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作品名:NEW WORLD〜交響曲第二楽章〜 作者:月野 智

第48回   【ACTX 砲撃のコンチェルト】9
ソロモンは、いつになく厳しい顔つきのまま、爛と輝く紅の瞳でモニターのショウゴを真っ直ぐに見つめすえる。
『おまえには、恨みがある。そう簡単に、おまえの言葉に従うと思うな』
リョータロウによく似たショウゴの唇が、再び鋭利にもたげられる。
その次の瞬間、セラフィムの新人通信オペレーターマデリンが、悲鳴のような声を上げたのだった。
「艦長!トライトニア艦隊、距離45000に到達!残り約180秒で、敵艦隊主砲射程圏内です!!」
マデリンのその言葉に、ソロモンの紅の瞳が閃光の如く発光する。
それと同時に、通信回線が遮断され、ワダツミの船体に装備された戦闘機用対空ミサイルの発射ユニットが反転し、轟音と白煙を上げながら、セラフィムの側面へと容赦なく弾頭を発射したのだった。
至近距離から飛び込んできたミサイルが、凄まじい爆音を上げて装甲板を被弾させると、その衝撃で、セラフィムの船首が僅かに左舷へと弾かれた。
再びブリッジに激しい衝撃が走り抜け、女性オペレーター達が短い悲鳴を上げる。
まるでそれを見計らったように、ワダツミの右舷補助バーニアが最大出力で青い炎が噴き上げた。
鋼色に輝くワダツミの大型船体が、鈍い音を上げながら、急速に左舷へと船首を離し、メインバーニアを噴き上げながら、機関出力最大でセラフィムを離れていく。
「艦長!ワダツミ、離脱します!」
オリヴィアの声の後、マデリンの声が続く。
「トラリト二ア艦隊、速度2500Sノットで急速接近中!距離、35000!」
ソロモンは、その優美な顔を厳しい表情で彩った。
ワダツミは、このままワープイン可能宙域まで離脱するつもりだ。
トーマのこともある、追撃したいのは山々だが、背後からは、トライトニア艦隊が迫ってきている。
セラフィムは、ワダツミより、その船体と質量が二周りも大きい上に、右舷の補充エンジンを破損しているため、否が応でも速度が落ちる。
機関最大でワープイン可能宙域まで到達する前に、トライトニア艦隊の砲撃を受ける可能性が極めて高い。
この戦況下だ、“イヴ”と思しき少女を乗せたシャトルを、ツァーデ小隊に回収させるより、もしかすると、このままアーマード・バトラーに回収させた方が、双方にとって一番安全なのかもしれない・・・・
ソロモンは、そんなことを思案した後、形の良い眉を苦々しく眉間に寄せると、低めた声で言うのだった。
「ツァーデ小隊に、シャトル回収作業を中断させて帰艦命令を出せ。セラフィム、急速反転180度。ソドムシンク砲発射準備、システムセットアップ開始。ソドムシンク砲発射と同時に、セラフィムはワープイン可能宙域まで全速後退し、ジルベルタ星系を離脱する」
冷静だが鋭い響きを持つその言葉に、一瞬、ブリッジに緊張が走る。
ソドムシンク砲は、戦闘空母セラフィムが搭載する、膨大な質量を誇る高エネルギーレーザーの大砲門である。
だが、エネルギー充填が完了するまでの1分間、セラフィムは、全動力を砲門に回さねばならず、補助推進と通信以外、全ての機能を停止させなければならないというリスクがある。
そのため、ソドムシンク砲は、滅多に使用することはない。
トライトニア艦隊の主砲射程圏内に入るには、僅かだがまだ余裕がある。
全速離脱しながら交戦するより、このままソドムシンク砲を使って敵艦隊を殲滅し、援軍が到着する前に、ジルベルタ星系から離脱する方がよりリスクが低いと、ソロモンはそう判断したのだ。
ブリッジオペレーター達が、意を決して「イエッサー!!」と強く返答す。
「ソドムシンク砲、セットアップ開始します」
セラフィムが急速反転し始めると同時に、オリヴィアが冷静な声でそう告げた。
ブリッジの大型モニターに、ソドムシンク砲セットアップデータが緩やかに流れてくる。
紅の瞳を鋭利に細め、それを睨むように凝視しながら、ソロモンは低く鋭い声で言葉を続けた。
「全艦隔壁閉鎖。ハイド粒子散布完了後、メインエンジンを停止し、ソドムシンク砲エネルギー充填開始」
銀色の前髪から覗く紅の瞳が、猛禽類の鋭さを宿し、大型モニターに別ウィンドウで映し出されるトライトニア敵艦とワダツミの機影を睨むように見つめる。
「全艦隔壁、閉鎖します」
どこか緊張した様子でオリヴィアが返答すると、ブリッジの巨大な風防に装甲シャッターが降り始め、艦内の隔壁が次々と閉鎖されると、船体の全ての風防や窓にもまた装甲シャッターが降りていった。
鋼色の船体から白煙を上げたまま、デボン・リヴァイアサンの司令戦艦ワダツミが、ソドムシンク砲発射体制を取るセラフィムから遠ざかっていく。
トーマ・・・すまない・・・だが、必ず、救出する・・・・・生きていろ・・・
ソロモンは、いつになく口惜しい気持ちを否めずに、前で腕を組んだまま端整な唇を引き結び、ぎりりと奥歯を噛締めたのだった。



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