* 『ツァーデ・リーダーよりツァーデ小隊全機。これより、急襲行動を開始する。T―1からT―5、及びT―7は、ワダツミの左舷後方の装甲ゲートを破壊して、船内に侵入する。T―6、並びにT―8、T―9、T―10はシールド発生装置破壊後、機関部を攻撃。絶対に艦を爆破させるな、推進を止めるだけでいい、慎重にいけ』 ツァーデ小隊隊長リョータロウ・マキの指示に、ワダツミの上方を旋回するツァーデ小隊機が一斉に『了解』と返答した。 隊長機T―1が、メインバーニアを噴き上げて急加速でワダツミへと降下していく。 それに続くように、銀色の帯を引くレイバンRV―019の編隊が、流星の速度でワダツミへと迫っていった。 ワダツミのビームガドリングから赤い閃光の弾丸が連射されると、寸分の間もおかず、対戦闘機用追尾ミサイルが発射され、凄まじい速度で10機のレイバンへと迫りくる。 編隊を崩したレイバンの機影が、ロールしながら追尾ミサイルをやり過ごし、それを照準レンジに捉えて一斉にレーダー誘導ミサイルを発射した。 迎撃された追尾ミサイルが爆音と共に大破し、ワダツミの船体を包み込むように白煙を上げた。 だが、ワダツミは、全く停船する様子も見せず、機関最大出力で、戦闘空母セラフィムへと迫っていく。 ワダツミから、ひっきりなしに主砲が発射され、時を同じに発射された対戦艦ミサイルが白い帯を引きながらセラフィムのシールドに着弾すると、轟音を上げて大爆発を起す。 宇宙空間ですれ違う赤と青のビームの閃光と、対戦艦ミサイルの白煙が、無限の闇で入り混じった。 デボン・リヴァイサン親衛艦隊は、セラフィムの攻撃で既に四隻を失っているが、残りの三隻は未だ士気を失わず、猛威というに相応しい攻撃を止める事は無かった。 強固なシールドに対空砲火が命中し、その衝撃で、セラフィムのコントロールブリッジが大きく斜めに傾く。 見事な統率力でセラフィムの主砲をかわし、みるみる距離をつめてくる敵艦を大型モニターで見つめながら、レムリアス・ソロモンは、ブロンズ色の肌に彩られた優美な顔を、鋭い表情に満たしたのである。 この手腕は、惑星国家の艦隊司令官以上だと・・・ソロモンは思う。 勿論、相手がスペック14の最新鋭艦というのも一理ある。 だが、こちらの発砲タイミングを絶妙に計り、瞬時の判断力で艦隊を動かす優秀な司令官がいるからこそ、ここまで俊敏に回避行動が取れるのだ。 「艦長、戦艦ワダツミ、右舷より急速接近中。距離15570。至近距離からの砲撃を受ければ、シールドがもちません!」 レーダー通信オペレーター、ナナミ・トキサカが黒い前髪を揺らしながら、心なしか焦った顔つきをして艦長席を振り返った。 落ち着きを失わない声色で、ソロモンは、主任オペレーターオリヴィアに聞く。 「オリヴィア、ツァーデ小隊は?」 「はい、ミッションを急襲に移行して、降下体制に入っています。ですが、流石に迎撃が激しいようです」 オリヴィアの言葉が終わるか終わらないかのうちだった、レーダーレンジを覗いていたナナミが、再び大きく声を上げたのである。 「高エネルギー熱源感知、一機です!二時の方角・・・・・・・艦長!この熱源は、アーマード・バトラーです!」 「なにっ?」 輝くような銀色の髪から覗く美しい紅の瞳を細め、ソロモンは、厳しい顔つきのままナナミを振り返った。 現在、接近中のアーマード・バトラーは、恐らく、単体でイヴを救出するためのものだろう。 アーマード・バトラーなら、容易にそれが可能なずだ。 ふと、思案を巡らせたソロモンに向かって、ナナミは言葉を続ける。 「距離75690、この宙域に向かって急速接近中!」 ナナミの後を続けるように、新人オペレーター、マデリン・ダレルが、赤茶色の髪を揺らして艦長席を振り返った。 「ワダツミから救難シャトルが射出されました!救助信号が出されています!」 その言葉を聞いたソロモンの顔つきが変わった。 そして、この対空砲火の中にあっても、問題なく航行出来る状態のワダツミから、救難シャトルが射出されるなど余りにも不自然すぎる。 そう思った時、ソロモンの脳裏には、ふと、ある考えが浮かんだのだった。 今、人質となってワダツミに拘束されているのは、“イヴ”と思しき少女だけではない、豪胆にして優れた手腕を持つ、ギャラクシアン・バート商会のトーマ・ワーズロックも共に拘束されている。 