その凄まじい衝撃に、座席から放り出されそうになったセラフィムのオペレーター達が、短い悲鳴を上げてコンソールパネルにしがみつく。 大型モニターの上部に、船体の右舷前方を被弾したことを知らせるグラフィックが表示され、赤いカーソルがけたたましく点滅する。 美麗な顔を厳しく歪めながら、オリヴィアが、すぐさま破損個所をソロモンに伝えた。 「1番、2番主砲被弾。前方上部第3、第4装甲板、および第8、第9装甲板、二層まで破損」 その語尾を続けるように、ナナミが声を上げた。 「ワダツミ、距離5560まで接近!」 ナナミの隣で熱源感知レーダーを覗いていた新人オペレーターマデリンが、殊更焦ったような声色で大きく言う。 「左舷後方三時の方向、多数の高エネルギー熱源感知しました!距離77980!ケンタウロス級戦艦、30・・・・艦長!トライトニア艦隊です!!」 「・・・・トライトニア艦隊が、動き出したか」 ソロモンは、殊更厳しい顔つきでそう呟くと、風防越しに大きくなっていくワダツミを睨むように見たのだった。 その時、ナナミが再び声を上げる。 「ワダツミとの距離、3970・・・・っ!」 「照準修正0.273・・・・」 ソロモンの鋭い声と共に、セラフィムの主砲に赤いエネルギー粒子が舞い飛んだ。 時を同じに、ワダツミの主砲もまた、青いエネルギー粒子を上げる。 近距離で敵艦が被弾し大破すれば、間違いなく、こちらもその爆発に巻き込まれる事になる、そうなれば、双方共に無事では済まない。 この距離だ、主砲が撃てるのは、これが最後になる。 ソロモンの形の良い眉が、厳しく眉間に寄せられた。 「主砲・・・・撃て!!」 互いの船体に向けて、赤と青の凄まじい閃光が、甲高い轟音と共に容赦なく迸った。 暗黒の闇を貫くビームの先端が三度すれ違うと、光の帯の合間を縫いながら、一瞬の内に互いの装甲板を直撃する。 ワダツミの主砲に船体上部を貫かれたセラフィムが、宇宙を震わせるような爆音を上げながら、弾かれるようにして大きく斜めに傾いた。 凄まじい衝撃がコントロールブリッジを駆け抜け、オペレーター達が再び悲鳴を上げる。 そのあまりの衝撃に座席から投げ出された者もいれば、危うくコンソールパネルにすがりついた者もいる。 ブリッジの巨大な風防の向こう側に、立ち昇る白煙。 その狭間で、やはり、セラフィムの主砲に船体上部を貫かれたワダツミもまた、大きく斜めに傾いて、暗黒の闇に白い煙を上げた。 だが、双方共に推進を破損した訳でないない。 「第6、第7主砲被弾、左舷中央、第145、146、147装甲板二層まで破損!」 オリヴィアが被害状況を伝える中、速度3500sノットという高速を保ったまま、セラフィムは、尚も前進を続けていく。 コンソールパネルに両手を着いて、投げ出されそうになる体を支えたソロモンが、いつになく大きな声を上げた。 「左舷前方補助エンジン出力90%!ワダツミの船首に、セラフィムの船首を当てる!衝撃に備えろ!」 「左舷前方補助エンジン出力90%!」 機関長ビル・マードックの応答と共に、セラフィムの巨大な船体が体制を立て直しながら、急速に船首をワダツミへと向ける。 風防の中で、みるみる大きくなっていくワダツミが、急速に左舷に船首を振るが、セラフィムの速度の方が早い。 高速で急接近するセラフィムとワダツミの合間に、雷光の如く閃く金色のパルスが迸り、吸い寄せられように近づいたセラフィムの右舷船首が、轟音を響かせながら斜めに傾き、最大出力を保ったままワダツミの右舷船首に衝突する。 大音響と共に発生した凄まじい衝撃の波動が、波紋を描くようにして双方の船体を大きく揺らし、波打ちながらブリッジを左に傾けていく。 双方の船体が鈍く軋み、ブリッジオペレーター達が、投げ出されそうになる体を必死で支えた。 主任オペレーター、オリヴィアが、片手で座席の背もたれに掴まりながら、被害状況を伝えてくる。 「船首右舷側面第1から第8装甲板、二層まで破損。第9から12まで、一層のみ破損。右舷前方補助エンジン破損、出力20%まで低下しました・・・っ」 その報告を受けて尚、冷静さを失わないソロモンは、コンソールに両手をつて長身を支えつつ、優美な顔を鋭い表情で歪めながら低く言うのだった。 「ワダツミに強制回線を開け!第3から第5番主砲、右反転25度、射影角下限15度!第12から14番主砲、右反転25度、射影角上限13度!」 「りょ、了解・・・!強制回線・・・開きます!」 コンソールパネルにしがみつきながらも、ナナミの片手が素早くコンソールを叩いた。 通信モニターに“通話”のロゴが浮かび上がると、ソロモンは、沈着だが、鋭利な声色で低く言う。 「こちらは、空母セラフィム。艦長のレムリアス・ソロモンだ。二カイドウ艦長、速やかに人質を解放しろ。さもなくば、セラフィムは、貴艦をこのまま拿捕する。速やかに人質を解放しろ」 次の瞬間、セラフィムの大型モニターに通信ウィンドウが開くと、そこに、癖のかかった黒髪と、凛と強い輝きを宿す黒曜石の瞳を持つ青年の顔が映し出されたのだった。 ソロモンが信頼を置く、若きツァーデ小隊隊長リョータロウ・マキに良く似た容姿を持つその青年は、戦艦ワダツミの艦長、ショウゴ・二カイドウに相違ない。 ショウゴは、長い前髪から覗く黒曜石の瞳を鋭く細めると、冷静にして鋭い表情のまま、低く言うのである。 『戦艦ワダツミ、艦長ショウゴ・二カイドウ。ハデスの番人・・・・・・おまえは、何故我々デボン・リヴァイアサンの行動に介入する?それとも・・・おまえがこだわっているのは、やはり、我々が拘束している捕虜の方か?』 「ワダツミが拘束しているトーマ・ワーズロックは、民間人だ。ましてや、トーマは、俺の古い友人の息子だ。見過ごす訳にはいかない。速やかにトーマを解放しろ。ガーディアンエンジェルは、デボン・リヴァイアサンの行動に介入するつもりはない、ワダツミがトーマを解放すれば、我々は即時この宙域から離脱する」 輝くような銀色の髪を広い肩で揺らし、猛禽類の如き鋭利な表情でそう返答すると、ソロモンは、美しい紅の瞳を細めながら、モニター越しのショウゴを見やる。 ショウゴは、精悍な唇を鋭くもたげると、鼻先で笑って静かに言うのだった。 『なるほど・・・・・だが、俺はおまえの言葉に従うつもりはない。ここで捕虜を解放したところで、我々の身の安全が保証される訳ではない。少なくとも、トーマがワダツミにいれば、おまえはワダツミを撃てない。それが判っただけでも、意義があった』 「流石に、一筋縄ではいかないようだな・・・?二カイドウ艦長?」
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