* 対空砲火を船体の上限に見ながら、戦艦ワダツミは最大出力を保ち、進路を塞ぐようにして急速反転したガーディアンエンジェルの戦闘空母、セラフィムへと迫っていった。 コントロールブリッジの艦長席で、ショウゴは鼻先で冷笑する。 セラフィムは、先程からひっきりなしに主砲を撃っているが、その攻撃目標から確実にワダツミを外していた。 それは、ワダツミが人質を取っているからに違いないだろう。 ガーディアンエンジェルの船の主砲は、一撃でシールドを貫けるほどのエネルギー強化型ビーム砲である。 それをまともに食らえば、例えこのワダツミであろうと大破することは明白だ。 そうなれば、人質の命がある保証はない。 “ハデスの番人”は、案外、甘い男だと・・・ショウゴは殊更愉快に思う。 端整な唇に冷笑を浮かべながら、ショウゴは、落着き払った口調で言うのである。 「メインエンジン、出力最大を保て。左舷補助エンジン出力80%。この邪魔な船と距離を詰め、至近距離から砲撃して進路を開く。主砲、及び、隊戦艦ミサイル発射用意」 「イエッサー!」 オペレーター達が、一斉にそう返答した、次の瞬間、ブリッジの巨大な風防上部を、ダークブラックの主翼に青い六芒星を掲げた9機の戦闘機が、凄まじい速度で横切っていったのである。 同時に、ワダツミの通信回線が再び強制的に開かれた。 大型モニターの通信ウィンドウに映し出されたのは、黒いパイロットスーツに身を包んだ一人の青年の姿であった。 ヘルメットシールドのせいで、顔はよく見えない。 ショウゴは、鋭利にその両眼を細める。 『こちらは、ガーディアンエンジェル、空母セラフィム所属ツァーデ小隊マキ少佐。 戦艦ワダツミに告ぐ、速やかに停船し人質を解放せよ。この警告に従わない場合、ツァーデ小隊は、強制的に貴艦を停船させ、降下を開始する。繰り返す、速やかに停船し人質を解放せよ。この警告に従わない場合、ツァーデ小隊は、強制的に貴艦を停船させ、降下を開始する』 それは、ガーディアンエンジェルからの三度目の警告であった。 しかし、それを告げた青年の声が、余りにもショウゴに似ていたため、一瞬、オペレーター達が怪訝そうに眉を潜める。 強制回線を開いてきた青年は、今、確かに“マキ少佐”と名乗ったはずだ。 ショウゴは、静かな声でイゴールに言う。 「回線を開け」 「イエッサー」 イゴールの指先がコンソールを叩くと、冷静だが冷淡な顔つきをしながら、ショウゴは低めた声で言うのだった。 「バイザーを上げろ、真木少佐」 『・・・・・』 大型モニターの中で、ガーディアンエンジェルのファイターパイロットが、ヘルメットシールドを上げた。 その瞬間、いつもは冷静を保っているワダツミのブリッジが、にわかにどよめいたのである。 凛と強い黒曜石の瞳が、モニター越しにショウゴの端整な顔を見つめすえている。 冷静だが、そこはかとない鋭さが漂うその表情。 切れ長の目元と、均整の取れた精悍な鼻筋。 額から眉間を抜け右目の下まで達する細い傷跡が、その精悍な鋭さを殊更助長していた。 ガーディアンエンジェルのファイターパイロットは、ワダツミの艦長、ショウゴ・二カイドウよりも幾分年少のようだが、その容姿は、ショウゴの容姿と、あまりにもによく似ていたのである。 電子戦に興じていたリリアンも、横目でその姿を見やり、驚いたように唇を半開きにしてしまう。 ショウゴは、肘掛に頬杖を付きながら、ガーディアンエンジェルの若き少佐の顔を見つめると、ふんと鼻先でせせら笑った。 随分と大人びてはいるが、その顔には、子供の頃の面影がまだ残っている、そして、ショウゴ自身の容姿とよく似ているのは確かなことだ。 強制回線を開いてきたこの青年は、間違いなく、14年前に生き別れた実の弟、真木 陵太郎だ。 だが、不思議と懐古の念が沸いてこないのは、きっと、お互いに特殊な立場で再会したからに他ならないのだろう。 「陵太郎、久しぶりだな。まさか、おまえが生きていて、ジルーレを壊滅させた、ガーディアンエンジェルの少佐になっていたとはな」 『それはこちらの台詞だ。生きていたと思ったら、デボン・リヴァイアサンの艦隊司令だなんてな、そっちの方が驚きだ。大人しく停船して、人質を解放しろ。警告に従えば、ガーディアンエンジェルは、これ以上攻撃を加えることはない』 「随分と偉くなったな、陵太郎?実の兄に向かって、大した物の言いようだ」 ツァーデ小隊隊長リョータロウ・マキは、そう言って冷笑する実兄に向かって、冷静だが、鋭い声で言うのである。 『兄だろうが弟だろうが、そんなこと今は関係ない。そちらの返答は?』 「答える前に、一つ聞きたい。ガーディアンエンジェルは、ワダツミが拘束している捕虜に、一体何の用がある?今拘束しているのは、ガーディアンエンジェルとは無関係の人間のはずだ」 『それに答える義務はない・・・・返答は?』 ショウゴは、成長した実弟の顔を冷淡な視線で真っ直ぐに見やると、喉を鳴らして低く笑った。 「ワダツミは、警告を拒否する。そちらが、本当に攻撃を停止する保証はないからな」 『そうか・・・・それなら、ツァーデ小隊は、貴艦に対して強行手段を取る』 「やれるものなら、やってみろ、陵太郎。そちらが余計な手出しをすれば、人質の命が無くなるだけの話だ」 その言葉と同時に、ショウゴは、一方的に通信回線を切った。 正にその瞬間だった、主任オペレーターリンゲルが、驚愕しながら大きく声を上げたのである。 「艦長!緊急事態です!人質が・・・人質の一人が、メディカルセクションの脱出シャトルを使って、船外に逃亡した模様です!」 「なに・・・・っ?」 冷静だったショウゴの顔が、にわかに驚愕の表情に歪んだ。 リンゲルは言葉を続ける。 「逃げ出したのは女の方で、男の方は、戦闘員の銃撃で重症を負ったとの報告です」 「・・・・・・・トーマ、おまえの仕業か」 苦々しくそう呟いたショウゴの黒曜石の瞳が、研ぎ澄まされたナイフの如く閃いた。 その言葉の後、レーダーを覗いていたイゴールが声を上げた。 「艦長!高エネルギー熱源一機、この宙域に向かって急速接近中・・・・この識別コードは・・・アーマード・バトラーです!!」 「なんだとっ?」 アーマード・バトラーが来ると言うことは、惑星トライトニアの軌道上で待機するトライトニア艦隊もまた、確実に動き出すという事だ。 先程以上に鋭い声色で、ショウゴは言う。 「人質の画像をブリッジに回せ」 ショウゴは、その端整で精悍な顔を殊更険しく歪め、風防ごしに見えるガーディアンエンジェルの戦闘空母を睨むように見たのだった。 戦局は、ここから大きく動くことになる。
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