* 惑星トライトニアの艦隊司令本部に、軌道上で待機するコーネル第一艦隊からその入電が入ったのは、トライトニア標準時間で午後11時のことだった。 トライトニアの大統領ジェレミー・バークレイは、僅かばかり驚愕した顔つきで、その一報を伝えてきた女性オペレーターに聞き返したのである。 「なんだと?ガーディアンエンジェルの船が、ジルベルタ星系にワープアウトしてきただと?」 「はい、コーネル艦隊から送信されてきたデータは、間違いなく、ガーディアンエンジェルの船のものです。デボン・リヴァイアサンの艦隊と交戦する模様です」 バークレイは、細い顎を片手でつまみ、実に腑に落ちない顔つきをして唸るように言うのだった。 「何故ガーディアンエンジェルの船が、わざわざジルベルタ星系に来て、あのテロリストの艦隊と交戦するんだ?」 「そ、そこまでは・・・・判りかねますが、いかがいたしましょう?バークレイ閣下?」 「L・オーディンは今どこにいる?」 「はい、まもなく、惑星フェンリルの軌道上に到達するかと思われます」 「コーネル第一艦隊は、全艦、速度を上げて交戦宙域に迎え。オーディンに人質を救助させたら、テロリストごとガーディアンエンジェルの船も撃沈させる!」 「イエッサー」 女性オペレーターは刻みよくそう答え、モニターに向き直ると素早くコンソールパネルを叩いたのだった。 バークレイは、細い眉を眉間に寄せたまま、蛇のようにぎらつく目を鋭利に細めた。 何故、ガーディアンエンジェルの船が、デボン・リヴァイアサンと交戦する必要があるのか・・・どうしても腑に落ちない。 ジルベルタ星系に足を踏み入れればどういう事になるのか、ガーディアンエンジェルが知らないはずもないだろう。 何かを思案しながら前で腕を組むと、バークレイは、司令本部の大型モニターに映るジルベルタ星系のグラフィックを睨むように見たのである。 そこに表示されたコーネル第一艦隊が、急速に速度を上げて、惑星フェンリルへと向かっていく。 ガーディアンエンジェルの戦闘空母セラフィムと、デボン・リヴァイアサン親衛艦隊の戦況は、まだ動いてはいない。
* ジルベルタ星系第六惑星フェンリル。 その軌道上で、ギャラクシアン・バート商会の武装高速トランスポーター『バート』は、戦線離脱体制に入っていた。 それは、相変わらずコンソールを叩いているショーイが、通信回線から聞こえてきたレムリアス・ソロモンの警告に対して、「じゃぁ、一旦、退がろうか」と、そんな一言を口にしたためである。 セラフィムの艦長レムリアス・ソロモンが、わざわざ敵対しているトライトニアに飛び込んできたのだ、此処は、セラフィムに任せた方が得策であることを、ショーイは良く知っている。 「バートは、フェンリルの軌道上で待機する。オリハラル粒子サイクロン砲のロックは解除したから、とりあえず、何があってもいいように発射シークエンスは続行しておいて」 「了解!」 ショーイの言葉に刻みよく返答して、フランクは、再び、オリハラル粒子サイクロン砲の起動画面をモニターに表示したのだった。 既に、奇妙なダンスを踊る人型連隊は消えている。 ショーイと、ワダツミの電子戦オペレーターの攻防はまだ続いているが、それは、セラフィムに対して、このオペレーターが余計な横槍を入れないためのショーイなりの気遣いだ。 ショーイと対等に渡り合えるハッカーなんて、そうそういるものではない。 このハッカーがセラフィムのコンピュータに侵入すれば、いくら優秀なオペレーターを抱えるセラフィムでも、どこかしらの計器は異変をきたすだろう。 トラップコードを排除する面倒は否めない。 この戦局に決着がつくまで、ショーイと、そして、ハッキングの天才少女の攻防は続くことだろう。 尤も、それを、どこか愉快に楽しんでいるのは事実であるのだが。 レーダーレンジを覗いていたルツが、そんなショーイをゆっくりと振り返った。 「電子戦で、まともにあなたと渡り合える人間がいたなんてね・・・・・・奇跡だわ」 そう言ったルツを横目でちらりと見やって、ショーイは、無言のまま軽く口角をもたげたのである。 絶対面白がってる・・・っ ショーイの表情から、そんな確信を得たルツは、思わず、呆れたようにため息をつくのだった。 鮮やかなブルーの装甲板を持つバートの船体が、ターボジェットを点火したまま、惑星フェンリルの裏側へと急速に離脱していく。 バートの熱源感知レーダーが、惑星トライトニアから飛び立った金色の武闘神を感知するのは、もうまもなくである。
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