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作品名:NEW WORLD〜交響曲第二楽章〜 作者:月野 智

第44回   【ACTX 砲撃のコンチェルト】5
            *
対空砲火を船体の上限に見ながら、戦艦ワダツミは最大出力を保ち、進路を塞ぐようにして急速反転したガーディアンエンジェルの戦闘空母、セラフィムへと迫っていった。
コントロールブリッジの艦長席で、ショウゴは鼻先で冷笑する。
セラフィムは、先程からひっきりなしに主砲を撃っているが、その攻撃目標から確実にワダツミを外していた。
それは、ワダツミが人質を取っているからに違いないだろう。
ガーディアンエンジェルの船の主砲は、一撃でシールドを貫けるほどのエネルギー強化型ビーム砲である。
それをまともに食らえば、例えこのワダツミであろうと大破することは明白だ。
そうなれば、人質の命がある保証はない。
“ハデスの番人”は、案外、甘い男だと・・・ショウゴは殊更愉快に思う。
端整な唇に冷笑を浮かべながら、ショウゴは、落着き払った口調で言うのである。
「メインエンジン、出力最大を保て。左舷補助エンジン出力80%。この邪魔な船と距離を詰め、至近距離から砲撃して進路を開く。主砲、及び、隊戦艦ミサイル発射用意」
「イエッサー!」
オペレーター達が、一斉にそう返答した、次の瞬間、ブリッジの巨大な風防上部を、ダークブラックの主翼に青い六芒星を掲げた9機の戦闘機が、凄まじい速度で横切っていったのである。
同時に、ワダツミの通信回線が再び強制的に開かれた。
大型モニターの通信ウィンドウに映し出されたのは、黒いパイロットスーツに身を包んだ一人の青年の姿であった。
ヘルメットシールドのせいで、顔はよく見えない。
ショウゴは、鋭利にその両眼を細める。
『こちらは、ガーディアンエンジェル、空母セラフィム所属ツァーデ小隊マキ少佐。
戦艦ワダツミに告ぐ、速やかに停船し人質を解放せよ。この警告に従わない場合、ツァーデ小隊は、強制的に貴艦を停船させ、降下を開始する。繰り返す、速やかに停船し人質を解放せよ。この警告に従わない場合、ツァーデ小隊は、強制的に貴艦を停船させ、降下を開始する』
それは、ガーディアンエンジェルからの三度目の警告であった。
しかし、それを告げた青年の声が、余りにもショウゴに似ていたため、一瞬、オペレーター達が怪訝そうに眉を潜める。
強制回線を開いてきた青年は、今、確かに“マキ少佐”と名乗ったはずだ。
ショウゴは、静かな声でイゴールに言う。
「回線を開け」
「イエッサー」
イゴールの指先がコンソールを叩くと、冷静だが冷淡な顔つきをしながら、ショウゴは低めた声で言うのだった。
「バイザーを上げろ、真木少佐」
『・・・・・』
大型モニターの中で、ガーディアンエンジェルのファイターパイロットが、ヘルメットシールドを上げた。
その瞬間、いつもは冷静を保っているワダツミのブリッジが、にわかにどよめいたのである。
凛と強い黒曜石の瞳が、モニター越しにショウゴの端整な顔を見つめすえている。
冷静だが、そこはかとない鋭さが漂うその表情。
切れ長の目元と、均整の取れた精悍な鼻筋。
額から眉間を抜け右目の下まで達する細い傷跡が、その精悍な鋭さを殊更助長していた。
ガーディアンエンジェルのファイターパイロットは、ワダツミの艦長、ショウゴ・二カイドウよりも幾分年少のようだが、その容姿は、ショウゴの容姿と、あまりにもによく似ていたのである。
電子戦に興じていたリリアンも、横目でその姿を見やり、驚いたように唇を半開きにしてしまう。
ショウゴは、肘掛に頬杖を付きながら、ガーディアンエンジェルの若き少佐の顔を見つめると、ふんと鼻先でせせら笑った。
随分と大人びてはいるが、その顔には、子供の頃の面影がまだ残っている、そして、ショウゴ自身の容姿とよく似ているのは確かなことだ。
強制回線を開いてきたこの青年は、間違いなく、14年前に生き別れた実の弟、真木 陵太郎だ。
だが、不思議と懐古の念が沸いてこないのは、きっと、お互いに特殊な立場で再会したからに他ならないのだろう。
「陵太郎、久しぶりだな。まさか、おまえが生きていて、ジルーレを壊滅させた、ガーディアンエンジェルの少佐になっていたとはな」
『それはこちらの台詞だ。生きていたと思ったら、デボン・リヴァイアサンの艦隊司令だなんてな、そっちの方が驚きだ。大人しく停船して、人質を解放しろ。警告に従えば、ガーディアンエンジェルは、これ以上攻撃を加えることはない』
「随分と偉くなったな、陵太郎?実の兄に向かって、大した物の言いようだ」
ツァーデ小隊隊長リョータロウ・マキは、そう言って冷笑する実兄に向かって、冷静だが、鋭い声で言うのである。
『兄だろうが弟だろうが、そんなこと今は関係ない。そちらの返答は?』
「答える前に、一つ聞きたい。ガーディアンエンジェルは、ワダツミが拘束している捕虜に、一体何の用がある?今拘束しているのは、ガーディアンエンジェルとは無関係の人間のはずだ」
『それに答える義務はない・・・・返答は?』
ショウゴは、成長した実弟の顔を冷淡な視線で真っ直ぐに見やると、喉を鳴らして低く笑った。
「ワダツミは、警告を拒否する。そちらが、本当に攻撃を停止する保証はないからな」
『そうか・・・・それなら、ツァーデ小隊は、貴艦に対して強行手段を取る』
「やれるものなら、やってみろ、陵太郎。そちらが余計な手出しをすれば、人質の命が無くなるだけの話だ」
その言葉と同時に、ショウゴは、一方的に通信回線を切った。
正にその瞬間だった、主任オペレーターリンゲルが、驚愕しながら大きく声を上げたのである。
「艦長!緊急事態です!人質が・・・人質の一人が、メディカルセクションの脱出シャトルを使って、船外に逃亡した模様です!」
「なに・・・・っ?」
冷静だったショウゴの顔が、にわかに驚愕の表情に歪んだ。
リンゲルは言葉を続ける。
「逃げ出したのは女の方で、男の方は、戦闘員の銃撃で重症を負ったとの報告です」
「・・・・・・・トーマ、おまえの仕業か」
苦々しくそう呟いたショウゴの黒曜石の瞳が、研ぎ澄まされたナイフの如く閃いた。
その言葉の後、レーダーを覗いていたイゴールが声を上げた。
「艦長!高エネルギー熱源一機、この宙域に向かって急速接近中・・・・この識別コードは・・・アーマード・バトラーです!!」
「なんだとっ?」
アーマード・バトラーが来ると言うことは、惑星トライトニアの軌道上で待機するトライトニア艦隊もまた、確実に動き出すという事だ。
先程以上に鋭い声色で、ショウゴは言う。
「人質の画像をブリッジに回せ」
ショウゴは、その端整で精悍な顔を殊更険しく歪め、風防ごしに見えるガーディアンエンジェルの戦闘空母を睨むように見たのだった。
戦局は、ここから大きく動くことになる。


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