6、ハルカ機と、T―5、サイモン・クルーニの機体が離れ、バーニアを噴き上げて急加速でシャトルへと向かう。 T―1を始めとする8機のレイバンは、T―6の上限で編隊を崩し、そのまま、シャトルの周囲を囲むようにして緩やかに旋回し始める。 ハルカが、全ての機の位置をレーダーで確認した時、T―6の隣にT―5が並んでくると、通信回線から、T―5のパイロット、サイモンの声が聞こえてきたのだった。 『T―5よりT―6。ハルカ、牽引レーザー射出準備・・・・・あれが噂の歌姫か?可愛い娘(こ)だな、おまえの彼女にするのは勿体無いぐらいだ』 からかうようなその言葉に、ハルカは、思い切り赤くなって、ムキになった口調でこう返答したのである。 「T―6よりT―5。何訳のわからないこと言ってるんですか!?そんなこと言ってる場合じゃないですよ!早くしないと、アーマード・バトラーが来ますよ!」 『そんなに照れるなよ。女の一人や二人知っとかないと、ツァーデ小隊は勤まらないぞ』 「それ、全然ミッションとは関係ないじゃないですか!?さ、先に行きますっ!」 ヘルメットのシールドの下で、少女のような繊細な顔を耳まで赤くしたハルカが、通信回線越しにサイモンの愉快そうな一笑を聞きながら、綺麗な眉を眉間に寄せてブーストコントローラーを踏み込んだ。 主翼に青い六芒星のエンブレムを掲げたダークブラックの機体が、メインバーニアを噴き上げて、流星の如き速度でシャトルへと接近していく。 キャノピ越しの左舷で、みるみる大きくなっていくシャトルの機影。 「キリア、牽引レーザー射出準備」 『イエッサー』 ハルカの声に、ナビゲーションシステム“キリア”が、無機質な声で短く返答する。 シャトルの中の可憐な歌姫は、どうやら、レイバンに気付いている様子だ。 モニターの中で、アンジェリカことガブリエラ・ワーズロックが、片腕ヘルメットを抱えた姿で、何を言わんとその綺麗な唇と動かしている。 グローブの覆われた手が、盛んに窓を叩いていた。 ハルカが操縦桿を倒すと、T―6が緩やかに機体を傾け、シャトルの真上に差し掛かろうとする。 正にその時、レーダーレンジが敵機接近を知らせる警報を上げ、あろうことか、ロックオン回避警報までも、コクピットの中にけたたましく鳴り響き始めたのである。 それは、接近中のアーマード・バトラーが、ツァーデ小隊を攻撃目標と捉え火器使用を謀ったことを明白に示唆していた。 「まだ距離があるのに・・・・っ!この距離からでも、狙えるってこと!?」 ハルカが、驚愕にその両眼を見開いた、次の瞬間だった。 惑星フェンリルを左舷に見た宇宙空間に、眩い金色の閃光が走ると、その狭間から、無限の闇を突き抜けるようにして、八筋の赤い高エネルギーレーザーが、正確な軌跡を描きながら豪速で迸ったのである。 明らかにツァーデ小隊を狙って放たれたものだ。 ブーストコントローラーを踏み込み、ハルカは、レイバンの機体を急加速で左舷へと移行させると、今までその機体があった空間を、高質量を誇る赤い光芒が凄まじい速度で貫いていく。 「な、なんて正確に撃ってくるんだ!?」 驚愕を隠し切れないまま、唸るようにそう呟いたハルカの耳に、隊長機からの入電を知らせるアラームが鳴った。 『T―1からT―5、及びT―6へ。シャトル回収作業急げ。』 鋭い響きを持つリョータロウの冷静な声が、否応なしにハルカを緊張させる。 「T―6了解!」とハルカが返答すると、『T―5了解』と、サイモンも刻みよく返答した。 リョータロウの指示は更に続く。 『T―3、T―4、及びT―7からT―10は、シャトルから近距離にいて回収作業の援護に徹しろ。このアーマード・バトラーは、金色の奴だ、相当手強い。T―1及びT―2で接近を阻止する。回収作業が終了し次第、即刻帰投しろ』 指名された全機が一斉に『了解』と返答する中、有視界からは、流星を越える速度で近づいてくる金色の機影が近づいてきていた。 重装備のその機体は、トライトニアが誇るアーマード・バトラー部隊の隊長機『オーディン』、それも、『ランサー・オーディン』として改良を施された強化型機体である。 ハルカが、T―6の機体を急速にシャトルへと寄せる中、その上限で旋回したT―1とT―2が、ブースト圧をイエローゾーンにまで高めて、銀色の帯を引きながらL・オーディンに向かって宇宙空間を駆け抜けて行った。
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