* 戦艦ワダツミのブリッジオペレーター達は、進行方向有視界の右舷に現われてきたガーディアンエンジェルの大型母艦を目の当たりにし、皆、一様に眉を潜めていた。 この船は、“ハデスの番人”と呼ばれるあの青年の船に他ならない。 何故、こんな所にこの船が現われるのか、その理由を知る者はこのブリッジにはいない。 艦長席のショウゴは、肘掛に頬杖を付いたまま、長い前髪から覗く黒曜石の瞳を鋭く細めながら、その真相を探るべく思案を巡らしていた。 そんなショウゴの聴覚に、通信士イゴールの声が響いてくる。 「艦長、あの民間機が戦線を離脱していきます」 ショウゴは「そうか」と答えると、にわかに厳しい顔つきをして、冷静だが鋭利な響きのする声で言葉を続けた。 「親衛艦隊全艦に通達、“ハデスの番人”を迎撃する。全艦、180度急速反転。アカツキを中心にライン編隊を組め。編隊形勢完了後、出力最大で“ハデスの番人”と距離を詰めつつ、一斉砲撃開始」 「イエッサー!」 イゴールの返答と同時に、主任オペレーター、リンゲル・モルガンが、風防の向こう側で煌く銀色の閃光を肉眼で確認しながら、静かに言うのだった。 「前方敵艦より、ファイター(戦闘機)と思しき機体が発進した模様。レーダー及び、熱源感知センサーは沈黙。ステルス機かと思われます。目視確認で9機。ワダツミに張り付いているファイターと同型機体と推測します」 鋭利に両眼を煌かせながら、ショウゴは、ふと、先程、NW−遺伝子児が言っていたことを思い出して、相変わらずの冷静さを保ちながら言ったのである。 「有視界砲撃で墜とせ、一機残らずだ。主砲、右反転75度、対戦艦ミサイルユニット同角反転。ワープ可能宙域に到達するまで、“ハデスの番人”を迎撃する。メディカルセクションに戦闘員を行かせて、人質の画像をモニターに回せ。“ハデスの番人”が、わざわざ此処に現われるほどだ、あの人質のどちらかが目的だろう」 「イエッサー」 リンゲルはそう返答し、素早くコンソール叩いて艦内の戦闘員に司令を出す。 それと同時に、ワダツミの主砲が75度で反転した。 ショウゴは、鋭利な声で言う。 「撃て・・・っ!」 ワダツミの全主砲に青いエネルギー粒子が浮かぶと、甲高い轟音を上げた四連主砲が一斉にビームの閃光を暗黒の闇に迸らせた。 ワダツミの後方でライン編隊を組んだ艦隊もまた、宇宙戦闘空母セラフィムに向かって、凄まじいビームの閃光を一斉に発射したのである。 広大な宇宙空間をかける無数のビームの先端が、セラフィムのシールドに当って離散すると、それに追随するように、白い帯を引いた対戦艦ミサイルが次々と着弾し、爆音と白煙を上げながら暗黒の闇を震わせた。 セラフィムの船体に16基装備された平射三連主砲が反転し、その砲門が赤いエネルギー粒子の蛍を散らすと、一撃でシールドを打ち破るエネルギー強化型ビームの閃光が、デボン・リヴァイアサン親衛艦隊に向けて一斉に発射されたのである。 青と赤の閃光が宇宙の狭間で擦れ違い、互いの船体に向けて闇を貫いていく。 「全艦、出力最大、下限に急速回避」 ショウゴの声と共に、ライン編隊を組む親衛艦隊がバーニアを噴き上げて急速降下していく。 その上限を、赤く閃く高エネルギービームが通り過ぎていった。 被弾した艦は皆無。 ショウゴは、精悍な唇の角でにやりと笑う。 宿敵とも言うべき“ハデスの番人”との攻防は、こうして幕を上げた。 だが、この時、ワダツミのメディアカルセクションで、とんでもない騒ぎが起こっていたことに、まだショウゴは気付いていなかったのである。
* 40名ものオペレーターを抱える戦闘空母セラフィムのコントロールブリッジが、斜めに傾いた。 デボン・リヴァイアサンの攻撃は猛威に等しい。 何としても、ワダツミはこの宙域から離脱を謀るつもりなだろう。 セラフィムの艦長レムリアス・ソロモンは、ワンセクション高い艦長席に腰を落ちつけたまま、美しい紅の瞳を猛禽類の如き鋭さで閃かせつつ、端整な唇の角を小さくもたげたのである。 「大したものだ・・・・・セラフィムの主砲を、全艦で回避するとはな。ショウゴ・二カイドウという男は、やはり優秀な指揮官のようだ」 「艦長、感心している場合ではありませんよ。ツァーデ小隊、まもなくワダツミの上限に到達。第二波きます」 主任オペレーター、オリヴィア・グレイマンが、赤いルージュの引かれたふくよかな唇を困ったようにもたげながら、冷静な口調でそう告げた。 