もしトーマの自由が利いている状態なら、彼自らの手腕と頭脳で、おのずとワダツミを脱出することは可能かもしれない。 接近しつつあるアーマード・バトラー、そして、ワダツミから射出された救難シャトル・・・その全ての状況を考慮しながら、形の良い眉を眉間に寄せ、低めた声でソロモンは言う。 「ツァーデ小隊に通達。ワダツミから射出されたシャトル内部の生体反応を、大至急確認。救助対象者であれば、急襲ミッションを中止し、シャトルを回収して即時帰艦せよ」 「イエッサー、ツァーデ小隊に通達します」 オリヴィアの冷静な声がそう返答し、素早くコンソールパネル叩いた、正にその時である。 突然、強制回線が開かれると、セラフィムの大型モニターに、にわかには信じがたい光景が映し出されたのだった。 それを目にした瞬間、流石のソロモンですら、驚愕に紅の両眼を見開き、ブリッジオペレーター達が、ざわりと大きくどよめいたのだった。 今、大型モニターに映し出されているのは、戦闘員と思しき男に両脇を抱えられた、焦茶色の髪を持つ青年の姿である。 荒く息上げながら、薄らと開かれた知的な紺色の瞳が、ゆっくりとこちらを振り返る。 端整な顔は青ざめ、長身に纏われた青いつなぎは、膝の辺りまで鮮血で染まり、両腕を伝った鮮血がぽたぽたと床に滴り落ちていた。 「トーマ・・・・っ!?」 ソロモンは、その優美な顔をいつになく険しく歪めると、思わず、その青年、トーマ・ワーズロックの名を呼んだのである。 同時に、通信回線から、ワダツミの艦長ショウゴ・二カイドウの声が響いてくる。 『ガーディアンエンジェルに告ぐ。この男の命が惜しいなら、即時攻撃を停止せよ。繰り返す、ガーディアンエンジェルは、攻撃を停止せよ』 ショウゴのその言葉が聞こえたのか、通信モニターの中で、不意にトーマが大きく両眼を見開くと、息を荒げ掠れた声で叫ぶように言うのだった。 『ガブリエラは脱出した・・・っ!俺は、なんとかなるから・・・・っ!気にしなくていいから・・・・このまま、この船を撃て!このまま撃て――――・・・・っ!! ソロモン艦長―――――――・・・・・・っ!!』 重症の体で声を上げたせいか、むせ返ったトーマの唇から、どす黒い血の塊が滴り落ちる。 身体に銃弾を受けているトーマの出血は、見るからに相当量だ。 このままでは、トーマの命は確実に失われる。 「・・・・・・っ」 ソロモンは、形の良い眉を鋭く眉間に寄せながら、モニターの中で息を上げるトーマを見つめて、しばし沈黙した。 デボン・リヴァイアサンは、もはや捨て身なのだ。 元帥マルティン・デボンを奪還したワダツミは、ジルベルタ星系をいち早く離脱しなければならない。 トライト二ア艦隊の盾となる歌姫に逃亡された今、トライトニア艦隊艦隊が到着すれば、ワダツミは、その攻撃をまともに受けることになる。 強制回線は、そこで遮断され、通信モニターがブラックアウトしていく。 「ト、トーマさん・・・っ」 レーダー通信セクションのナナミが、両手で口元を覆ってへーゼルの瞳を潤ませる。 前で腕を組んだまま、鋭利な表情で何かを思案するソロモンに、オリヴィアが振り返った。 「艦長・・・っ!」 険しい顔つきのまま、ソロモンは、ゆっくりと口を開く。 「攻撃は・・・・・・続行する。右舷前方補充エンジン、及び、左舷後方補助エンジン出力120%、急速反転90度。両舷全速出力最大。このまま、ワダツミとの距離を詰める」 「イエッサー・・・っ!」 戸惑い気味ながらも、オペレーター達が一斉にソロモンに呼応する。 「ツァーデ小隊はワダツミから退避し、セラフィムの主砲射程圏内から即時離脱。ツァーデ小隊以外のレイバン部隊には、帰艦命令を出せ。全主砲、右反転45度。照準修正3.224、距離14840。目標、右舷前方、戦艦ワダツミ」 セラフィムのコントロールブリッジに、いつに無く重々しい緊張が張り詰める。 防御シールドに敵艦隊からのビームが命中し、暗黒の宇宙に凄まじい閃光を飛び散らした。 強固なシールドが軋みはじめる。 輝くような銀色の長い髪の下で、ソロモンの美しい紅の瞳が鋭利に細められた。 「主砲・・・・・・撃て!」 セラフィムに16基搭載された平射三連主砲が粒子を散らし、甲高い轟音を上げて一斉に発射されると、赤い閃光の帯が戦艦ワダツミに向かって一直線に闇を駆け抜けて行った。
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