ソロモンは、僅かばかり愉快そうに紅の瞳を細めると、コンソールパネルせり上がった主砲の照準レンジを覗き込みながら、落着き払った声色で言うのだった。 「第二次迎撃体制を取れ、レイバン部隊、アレフ、ベート、ギメル小隊出撃準備。各小隊は、発進後、交戦宙域を迂回して敵艦隊の後方に回り込め」 敵艦隊はハイド粒子を散布しているため、自動照準を使う事ができない。 こういう戦況において、主砲の照準修正をするのは、常にソロモン自身の頭脳であった。 眼前のモニターに、滝のように流れてくる詳細な敵艦隊の位置データを瞬時に記憶し、ソロモンは、自らの頭脳で寸分違わぬ射影を導き出してしまうのである。 コンピュータに計算させるより、自らの頭脳を用いた方が、より早く正確であるということなのだ。 「全主砲、照準修正2.804、距離19345・・・ロウ、撃て」 「イエッサー!」 火器担当オペレーター、ロウ・アンエイがソロモンの声に返答し、主砲発射トリガーを思い切り引いた。 セラフィムの平射三連主砲が、甲高い轟音を上げて、赤いエネルギービームを虚空に迸らせる。 だが、その目標からは、ワダツミだけが外されていた。 何故なら、現在ワダツミには、“イヴ”と思しき少女と、そして、ギャラクシアン・バート商会の専務、トーマ・ワーズロックが拘束されているからに他ならない。 ツァーデ小隊がその二人の救助を完了するまで、事実上、セラフィムはワダツミには手出しできないのだ。 セラフィムの放った赤いビームの閃光とすれ違うように、敵艦隊から青いビームの閃光が、セラフィムのシールドに命中して凄まじい閃光を上げた。 コントロールブリッジが大きく斜めに傾くが、オペレーター達は極めて冷静である。 大型モニターの中で、ライン編隊を組んだ7隻の戦艦が、急速に左舷へと移行し、再びビームの閃光を回避してしまった。 セラフィムの攻撃を、こんなにも見事にかわした艦隊など、ソロモンの経験の中でも数えるほどしかいない。 この艦隊を指揮するショウゴ・二カイドウという男は、本当に捨て置けない人物だと、ソロモンは、今更ながらに思うのだった。 「敵艦隊、回避しました。速度2200Sノットで急速接近中・・・・第三波来ます」 オリヴィア・グレイマンの冷静な声の後、ソロモンは、照準レンジを覗き込んだまま鋭利な表情で言う。 「照準修正2.221、距離19233・・・主砲及び対戦艦ミサイル、撃て」 セラフィムの平射三連主砲が、エネルギー強化型の赤いビームを宇宙空間に迸らせると、対戦艦ミサイルユニットが反転し、爆音と白煙を上げて次々と弾頭を発射していく。 その時、レーダー通信セクションで、ナナミ・トキサカが艦長席を振り返った。 「艦長、戦艦ワダツミ、まもなくワープイン可能領域に到達します!」 「左舷前方補助エンジン、及び、右舷後方補助エンジン出力120%、急速反転90度。ワダツミの進路を塞ぐ」 ソロモンの声に呼応するように、機関長ビル・マードックが声を上げる。 「左舷前方補助エンジン、及び、右舷後方補助エンジン、出力120%!セラフィム、急速反転90度!」 セラフィムの巨大な船体が、急速に向きを変えていく。 そのシールドに、凄まじい閃光を上げて次々とビームの閃光が命中し虚空に離散すると、続け様に着弾した対戦艦ミサイルが、宇宙を震わす爆音を上げて大破した。 轟く轟音と共に、セラフィム船体が大きく横に揺れる。 オペレーター達が、コンソールパネルにすがりつくようにして、咄嗟に自分の体を支えた。 ソロモンは、優美なその顔を猛禽類のごとき鋭い表情で彩りながら、大きく声を上げたのである。 「照準修正4.878、距離18980・・・・・主砲、撃て!」 セラフィムの平射三連主砲に赤い粒子が舞い、甲高い轟音を上げて豪速で闇を貫いていく。 ライン編隊を組んだ敵艦隊が、左舷に急速回避。 だが、それを読んでいたソロモンは、わざと照準をずらして主砲を撃たせたのだ。 青と赤の閃光が、広大な宇宙空間ですれ違う。 セラフィムから発射された強化型エネルギービームの先端が、左舷に回避した敵艦隊四隻のシールドを豪速で貫いていく。 赤い閃光に装甲を貫かれた四隻の敵戦艦が、大きく横に傾くと、その船体が膨張しオレンジ色の光を迸らせ、凄まじい爆音と白煙が吹き上がけながら、宇宙の闇を震わすような大爆発を起す。 だが、生き残っている艦からの激しい対空砲火が、セラフィムへと豪速で迫り来る。 その戦況はまだ決まる様相を見せない。
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